第12話 暗黒神様、黒歴史が顔を出す


「……固まっているな。とすると、こっちの方角に、何かがある……?」

「フィオグリフ、どうしたの?」

「うむ。いくらなんでも、ランドウォームの数が多すぎると思ってな。この砂漠に、奴らを引きつける何かがあるのかもしれん」

「数って……。私も風霊術で感知はできますけど、全く反応がありませんよ?」

「なら、ついてくるといい。実際に見せてやる」


 プルミエディアとレラが復帰し、砂漠を歩き続ける事数十分。ランドウォームの生態はよく知っているが、これほどの数が固まって行動するなど考えられん。

 不思議そうにしている女二人をスルーし、私はひたすら、魔物たちの反応が多数感じられる地点へと急ぐ。


「ふぅ、ふぅ……」

「谷間に、汗が……」

「…………」

「プルミエディア。自分とレラの胸を見比べるのはやめろ。見ていて悲しくなる」

「べ、別に見比べてなんてないっ!」

「嘘を吐け」


 レラは早い話が巨乳であり、プルミエディアは並みと言ったところだ。やはり、女としてはその辺りを気にするものなのだろうか。


 そして、しばらく歩いていくと、20匹ほどのランドウォームが集団で行動している現場に出会した。一応、バレないように自分たちの姿を隠しておいた上で。


「な、何よこれ……」

「だから言っただろう。奴らが集団で動いていると」

「それにしても、数が多すぎます……」

「それも言ったはずだぞ。信じられんのも無理はないが」

「「…………」」

「さて、ひとまず片付けるか?」

「えっ!? この数を!?」

「うむ。放置するわけにもいくまい」


 もっと少なければ、プルミエディアとレラの練習相手にする予定だったのだが、如何せん数が多すぎる。彼女たちの手には負えんだろうし、私が始末しなければならない。


「あ、あたしも手伝う!」

「いや、隠れていろ。今回はこれを掃除したら終わり、と言うつもりはないからな」

「でも、ご主人様……」

「レラ。プルミエディアが飛び出してこないように見張っていろ。お前たちの力は少し後になってから借りる予定なのだ」

「わ、わかりました……」


 納得はしていないようだが、主の命令とあらば、奴隷は逆らうわけに行かない。

しかし、プルミエディアは私の奴隷ではなく、隠れていろという言葉に従う必要がない以上、自らを省みずに無謀な突撃を敢行する恐れがある。レラには、そのストッパー役を務めてもらう。

 心配そうな顔をしている二人の頭を軽く撫でてから、私はランドウォームの群れの中へと飛び込んだ。


「!!」

「グォォオオ!!」

「さて、さっさと済ませるか」


 魔物たちが私に気付き、まんまるの口を開け、無数の牙を向けてきた。人間程度の大きさなら容易に丸呑みできそうだ。


 が。

少々、相手が悪かったな。


「失せろ」


「!!」


 神霊術……いや、暗黒霊術を発動し、全てのランドウォームをまとめて塵に変えた。

時間を無駄にするのは好ましくないし、奴らをあまり待たせるわけにもいかんからな。


「……反応はないな」


 生き残りがいないことを確認し、隠れていたプルミエディアとレラを手招きする。

彼女たちは、あっと言う間に塵となったランドウォームたちの死骸を見てから、何とも言えない表情を向けてきた。


「もう、終わったの?」

「ああ」

「ご主人様って、本当にお強いんですね……。いったい、どうしたらここまで……?」

「気が向いたら教えてやるとも。さて、こいつらが集まっていた元凶を探すとしようか」

「元凶?」

「これほどの数が自然に集まったとは思えんだろう?」

「まあ、たしかに……」


 とは言ったものの、どうしたものか。

恐らくこの辺りにあるとは思うのだが、正体がわからない物を探すというのは、なかなか骨が折れる。

 力を使えば簡単なのだが、それではあまりにつまらないし、人間らしくない。

今の私はあくまで人間でありたいのだ。


 他に強力な魔物の気配は感じないし、手分けして探してみることにする。




「見つからんな……。まさか、ただの偶然だとでも言うのか? いや、そんなバカな……」


 砂漠地帯と言うこともあって、なかなか大変だ。そこら中を探し回ったつもりなのだが、あるのは生き物の死骸やら、奴らに食い荒らされたであろう人間の武具の残骸やら、そんな物ばかりだ。


「ご主人様~、見つかりました?」

「いや、そっちはどうだ?」

「ダメですね……」

「そうか……」


 レラが合流してきたが、やはり特に目立ったものは見つかっていないようだ。

 むむう。私の見当違いだったか……?


