第二章
第1話 暗黒神様、ウサ耳を助ける
私が外界へ出てプルミエディアと出会い、ハンターになってから1ヶ月ほど経った。
ひたすらリスキークエストばかりを受け、レラとプルミエディアを鍛える日々。もちろん依頼は全て成功させているので、ランキングの順位がかなり上がった。それも、異常な程に早いらしく、フィリルが驚いていたな。
ああ、そうそう。フィリルと言えば、奴はつい先日受付嬢としての業務を終え、ハンターに復帰した。レイグリードもさすがに動きを見せる頃だろうし、そう遠くないうちにこの街を出ようか。
「それでは、確認といこう」
「うん」
「はい、ご主人様」
流水亭の酒場でテーブルを囲い、話し合う。
メンバーは当然、私、プルミエディア、レラの三人だ。
さて、何を確認するかというと……。
「私の順位は現在36万3000位。フィリルも言っていたが、1ヶ月でここまで順位を上げるのは異常らしいな」
「そりゃそうよ。リスキークエストなんて、普通は年に1~2回程度しか受けないんだし」
「そのおかげで私たちも随分上がりましたね」
「あたしが15万7832位で、レラちゃんが42万5568位。この分だと本当にサウザンドナンバーズも夢じゃないわね……」
「あまり嬉しそうではないな?」
「だって、ほとんどフィオグリフのおかげなんだもん。あたし、寄生してるみたいじゃん」
まぁ順位はそんな感じになっている。
ちゃんと依頼をこなした後は休日を入れる事にしてはいるが、リスキークエストだけしかこなしていないため、報酬の総量がエラい事になっているのだ。
プルミエディアとレラは、少し申し訳なさそうな顔をしている。こいつらも結構強くなったし、今なら私がいなくてもかなり上位を狙えると思うんだがな。
「申し訳ありません、ご主人様……。
本来であれば私がサポートするべきなのに、力が至らず……。情けない限りです……」
「あたしも、あなたに頼りっきりで……。
ごめんね、フィオグリフ……」
「「はぁ……」」
う、うーむ。
二人がものすごい勢いで落ち込んでいる。
なんでもかんでも私が片付けすぎたか。
こちらでの生活が楽しくて、ついつい張り切りすぎてしまった。
パーティーなのだし、彼女たちの役割を奪ってしまったのは悪手だったな。
こうなると、私が取るべき次の手は……。
「二人とも、ダンジョンに行かないか?」
「「ダンジョンに?」」
私の提案に、二人が揃って首を傾げた。
というのも、今まで私がダンジョンに潜るのを避けてきたため、まだ一度も行ったことがないのだ。
何故かというと、別に怖いからとかそういうわけではない。ただ、トラップだとかを探知し、回避するのは面倒だし、万が一はぐれてしまうと二人を守りにくくなってしまう。
だが、少々過保護だったかもしれん。
ここは一つ、冒険してみようではないか。
「うむ。ただし、今回私は極力手出しをしない。お前たち二人の手で乗り越えて見せろ」
「あたしたち……」
「二人の手で?」
「ああ、そうだ」
「「…………」」
自信がないのか、顔を見合わせる二人。
今のこいつらならば、多少難易度の高いダンジョンでも踏破可能なはずだ。私が余計な手出しをせずとも、特に問題はないだろう。
「大丈夫だ。お前たちを鍛えてやっているのは私だぞ? 生半可なダンジョンなど恐れるに足らんよ」
「フィオグリフ……」
「……ご主人様からの期待に、必ず応えて見せます!」
「うむ。プルミエディア、お前はどうだ」
「……うん。やってみる」
「そうか。ならばオフィスに向かうとしよう」
「うん!」
これで自信を取り戻してくれればいいのだが。ああ、そうそう。レラが使う武器だが、これがなかなかに面白い。
先日ザザーランドがエルフの国から多数の武具を仕入れてきたのだが、その中に昔レラが使っていた物と同じタイプの品があったのだ。
少々高かったが、半値ほどに値切った。品質は保証すると言っていたし、問題はないはず。
ザザーランドの奴が奴隷以外の商品を取り扱っているのが意外だったな。
奴と会うときはプルミエディアと離れ、レラを買ったときと同様に『リリーナ』に化けているため、オフィスの連中に取引を気取られる心配はない。何故そんな事をしているかというと、ザザーランドは違法な手段で商品を仕入れているらしく、オフィスにバレると面倒なことになるからだ。本人から聞いたし、嘘は言っていなかったので間違いはない。
さて。それでは、オフィスに行くか。
◆
オフィスに入ると、中で何やら揉めていた。
しかもその渦中に居たのは、ハンターに復帰したばかりのはずのフィリル。
あいつは何をしているのだ。
「だ~か~ら~!
わたしはあなた方のお仲間になんかなる気はないって言ってるんです!
しつこいですよ~!」
「ガタガタうるせえんだよ、『トラブルラビット』め! いいから申請を受けろってんだ!」
「い~や~で~す~! この二枚目半!」
「んだとォ!?」
フィリルと怒鳴り合っている相手の方を見てみる。中途半端に美形だが、口が悪い男だ。
その後ろには、モヒカン頭の野生児や、スキンヘッドの巨漢など、明らかに素行が悪そうな者たちが立っている。
どうやら、ハンターに復帰したばかりでパーティーメンバーがいないフィリルを、強引に自分のパーティーへと誘っているようだ。
それほどに彼女の腕がいいのか、それともその体が目的なのか。まあ後者っぽいな。
それにしても、『トラブルラビット』か。
まあ物を壊したりしてよく依頼者に怒られていると言っていたからな。実にフィリルらしい二つ名だ。
おっ、二枚目半と呼ばれた男が剣を抜いたぞ。オフィス内での抜刀は厳禁のはずだが。
「多少痛い目見ねえとわかんねえらしいな!」
「あなたバカですか~? 事もあろうにハンターズオフィスの本部で抜刀するなんて」
「へっ、関係ねえよそんなもん!」
「は?」
明らかにバカにした表情になるフィリル。
端から見ていても割と腹立つな。
今にも切りかかろうとしている男を前にして、随分と強気な事だ。
しかし、関係ないとはどう言うことだ?
