第11話 暗黒神様、霊術を教える

「暑い……」

「暑いですね、ご主人様……」

「そうか? そんな事も無いと思うが」

「日中の砂漠が、暑くないわけ無いでしょ」

「む、そうか」


 目的地であるバルスト砂漠へとやってきた。

砂丘が所々にあり、まるで登山でもしているかのような感覚に襲われる。加えて、私は特に感じないのだが、気温もかなり高いようだ。

プルミエディアとレラが、死にそうな顔をしている。


「さて、では始めるとしよう」

「はぁい……」

「頑張ります」


 まあどこまで行っても暑いのは変わるまい。さっさと神霊術の訓練を開始しよう。


「まず、全身にくまなく霊力を行き渡らせる。少々消耗が激しいかもしれんが、我慢しろ」

「全身に……」

「霊術を放つ手に集中させる、と言うのではないのですね」

「うむ」


 まあ、これはそれっぽい事をやらせているだけだ。この程度で私の暗黒霊術が使えるのであれば苦労はないだろう。

 だが、霊力の総量を上げるという面では役立つはず。肝心の神霊術はどうするのかというと……。


「むむむ……」

「…………」


 いい具合に集中しているな。

二人とも、上手く全身に霊力が行き渡っている。もう少し待ってからやるか。


「……疲れる」

「確かに疲れる……」

「文句を言うな」


 お。先にプルミエディアが頃合いになったな。霊力だけは抜きん出ているとか言っていたか、そういえば。


「暑い……」

「…………」

「もう少しだ、頑張れ」


 よし、レラも頃合いだな。

それでは私の仕事を果たすとしよう。


 世界の時を止め、私だけが動けるようにし、二人にそっと近寄る。

そして、プルミエディアとレラの『魂』に、私の一部を刻み込んでおいた。

 手荒ではあるが、恐らく人間が神霊術を扱うにはこうするぐらいしか無いだろう、という結論に達したのだ。


 魂に私の一部を刻み込むことで、二人が私の力を一時的に借りる事を可能とした。

使いこなせるかはこいつら次第だが、まあきっとなんとかなるだろう。


 ……何も悪影響がなければいいのだが。

それでは再び時を動かすとしよう。


「……!?」

「なんか、力が湧いてくる……!」

「ひとまずは上手くいったか。その力は、簡単に言うと神霊術の種だ。それを上手く咲かすことができるかどうかは、お前たち次第だな」

「説明になってないんだけど……」

「……何でもいいから何か願ってみろ。炎を出したいとか、水を出したいとか、本当に何でもいい」

「願う……?」


 む、早速願いを受信したぞ。

神霊術の『神』とは、即ち私こと暗黒神の事を指す。その私に願いを届け、私がそれを現実の物とする。

 私自身が使う場合、その“願う”というプロセスが省ける分発動も早い、と言うことになる。

……はずだ。


 この願いは、レラだな。

暑いから何とかして欲しいらしい。

仕方のない奴だな。叶えてやるが。


「わ、涼しくなった!?」

「ご主人様! 上手くいきました!」

「え、これレラちゃんの仕業!?」

「うむ。よくやったレラ。基本は掴めたか?」

「はい! でも、もっと練習しなきゃ!」

「ああ、いい心がけだ」

「むむむ……!」


 ひんやりとした風が吹き抜け、一気に気温が下がった。わざわざ神霊術を使ってまでやる事がこれか。まあ、いいんだが。


 お。今度はプルミエディアの願いか。

むむ? もっと強くなりたい?