 む? プルミエディアはどうした?


「……~い……」


「ん?」

「プルミエディアさんの声ですね」


「お~い……!」


「おお、たしかに」


 少し離れた場所から、プルミエディアが大声を張り上げているのが見えた。

我々を呼んでいるようなので、近寄る。


 すると彼女は、興奮した様子でこう言った。


「フィ、フィオグリフッ! 見つけた! 見つけたよ!」

「何かあったのか?」

「ほら、これ!」

「む……?」


 プルミエディアが右手に掴んでいた物。

それは、黒く禍々しい光を放つ、水晶のような物体だった。


 いや、これは見覚えがある。


幻魔の宝玉ゲート・オブ・デモン……」

「ゲー……? フィオグリフ、これが何か知ってるの?」

「何か、嫌な雰囲気の水晶ですね……」


 ふーむ。まさかまだ残っていたとはな。

ランドウォームたちは、これの力を欲して集まってきていたのか……。何と言うことだ。


「まあ、少しな。とりあえずソレを離せ」

「え? あ、うん」


 私の言葉に頷き、そっと地面に水晶を置くプルミエディア。彼女の体内を探ってみたが、悪影響はとりあえず無いようだ。よかった。

 さて、この物体、幻魔の宝玉ゲート・オブ・デモンだが……。何というかな……。

ミリーナを失ってグレていた頃の私が、気の迷いで作ってしまった物なのだ。何らかの方法でこれを体内に取り入れた者を、極限まで進化させる、という効果を持っている。

 私は既に進化の限界に達しているので何の影響も無いのだが、私以外のあらゆる存在には絶大な効力を齎す。

 ざっくり言うと、超強力なドーピングアイテムだ。おまけに、寿命まで伸びる。力を求める者にとっては、これ以上無いほどのお宝だろう。

 勇者を何世代か始末して、気分が落ち着いてから、黒歴史として処分しておいたはずなのだが……。どうやら何者かが持ち出していたようだ。

私、うっかり。


 ん。改めて調べてみると、私が作ったオリジナルには数段劣るな。となると、劣化コピーか。


「うーむ……」

「どうしたんですか?」

「いや、ちょっとな……」


 参ったな。まさか、ランドウォーム大量発生の元凶が、元を辿れば私のせいだったとは。

どう説明したものか……。


 うむ。

とりあえずレラには言っておくか。


 ささっと世界の時を止め、レラだけは動けるようにしておく。



「わっ、またこれですか?」

「うむ。これから話すことは、ひとまず我々二人だけの秘密にしてくれないか」

「え? は、はい」


 レラも、プルミエディアが停止していることから察したようだ。一度体験しているしな。


「この、幻魔の宝玉ゲート・オブ・デモンな……。実は、大昔に私が作り出した物なのだ……。まあこれは、その劣化コピーのようだが」

「えっ? ご主人様が?」

「うむ。で、効力は──」


 幻魔の宝玉ゲート・オブ・デモンの効力と、何故ランドウォームがわらわら湧いていたのか、という事を話してやった。


「…………」

「まさか自分の黒歴史がこんな形で世に出てきているとは思わなかったぞ……」

「じゃあ、近頃凶暴な魔物が増えているって言うのも……?」

「それは、魔王アスガルテが復活したからだ。が、もしかしたら半分は私のせいかもしれん」

「へ? 魔王?」

「うむ。ああ、奴についても説明してやろう」


 呆れているのか困惑しているのか、微妙な表情をしているレラに、加えて小娘の事も教えてやった。きちんと、口外無用だということを言い含めておくのも忘れていない。


「へ、へぇ~……。あの、ご主人様って本当に何者なんですか……? どうしてそんなに昔の事を詳しく……」

「……長生きだからだ」

「はぁ……」


 さすがにいくらなんでも私の正体が暗黒神だとバラしてやるわけにもいくまい。

何とか捻り出した言葉でごまかした。


「……しかし、参ったな」

「……私、とんでもないご主人様を持ってしまいました……。不満は無いですけど」

「うーむ……」

「聞いてないですね?」

「む? うむ」

「ご主人様ひどい」

「気にするな。いつものことだ」

「え~……」


 プルミエディアや、ハンターズオフィスの者たちにどう説明しようか? 頭を抱えずにはいられない。とりあえず、この幻魔の宝玉ゲート・オブ・デモンの効力だけでも教えて、これを優先的に破壊して回るべきだ、とでも提案しておくか……?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る