第2話 暗黒神様、ダンジョンに赴く
「わ~い、パーティー♪ パーティー♪」
「嬉しそうだな、フィリル」
「だって、久しぶりのパーティーなんですもん! 1ヶ月間、受付嬢やってましたし」
「ご主人様、今回のダンジョンは……」
「うむ。お前たち3人で攻略してみろ。打ち合わせ通り、私は極力手出しをしない」
「わたしがパーティーに加わってから初めての依頼でそれも、何だか寂しいですね~」
「ごめんなさい、フィリルさん。でも、フィオグリフが初めて任せてくれたから、あたしは頑張りますよ」
「敬語いらないですよ~。まあ、わたしは癖なのでやめませんけど~」
「は、はい。いや、うん……」
オフィスで依頼を受け、パーティーの加入申請も済ませ、我々四人は今、とあるダンジョンの入り口にいる。
打ち合わせの結果、フィリルも攻略に参加することとなった。彼女の実力を確認する必要があるし、連携の練習にもなるからな。私が出しゃばると、連携もクソも無くなるので手出しはしない。
さて、どうなるかな。
「ん、ダンジョンに入場するのですね?」
「ああ」
「それでは、この機械に手を当てて下さい。
退場する場合も、同様にして頂きます」
「これで人員の確認をするわけだな?」
「そうですね」
「承知した」
大勢のハンターが並び、ダンジョンの入り口にはオフィスの職員が立っていた。
そして黒い箱型の機械に手を当て、どのパーティーに所属するどのハンターが入場したのか、チェックするというわけだ。
帰還した際に人員が欠けていた場合、行方不明になったり死んでいたりという事も、この機械を通すことですぐに分かるのだろう。
「ありがとうございます。それでは、幸運を」
「ああ、ありがとう」
「行ってきまーす」
「うぅ、緊張する……」
「ご主人様の期待に、必ず応えて見せます」
「うむ」
職員に挨拶し、私たちはダンジョンへと足を踏み入れた。フィリルは慣れているらしく、自然体だ。逆に、プルミエディアはガチガチに緊張している様子。レラはやたらと燃えている。結構なことだ。
グランバルツ近郊にある、ランキング20万位以上向けのダンジョン。
その名は、『霊機人の迷宮』。
霊機人とは何だろうな。
尚、サウザンドナンバーズ向けのダンジョンも近くにあるらしい。機会があったらそのうち潜ってみようか。
◆
「ふんふふ~ん」
「あの、フィリル? リラックスしすぎじゃない……?」
「何を言いますやら! わたしはいつでも自然体なのですよ~」
「そ、そう」
「プルミエディアさんは前衛。私はその後ろ。フィリルは……」
「わたしは召喚霊術士なので、後衛ですね~。というわけで、フィオグリフさんとお話しますよ~」
「おい。のんきすぎないか?」
「わたしはいつでもこんな感じですっ!」
プルミエディアとレラは、フィリル本人に言われて敬語をやめている。それにしても、召喚霊術か。私も使えるが、アレはなかなか楽でいい。
具体的には、術者の霊力を鍵として『霊界』という異世界への扉を開き、そこに住む者たちと事前に契約しておき、必要に応じて呼び出すという物だ。
そうして呼び出した霊界の生物を指して『召喚霊』と呼ぶ。霊なのに生きているのか? などというツッコミは受け付けない。
とにかく、戦闘はその召喚霊に任せておけばいいため、術者は割と暇なのが特徴だ。そして、術者がやられると召喚霊も消えてしまうと言う弱点があるので、術者は必然的に回避が上手くなる。フィリルが二枚目半たちの攻撃を躱し続けられたのも、そのおかげだろう。
さて、私は霊界の中でも最上位の召喚霊を呼ぶことができるが、フィリルはどうなのだろうな? 少し興味がある。
「フィリル」
「はい?」
「お前が呼べる召喚霊は、最高でどの位階までだ?」
「あ~、そうですね~……。
って、もしかしてフィオグリフさんも召喚霊術使えるんですか~?」
「ん? ああ、まぁな」
「わぁ~! 同志を見つけられるなんて、感激です~!」
位階と言うのは、召喚霊たちの階級の事で、最弱が第1位階。最強が第1000位階だ。
とは言え、人間が扱えるのは精々第300位階程度が限界だろう。
「わたしが呼び出せるのは、200が限度ですかね~。サウザンドナンバーズの有名な召喚霊術士さんなら、200後半までイケるらしいですけど」
「思ったよりもできるのだな」
「えっ、そうですか? そうですかねっ?
