第13話 暗黒神様、ちょっと演技をする
自分の黒歴史が思わぬタイミングで現れ、ぶっちゃけかなり動揺したし、事情を知らないプルミエディアたちにどう話したものかと悩んだのだが、レラがいい案を出してくれたので、それに乗っかることにした。
まず、
この時点で、私の異変を察したプルミエディアと、提案者であるレラはほぼ一言も発しなくなった。
「……今戻った」
「あっ! フィオグリフさん!
プルミエディアちゃんに、レラちゃんも!
おかえりなさ~い」
「…………」
「た、ただいま帰りました」
「あ、あれ? なんですか、この空気?
何かあったんですか?」
そして今、ハンターズオフィスに到着。
正直かなり恥ずかしいのだが、仕方あるまい。
このまま演技を続けよう。
……フィリルの明るい声が、今は耳に痛い。
「すまないが、レイグリード殿と面会する事は可能か?」
「えっ? そ、総支配人と?
うーん……今すぐに、ですか?」
「今すぐだ」
「わ、わかりました……。
連絡はしてみますね」
若干、語気を強めておく。
ああ、良心が痛む……。私に良心などと言うものが存在した事に地味に驚きだな……。
私の只ならぬ雰囲気を察したフィリルが、慌てて奥へと引っ込んでいく。
それからしばらく経ち……。
「フィオグリフさん! フィリル君から聞きましたが、いったい何事です!?」
「……おお、レイグリード殿。すまない」
「いえ! それより、何があったのですか!?
あなたの様子がおかしいと伺いましたが……」
お、おお? まさか本当に会えるとは。
すまないな、レイグリード。
きっと多忙だろうに、くだらん小芝居に付き合わせてしまって。
「とりあえず移動しましょう。ここは人の数が多すぎる」
「そうしてもらえると助かる」
「あ、あの。フィオグリフ? あたしとレラちゃんは……」
「お前たちも来てくれ。話したいことがある」
「……わかりました、ご主人様」
さすがにパーティーメンバーであるプルミエディアを省くわけにはいかんからな。
周りのハンターたちが、レイグリードと度々面会している私に対して微妙な目を向けてきているが、これはこの際無視する。
というかレイグリードの奴、本当によく私と会う気になったな。仕事は大丈夫なのだろうか。総支配人がどんな事をしているのかは知らんが。
◆
「それで、フィオグリフさん……」
「うむ……。まずはこれを見てもらいたい」
レイグリードの部屋に移動し、いつものように腰掛ける。プルミエディアは相変わらずの緊張具合なのだが、レラもここまで豪華な一室に通されるとは思っていなかったらしい。
かなり挙動不審になっていた。
用件を催促され、私は懐から黒歴史を取り出し、ごとんとテーブルの上に置いた。
大きさは握り拳大で、重さは金と同じだ。
もしかしたら案外高額で売れるかもしれん。
まあ、絶対に売らないが。
「これは……?」
「
「初めて聞く名ですね……」
これは吉報だな。
人間がこれを数十分ほど触ってしまうと、理性を失った怪物と化してしまう。劣化コピーなので、もしかしたらそこら辺は変わっているかも知れないが、少なからず悪影響はあるはずだ。
レイグリードがこれを知らないという事は、黒歴史が人類社会に出回っている可能性は限りなく低いと見ていいだろう。
尤も、小娘……魔王アスガルテや、その部下たちならば知っている可能性はあるが。
「これの効力は、何らかの手段で体内に取り入れた者を、極限まで進化させるという物だ。
だが、人間がこれを数十分ほども触っていると、見境なく暴れ回る怪物と化してしまう。
私の故郷は、この物体のせいで壊滅した」
「なん、ですって……!?」
「フィオグリフ、あなた……!」
うむ。面白いぐらいにレラの描いたシナリオ通りに進んでいるな。言うまでもないだろうが、もちろん最後の故郷が云々は作り話だ。
「私自身、これを見たのはかなり久しぶりだが、バルスト砂漠で、ランドウォームが大群で潜んでいた場所で見つけたとなると、事態はかなり悪い方向に転んでいると考えられる」
「バルスト砂漠にこんな物が!?
