第一章エピローグ 魔王アスガルテ


 レネゲイト共和国、首都ファンガスシティから20kmほど離れた場所に、街がある。

いや、街があった。今は、ワシら魔王軍が占拠しているため、人っ子一人いないんじゃ。


「陛下」

「なんじゃ」

幻魔の宝玉ゲート・オブ・デモンの在処が判明しました。やはりこの国の首都にあるようです」

「うむ、そうか。ご苦労じゃったな」

「はっ!」


 ワシの部下が報告してきた。

 あの暗黒神様がお作りになられたという秘宝、幻魔の宝玉ゲート・オブ・デモン

アレの効果は凄まじい。どうやら世界にばらまかれているのは劣化コピーらしいのじゃが、それでも絶大な効力を発揮する。

 ワシ自身体感済み・・・・じゃから、自信を持ってそう言える。あの御方はさすがじゃのう。


「陛下っ!」

「今度は何じゃ?」


 別の部下が、慌てた様子で現れた。

この者には、暗黒神様の神殿に纏わりつく不届き者がいないか、監視させていたと思うのじゃが。


「暗黒神様が、神殿からお出かけになられました! どうも、人間に化けて生活しているようですが……」

「な、なんじゃとっ! それはまことか!?」

「間違いありませぬ! 実際に神殿の内部を探ってみましたが、暗黒神様のお姿がどこにも見当たりませんでした」

「な、ななな……」


 なんじゃとぉぉおおぉっ!?

バカな! ワシが生まれてからこの方、一度たりともあの御方が外界へ出てきた事はない!

 こうしてはおれん、すぐに暗黒神様にプロポーズせねば! いやいや、それは時期尚早か? 第一、今のワシでも返り討ちに遭うのが関の山じゃろうし……。


 ああ、何故魔族のプロポーズは勝負を仕掛けて勝利しなければならない、という奇っ怪なものになっているのじゃ? いくら魔王たるワシと言えども、暗黒神様に勝てるわけがないではないか……。しょぼん。


「して、暗黒神様は今どこにおられる?」

「あ、あの、それはまだ調査中で……」

「たわけめっ! あの御方の濃密な霊力を探れば、すぐに分かるであろうが!」

「それが、暗黒神様の周囲に居ると思われる人間たちの霊力が邪魔をして、上手く感知できないのです……」

「ええい、面倒な! せめて方角だけでもわからんのか!?」


 暗黒神様の事であれば、部下たちに任せるわけにもいくまい。方角さえわかれば、必ずすぐに見つけだしてみせようぞ!


「北、かと。それに、現在人間たちの間でとある噂が流れているのですが、どうもそれが暗黒神様を指しているように思えるのです」

「噂?」

「はい。“フィオグリフ”と名乗る新人ハンターが現れたそうなのですが、驚くことにその人間は“計測機”で全項目SSSという偉業を打ち立てた、と」

「全項目、SSSじゃと……?」


 そんなの、人間のわけがなかろう。

それに、フィオグリフと言えば暗黒神様のお名前と同じだ。人間に化けて生活しているというのが事実ならば、その新人ハンターこそが暗黒神様なのかもしれぬな。


「時期的にも符合しますし、かの存在が暗黒神様の化けた姿という可能性は充分にあるかと」

「噂が事実であるならばな。どれ、ここは一つ。ワシ自ら確かめに行こうではないか」

「そ、それはさすがに危険では……?

大変申し上げにくいのですが、暗黒神様は陛下の度重なる求愛行動により、あなた様に敵意に似た感情を抱いております。下手をすれば、顔を合わせたが最後、木っ端微塵に粉砕される恐れすらあるかと存じます」

「な……」

「我々魔族の求愛行動は、かなり独特ですからな。敵意を抱かれても致し方ないかと」


 なん……じゃと……?