ちなみにフィオグリフさんは~?」
「1000だ」
「…………」
あまりの差に衝撃を受けた様子で、フィリルが膝を抱えて地面をいじり始めた。
第200位階まで呼べるのなら大した物だと思うのだが、ショックだったのだろうか。
プルミエディアたちに置いていかれてしまうので、さっさと彼女を抱えて歩く。感触が柔らかく、ちょっと力を込めたらすぐに潰れてしまいそうな程だった。
「1000ってなんですか、1000って……。
ずるい、ずるい……」
「何がだ」
「何でそんなに万能なんですか~っ!
あなたに弱点はないんですか~!?」
何か、騒ぎ出したぞコイツ。
私の弱点か……。うーむ……。
返答に困っていると、プルミエディアが前からじりじりと後退してきた。
「この人、朝は弱いわよ」
「えっ」
「ベッドの寝心地の良さがいけないのだよ」
「そうなんですか~。なんか、意外……」
「プルミエディアさん、フィリル。
さっさと来て。敵の反応がある」
「あ、うん」
「わかりました~」
1人で先頭を歩いていたレラが、若干苛立った様子で急かしてきた。ようやく敵か。
さてさて、何が出るやら……。
今回は彼女たちに任せる事になっているから、探知の類は全て切ってあるのだ。
慎重に進んでいくレラたちを尻目に、のんびりと歩く私。が、私の元に走って再び近寄ってきたプルミエディアに、頭を叩かれた。
「何をする」
「いくら何でも棒立ちすぎよっ!」
「我関せず」
「ぬぬ……! あなたは観客かっ!」
「うむ」
「……そ、そう……」
今回の私は傍観者なのだ。
さすがに全滅しそうなら助けに入るが、そうでないのなら観戦あるのみ。
レラたちの元へ帰っていくプルミエディアを見送り、再びのんびりと歩き出す。
そして、人が数百人は集まれそうな広場に出た。おまけに、なんか魔物らしい物体も大量にいる。
「わぉ、早速霊機人が!」
「結構多いわね……」
「先手必勝でいく?」
「ううん。慎重に行った方が良いと思う」
敵を発見したプルミエディアたちが、臨戦態勢になった。ダンジョンの名前にもなっている、“霊機人”という奴がアレなのか。
何というか……。鉄の塊が人の形をとったもの、とでも表現するのが相応しいだろうか。
二足歩行している者や、四つ脚で歩く者など、様々なタイプがあるな。おまけに結構でかい。
目測だが、身長10mほどはあるだろうな。
それが30体ほど居るか?