そもそもあの男、何者だ?
ここでは見ない顔だが……。
周囲のハンターたちは、ほとんどがフィリルの応援に回っている。
いや、 盛り上がっていないで止めろよ。
特に大声を張り上げているおっさんども。
普段酒ばかり飲んでいるくせに、こういう時に活躍しないでどうする。
「おらぁ!」
「わぁっ!? 正気ですかっ!? 抜刀しただけでなく、攻撃までっ! 通報しますよ!」
「ははは、してみろウサギ女!」
ついに二枚目半が攻撃を仕掛けた。
が、ひらりと躱すフィリル。
表情と声は驚いている様子だが、動きは至って冷静だ。なるほど、腕はいいようだな。
「どうして誰も止めないのでしょう?」
「知らん。が、そろそろ私が行くか」
「あの男、どこぞの大貴族様の息子よ。何かあっても父が揉み消してくれるからって、ああやって大暴れしているの」
「なるほどな。親の七光りか」
「うん。でも、本部内でコレはやりすぎね。
さすがに総支配人相手じゃ、その大貴族様もどうしようもできないわ」
「アレはそれも理解していないと?」
「でしょうね」
だからあんなに好き放題しているのか。
恐らく、他の街でも似たようなことをしてきたのだろう。だが、ここはハンターズオフィスの総本山だ。今までのやり方が通じるほど温くはない。その程度もわからん馬鹿なのだな。
「おっと! 遅い遅い~」
「くっ……このアマァ……!」
余裕の表情で攻撃を避け続けるフィリル。
二枚目半は、それが気に食わないらしい。
とうとう仲間たちにまで攻撃命令を下した。
これは案外、私が手を出さなくてもいいかもしれん。面白い見世物だ。
「暴力反対! ですよ~」
「てめえが言うな!」
「さて何の事やら~」
「この、この!」
「坊ちゃん! こいつ、動きが速すぎます!」
「泣き言言ってんじゃねえ! 親父に言いつけるぞこの野郎!」
数は増えたものの、相変わらずフィリルは余裕綽々だ。いつまで経っても攻撃が当たらず、二枚目半の顔が段々と赤くなっていく。
うむ、飽きたな。もう助けてやろう。
「あっ、ご主人様!」
レラの声を背で受け、フィリルと二枚目半たちの間に割って入る。
そして、迫り来る攻撃を全て素手ではたき落とした。抜刀してはいかんからな。
レイグリードに頼めば見逃してくれるだろうが、わざわざそんな事をするのも、な。
「やめておけ、小僧共。貴様らの愚鈍な動きではこの女を捉えることは不可能だ」
「な、なんだてめえ!?」
「フィオグリフさんっ!」
「ぼ、坊ちゃん! こいつ、最近噂になってる奴ですよ! リスキークエストばかりを受け、その全てを成功させてきたという……!」
「こ、こいつが……!?」
モヒカン頭が、二枚目半に向けてそう言った。まさかコイツ、雇われのハンターとかじゃなく、某大貴族様の家の者なのか? このナリで?
そして、二枚目半がしばらく睨みつけて来るも……。
「ケッ! 帰るぞてめえら!」
「はっ!」
「てめえ、親父に言いつけてやるからな!」
「……何故私に言うのだ」
捨て台詞を放ち、二枚目半たちは去っていった。何故フィリルではなく私なのだ。
「「キャーーーッ! カッコイイィ~! 」」
「いいぞ~、よくやった~!」
「フィオグリフさん、格好いいわぁ~!」
「ホントホント!」
「あ~ん、私も守って~!」
そして、周りから歓声が湧いた。
黄色い声も結構聞こえる。
だから、何故私なのだ。
「フィオグリフさん! ありがとです~!」
「お前も妙な奴に絡まれたな」
「あはは、ホントですねえ~」
「何かやらかしたのか?」
「い、いえ!? 別に何も!」
「…………」
怪しい。フィリルの奴、怪しすぎる。
まさか、復帰して早々に……?
「まぁいいか。今後は背後に気を付けろよ」
「あっ、ちょっと待って下さい!」
「なんだ?」
歓声が湧く中、受付に向かおうとした私だったが、何故かフィリルに呼び止められた。
プルミエディアとレラも、彼女に手招きされている。
「どうしたんですか、フィリルさん?」
「ご主人様、素敵でした」
「うむ? そうか?」
人混みをかき分け、二人が近寄ってくる。
プルミエディアはフィリルに声をかけ、レラは私に笑顔を向けてきた。
そして歓声がようやく落ち着き、人々が周りに散っていくのを見計らって、フィリルが口を開く。
「よかったら、私もあなた方のパーティーに加えていただけませんか~?」
何かと思えば、パーティー申請だった。
まあソロでやっていくのもキツかろう。
今回のようなこともあるしな。
「私は構わん」
「もちろんあたしも!」
「ご主人様の御意志に従うまでです」
「じゃあオッケーって事で! 早速受付に行きましょうか~」
「うむ。……うむ?」
む、困ったな。
ダンジョン攻略を二人に任せるつもりだったのだが、コイツはどうしようか。
……まぁ、後で打ち合わせするか。
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