それに、ランドウォームの大群ですって!?」
身を乗り出して驚愕するレイグリード。
彼も、ランドウォームが大群で行動すると言うのは異常な事であると認識したようだ。
「レイグリード殿。私はこれを全て破壊する為に行動したいのだ。厄介なことに、常人では傷を付けることすらできんほどの硬さなのでな。私がやるしかないのだよ」
「少し、試してみても?」
「ああ、構わん。あまり肌に触れないように気を付けてくれ」
「ええ」
常人では傷を付けることすらできない、と言うことを確認するため、レイグリードが右手を構えた。念のため、プルミエディアとレラを下がらせ、私もテーブルから離れておく。
思わず感心してしまう程に濃い霊力が練られていき、レイグリードの右手へと集まっていく。そして、深呼吸し……。
「《ディバインソード》」
レイグリードの右手から光の剣が放たれ、
否。突き刺さる直前に、突如発生した黒い障壁に、弾かれた。
「嘘でしょ……。
総支配人でも破壊できないなんて……」
「……なるほど、確かに硬いですね……」
「…………」
こうなる事は予測していた。
と言うのも、事前にプルミエディアに頼み、破壊を試みたのだ。当然、その時も同様に障壁が発生し、弾かれた。
もちろん、この効果はオリジナルにもある。
そして、目の前にあるコピー黒歴史を解析したところ、障壁の硬度はオリジナルには些か劣るものの、それでも現代の人類では破壊は不可能なレベルだったのだ。
ん、私か? 指でつつけば壊せるぞ。
「フィオグリフさんなら、本当に破壊できるのですね?」
「ああ。実演してみせるか?」
「サンプルとして回収したい所ではありますが、リスクが大きいですからね……。
ここは、あなたの言葉を信じます。
ひとまず、破壊は可能であるとこの目で見ることによって、安心したいのです」
「承知した。では、レイグリード殿。危ないから離れていてくれ。ああ、テーブルをダメにしてしまうが、構わないかな?」
「はい。問題ありませんよ」
「そう言ってくれると助かる」
いい具合に話が進んだな。
小娘の復活によってレイグリードがどう動くか見守りたかったのだが、私の黒歴史が飛び出してきた以上、それを放置はしたくない。
このコピー黒歴史が世界にたった一つしかない物ならば、あんな場所にぽつんと置いてあったのは不自然に過ぎる。複数存在すると考えた方が無難だろう。そんな物、全て壊すに限る。
さて、レイグリードも下がったようだし、まずは一つ目といくか。
背の大剣を抜き、構え、
「…………」
障壁が一瞬発生するも、呆気なく破壊。
そのまま、黒歴史も一刀両断した。
ついでにテーブルも。
冷静に考えてみると、レイグリードにとっては、というか人類にとっては、とんだご迷惑だな。申し訳ない。
「やった……! さすがね……」
「すごいです、ご主人様」
「本当に、壊れましたね……」
「これでわかっただろう。この物質を破壊できるのは、私しかいない」
「確かに、そうですね。障壁にぶつかった際の手応えから言って、全力で霊術を放ったとしても、僕では破壊は不可能でしょう。
他の者たちも、同様だと思います」
「物理攻撃も効かんからな。私は力尽くで破壊したが」
「本当に、あなたは規格外ですよ」
苦笑いを浮かべながら、レイグリードはそう言った。まあ否定はしない。
さて、一応解析はしたが……。
うむ。やはり真っ二つにすれば効果は失われる。こうなればもうただの石ころも同然だ。
「私の故郷、そして、バルスト砂漠。
「ええ。元々、ハンターとは旅をするものですからね。力をお借りする機会もあるでしょうし、たまにでもこの街へ足を運んで頂ければ助かります」
「もちろんだ。プルミエディアに、レラ。
お前たちもそれで構わんか?」
「私はご主人様に従います」
「もちろんあたしもついてくわよ。パーティーメンバーだしね」
「ああ、そうだな。仲間とはいいものだ」
とは言っても、すぐにここを出るつもりはない。何も情報がないのに、ただ延々と黒歴史を探し回るというのはな。非効率的だろう。
「いつ頃街を出られますか?」
「情報が無いし、今は別件も気になる。
こんな話をしておいてなんだが、しばらくは留まるつもりだよ。まあ、
「なるほど、わかりました。我々としても無視できない案件ですから、オフィスが誇る情報網を最大限に活用しましょう」
「ああ、助かるよ」
「いえ。それにしても、最近はどうしてこう厄介な事が立て続けに起きるのでしょうね……」
「まったくだ」
何となくだが、小娘の復活と黒歴史の出現はリンクしている気がする。というか、黒歴史出現の原因が、小娘かその部下にあるのかもしれん。
そんな時期に私がこうして外界へ出てきたのは、偶然か、あるいは……。
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