ここをどう切り抜けるのか、見せてもらおう。
「それじゃあ、こうする」
両手を前に突き出し、レラが言霊を唱える。
「
プルミエディアが以前得意気に語っていた、己の武器を体内に収納し、自在に出し入れする光霊術だ。
レラの両手に、二丁の 『霊破銃』が現れた。
全長30cmの白い筒状の物体で、霊力を“弾”として発射し、離れた場所にいるターゲットを攻撃する武器だ。騎士と言えば剣のイメージなのだが、どうやら私の認識は古かったらしい。
「《シャドウ》」
更に、闇霊術を唱えるレラ。
黒い衣が、私を含めた全員を包む。
「プルミエディアさん、お願い」
「任せて。《サイレント》」
シャドウによって姿を隠した上で、サイレントと言う闇霊術をプルミエディアが唱え、音すらも隠す。どうやら身を隠しながら戦うつもりらしいな。まあ、こうしていても感知はされてしまうのが難点なんだが。その上、共に一回攻撃すると効果が解除されてしまうという弱点もある。
しかし、シャドウやサイレントの良いところは、“姿を見せたり、音を伝えられる対象も選ぶことができる”という点だ。
つまり、私たち同士なら姿をお互いに確認できるし、普通に会話もできる。逆に言えば、仲間内でもあえて仲間外れにして虐める、とかいう陰湿な事もできなくはない。
「フィオグリフさん~。わたしだけ仲間外れにするのは勘弁して下さいね~?」
「そんな事をするように見えるか?」
「……少しだけ」
「フィリル。ご主人様に失礼な事を抜かすようなら、1人だけ解除してあの群れの中に放り込むよ」
「ごめんなさいレラちゃん!」
「緊張感を持ちなさいよ、緊張感を……」
実はちょっとやってみようかなと思っていたのだが、レラが静かに怒ってしまった。これで実行してしまうと彼女に申し訳ない気がするので、やらないことにする。
フィリルを地味にいじめるのは面白そうなんだがなぁ。反応がいいだけに。
気を取り直し、隠密行動をとりながら霊機人の群れへと近付いていくレラ。プルミエディアとフィリルは、それを見守っている。
「ショット&退散」
レラが霊破銃を撃ち、霊機人に命中させた。そして、一目散に逃げだし、すかさず再びシャドウ&サイレントで隠れる。
突然の攻撃に暴れる霊機人。
それを眺め、プルミエディアが動き出す。
「今度はあたしの番ね。
《ミラージュデコイ》!」
物陰に隠れながら、彼女は水霊術を唱えた。
これは所謂幻術の一種で、ターゲットと全く同じ外見の“デコイ”を生み出し、攪乱する物だ。
先ほどの攻撃と併せることで、霊機人たちの同士討ちを誘うつもりなのだろう。事実、プルミエディアが生み出した“霊機人の姿をしたデコイ”が、本物の霊機人に襲いかかっている。
あくまで幻術なのでダメージは無いのだが、『先ほどの攻撃はコイツの仕業か』と奴らに誤認させるには充分だろう。
そして、霊機人同士が殴り合いを始めた。
二足歩行型の霊機人とデコイは外見が全く同じなので、敵味方の判別がつかなくなったのだろう。
「ナイス」
「レラちゃんこそ」
「おぉ、良い連携ですねえ」
「うむ。素晴らしい」
「えへへ」
「うまくいってよかったわ」
所詮は知能の低い魔物だ。まんまと踊らされているとも知らず、延々と殴り合いを続けている。後は、それを眺めているだけで良い。
そして、敵の数が少なくなってきた所で残りを始末すれば終わりだ。
ん? フィリルの奴、何もしていないぞ?
◆
「よし、ここもおっけーね」
「順調です、ご主人様」
「ああ。上出来だぞお前たち。私が手出しをせずとも、充分にやっていけているではないか」
「本当にね。ちょっと自分で驚きよ」
「きちんと強くなっている証拠だ」
「そうですね。ご主人様のおかげです」
「あの、わたしにも出番を……」
「「…………」」
レラとプルミエディアの活躍により、あまり苦戦することもなくダンジョンを進めている。
罠の類はレラが探知できるし、プルミエディアの先導により、迷うこともない。勘がいいのだろう。
尚、ここまでにフィリルは何もしていない。
ただ私とくっちゃべっていただけである。
……さすがのウサ耳も、肩身が狭くなってきたらしい。長い耳がしょぼんと垂れている。
「次のフロアに続く道ね」
「油断しないでいこう」
「うん」
「あの、わたしは何をすれば……」
「フィリル。一応は一番順位が高いお前がそんなザマでどうする」
「だ、だって! 出番がですね!!」
「のんきに構えているからだ」
「あう~……」
しょぼくれているフィリルをスルーし、スタスタと歩いていく二人。微妙に不安になりつつ、私もフィリルを連れてついていく。
まぁ、コイツが来たのは予想外だったからな。そもそも二人だけで充分攻略可能だろうと睨んだダンジョンを選択したのだから、こうなる事は必然とも言える。
隠密行動をとるにあたり、フィリルの召喚霊術はちょっと邪魔になるというのも難点だな。
パーティーとして行動する以上、今後はその辺りの打ち合わせが必要になりそうだ。
……危ない時は私が出れば万事解決なのだが、それを言ってしまっては元も子もないだろう。
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