そ、そんなバカな。ワシの今までの苦労は、いったい何だったのじゃ? 何度も何度も半殺しにされ、それでもめげずにやってきたというのに……。

 ワシ自身がうっかり、人間に封印されたのは予想外じゃったが。


「わ、ワシはどうすれば……?」

「……暗黒神様に知識を授けた人間が居りまする。故に、陛下も人間流の求愛行動を身につけるべきかと。それも、今までのネガティブなイメージを払拭するほどのコンタクトをとる必要があります」

「……おのれ人間……。

何故、初代魔王ではなく、初代勇者の方が暗黒神様のお気に召されたのだ……」

「初代勇者は相当な変わり者だったと言う話ですからなぁ」

「忌々しいっ! というか羨ましいっ! ワシも、暗黒神様とあーんな事やこーんな事をしたいのに……」

「初代勇者と暗黒神様はあくまで友人関係であったと伺っておりますよ?」

「それでも羨ましいもんは羨ましいんじゃ!

ワシなんてズタボロのボッコボコにされて外にポイ捨てじゃぞ!? まぁそんな辛辣な暗黒神様も素敵なのじゃがな!」

「は、はぁ……」


 まぁ死んだ人間に恨み言を連ねても仕方あるまい。問題はこれからどうするかと言うことじゃの。マジで、今まで通りならばまずまともに会話すらできる気がせん。

 何故か呆れている様子の部下を放置し、ぐっと拳を握り、気合いを入れた。


「まず、友好的に接するための策を考えねばなりません。が、その前に」

幻魔の宝玉ゲート・オブ・デモンの回収じゃろ? そんなもん後回しでよいわ。何より大事なのは暗黒神様じゃ!」

「しかし、陛下……」

「と言うことでワシは部屋にこもる! そして暗黒神様とのラブラブライフを送るための妙案を捻り出さねばならんのじゃ! そんなに侵略がしたいのなら、お主たちで勝手にせい!

ワシはもう知らん!」

「えぇっ!? そんな勝手な!」

「うるさいっ! 知らんもんは知ら~ん!」

「陛下……。あなたという方は……」


 うーむ、うーむ。

人間流の求愛行動か……。さすがにその程度の知識は心得ておるが、いざ自分がやるとなると激しく恥ずかしいのう……。

 というかまずあの方に本当に嫌われているならば、求愛どころではない。ひとまずスタートラインに立たねば話にならんのじゃ。


「むむむ、どうすればいいかのう……?」


 やんややんやと部下が騒いでいるが、今はそれどころではない。それに、別に人間の国を相手にするぐらい、ワシ抜きでも全然いけるじゃろ。


 居城から持ってきた部屋へ移動しながら、必死に考える。どうすれば暗黒神様とまともな会話ができるのか。

 これをクリアしなければ、ラブラブライフなど夢のまた夢じゃからのう……。

 いっそのこと魔王などやめてしまおうか? あの御方が人間として生活なさっているのならば、魔王のままでは結局敵同士と言うことになってしまうし。


「うむ、うむ。それがいいかもしれん」


 まあそうなるとやはり部下たちが何か言ってくるじゃろうが、ワシの恋路を妨げるものは例え誰であろうと容赦はせん。粉々に打ち砕いてくれようぞ!


 ふははは!! いいぞ! 何かちょっと楽しくなってきたではないか! うむ、うむ! これはなかなかいい案かもしれん!


 部屋にたどり着き、クローゼットを開く。

ワシのセンスによるものではあるが、可愛いと思える私服を厳選し、空間霊術で収納。いつでもどこでも出し入れができるようにしておく。


「ハンターと言っていたな。奴らは確か、主に戦闘やダンジョンの探索で生計を立てているのだったか」


 そうなると、武器も必要じゃのう。せっかくの私服を汚したくはないしな。上手く暗黒神様と和解できれば、ワシもハンターとしてやっていけばいい。

 暗黒神様の目を誤魔化すのは無理じゃが、ワシが魔王、というか元魔王(予定)である事を人間たちに隠す程度は容易にできるし、ハンターになることも可能じゃろう。一応、偽名を考えておいた方が良いかもしれぬな。


 ふっふっふ。ワクワクしてきたぞ! まぁ、上手く行くかは怪しいがな! 暗黒神様とお会いした瞬間、一方的に蹂躙される恐れもある。というかその可能性の方が高い。


 じゃが……。


「ワシだって女の子なんじゃ。夢ぐらい見るわ!」


 よーし、時間はいくつあっても足りんぞ!

ちゃっちゃと済ませていくしよう!

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