……とは言え、これは一時的な効果に過ぎんぞ? 私本人なら永続的な効果を齎す事ができるが、人間が持つ霊力ではそれは無理だ。

 忠告は、してやるか。


「お……! す、すごい力が……!」

「プルミエディア。今のお前の霊力では、それは一時的な効果でしかない。覚えておけ」

「あ、う、うん。わかった」

「たぁーッ!」

「……おい、レラ。あまりはしゃぐな。

霊力が切れてぶっ倒れるぞ。今のお前たちは、霊力の栓を開けっ放しの状態なのだからな」

「ひゃっほー!」

「……プルミエディア、落ち着け」


 ……教えない方がよかったか……。

あまりにも便利すぎる力は、人を堕落させる。

もっとペナルティをきつくした方がいいかもしれんな……。


 私が頭を抱えていると……。


「きゅぅ……」

「うぅ……」

「……だから言ったのだ……」


 プルミエディアとレラが、霊力の使いすぎでぶっ倒れた。全く、こいつらは……。


「ご主人様、ご迷惑をおかけしてすいません」

「これ、霊力の消費量ハンパないわね……」

「調子に乗ってはしゃいでいるからだ」


 ぶっ倒れた二人を浮遊させ、適当な岩場を探して休ませている。テンションが上がりすぎていたこいつらも、冷静になってから神霊術の危険性に気付いたようだ。


「ここぞと言うときにだけ使うか、もっと霊力を上げてから使うか……」

「じゃないとまたぶっ倒れて、ご主人様のお世話になる羽目に……。これ以上迷惑かけられないし……」

「焦ることはない。霊力を全身に行き渡らせ、霊力の総量を上げる鍛錬を定期的に続けていけばいいさ」

「うん……」

「あ、あいたた!」

「霊力の使いすぎによる、“霊力痛”とでも言うものか? おとなしく寝ていろ」


 激痛に悲鳴を上げている二人を見かねた私は、神霊術を使いベッドを二つ作り出した。

目を点にしている二人を、そのベッドに運んでやる。


「なんであなたはそんなポンポン使えるのよ……」

「年の功かな。見張りは私がやるから、さっさと寝ろ」

「すいません、おやすみなさい……」

「うむ」


 ……二人揃って昼寝ってどうなんだ。

しかも依頼遂行中に。半分以上私のせいとは言え、呆れずにはいられん。


『フィオグリフさ~ん』


 ん?


『どうしたトカゲ』

『リリナリアですっ! いい加減覚えて下さいよぉ!』

『食うぞ』

『すいませんでした』


 いきなり、リリナリアから連絡がきた。

きちんとこなせていることに驚きだ。


『グランバルツの遠い南にある“レネゲイト共和国”っていう国の街が、魔王アスガルテに落とされたようです~』

『ほう。小娘が動き出したか』

『はい~。何故かレネゲイト共和国の首都に真っ直ぐ向かってますね~』

『ふむ? 何をするつもりだろうな?』

『わかりませんけど、調べてみます?』

『ああ。死んでも知らんがな』

『……辛辣ですねえ』

『なんだ、優しくされたいのか』

『当たり前じゃないですか~! ボクだって女の子なんですよ!?』

『……そ、そうか』

『なんでどもったんです? ねえ、なんでどもったんです?』


 レネゲイト共和国、か。その国に何かあるのだろうか? まあ、動きがあったと言うことはレイグリードも察しているだろう。ゆっくりプルミエディアとレラを鍛えつつ、動向を見守るかな。

 あまりにも被害が酷いようなら、小娘を殺しに行けば良いだけのことだ。


『きちんと任務をこなせたら、好きなだけ褒めてやるとも。なんなら抱いてやってもいいぞ』

『えっ!? ええっ!? そ、そんな、明るい内から何をおっしゃいますやら!? そ、そそそそんな言葉で釣られるボクじゃ……!』

『頑張れよ、リリナリア』

『……頑張りますっ! 終わったらめっちゃ褒めてくださいね~ッ!!』


 ハイテンションが極まったところで、リリナリアからの連絡は終わった。わかりやすい奴だ。ドラゴン種は性欲が強い生き物だからな。

 さてさて、あの小娘は何を考えているやら。てっきり私に接触してくるとばかり思っていたのだが……。


「今は、こいつらの方が大事だな」


 すやすやと寝息をたてる二人の女を眺め、そっと呟く。せっかくできた繋がりを断ち切られてはかなわん。敵の襲撃には細心の注意を払う必要があるな。


「さて、依頼のターゲットは……」


 ここで、今回のターゲットを確認しておこう。何でも、このバルスト砂漠に“ランドウォーム”という魔物が集団で現れるようになったらしい。放置していると商隊が襲われる危険性があるので、全て排除してほしい、とのこと。

 このランドウォームも、本来ならこのバルスト砂漠には生息していなかったはずの強力な魔物だ。つまり、これも原因は小娘の復活にあると言うことだな。傍迷惑な奴だ。


「……1、2、3、4、5……。随分と多いな。これがランドウォームの気配だとは思うのだが……。迷い込んだにしても、数が多すぎではないか?」


 魔物を呼び寄せる何かがあるのか?

とすれば、それを探してみるのもいいか。

二人の回復を待ってから、砂漠を探索する事にしよう。

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