第4話 暗黒神様、ランキングに興味を持つ
「お、おかえりなさい……」
「ああ」
「はぁ~……。ほんっとに、緊張したぁ……」
オフィスの一階に戻ると、先ほどの受付嬢がビクビクしながら迎えてくれた。
むむぅ。ここまで反応が変わると、少し寂しいぞ。
と、プルミエディアが思いっきり伸びをした。本当に緊張していたのだな。ようやく解放された、と言ったところか。そして、軽い口調で一言。
「そんじゃ早速、魔物討伐でも行ってみよっか」
「おぉ、やる気だな」
「まぁね。あ、その前にパーティー申請しなくちゃ」
「そんなものがあるのか」
「うん。一応聞いとくけど、本当にあたしと組んでくれるのね?」
「無論だ」
「ん」
レイグリードと対面していた時とは、まるで別人だな。まぁ、これが彼女の素の姿なのだろうが。人間、極端に緊張するとああも変わるものなのか。
しかしまぁ、ハンター登録に、パーティー申請か。最初だからか、面倒な手続きが多いな。
何のためにあるのだろう?
「え、えっと。あなたたち2人でいいのよね?」
「そうね。本当はもっと集めるつもりだったけど、フィオグリフが居れば、もうそれで充分みたいだし」
「そうか? 別に他に居てもいいと思うがな」
「いやいや、仲間探すのって結構骨が折れるのよ」
「ふむ」
特に紙などに書くという事もなく、申請は口頭で済んだ。代わりに、受付嬢が何やら手を動かしているが。そこらへんの雑務はオフィス側がしてくれるという事のようだな。
「じゃあ、受ける依頼は……」
「あっ、フィオグリフ」
「む? なんだ?」
「ハンターランキングについて説明してなかったわね」
「あ、ああ。そういえばあったわね……」
「なんだそれは?」
まだ何かあるのか。
親切に教えてくれるというのだから、聞いておくが。うっかり重要な事を聞き漏らすと面倒だし。
何か言い掛けていた受付嬢を放置し、私たちは一旦カウンターから離れた。と言うかプルミエディアが勝手に私の腕を引っ張っていった。強引な奴め。
「あなたは気にするまでもない感じするけど……。全世界に散らばるハンターたちを、それぞれの実績に応じて格付けしたランキングの事よ。基本的には、順位が高ければ高いほど、危険で、だけど得られるモノが大きい依頼を請け負うことが出来るようになるわ」
「ほほう、それは面白そうだ」
「別にハンター同士が直接戦い合うとか、そう言うわけじゃないからね? まぁ、無いこともないんだけど」
「となると、順位が低いハンターの方が強いとか、そう言った事も有り得るのか?」
「ごく一部は、そういう奴も居るわ。ほんとに稀だけどね」
「ふむ」
と言うか口振りから察するに、魔物を討伐するにも、ダンジョンを探索するにも、いちいちオフィスに届け出る必要があるのか?
なんだか微妙に面倒だな。
「新入りの私は当然……」
「現時点での最下位からスタートよ。
だから、普通は大した依頼を受けられないわ。
若いハンターの死亡率を少しでも下げるための策なんだけど、こういう時は不便でもあるのよね~」
「なんだ、つまらんな」
「普通はって言ったでしょ? 最後まで話を聞きなさい」
「む?」
なりたてホヤホヤの若者が、血気に逸って実力に見合わない依頼を受け、その命を散らすことを防ぐための制度、というわけだ。そう考えると、まぁどうしても必要なモノなのだろうな。
ちょっとガッカリしていると、プルミエディアに小突かれた。そして自らの顔の横で人差し指を立て、ドヤ顔で奴が語り出す。
「パーティーを組んでいると、パーティーリーダーの順位に見合った依頼を受けられるの。この手を使えば、新人でもいきなり強力な魔物やダンジョンに挑んだりできるってわけよ」
「パーティー……リーダー……?」
「この場合はあたしね。新人を連れていって、もしまんまと死なせるようなことがあれば、即オフィスから除籍されるんだけど、あなたならどう間違っても死なないでしょ。あ、依頼失敗の場合はパーティー強制解散食らうから」
「聞いていないぞ」
「言ってないもん」
「……まぁ、いいが」
ランキング最下層から一気にジャンプアップできる手段ではあるが、失敗すれば相応の代償を払う事になるというわけか。しかし、魔物討伐ならばまず失敗する事は有り得んし、私にはまさにうってつけの話だな。うむ。
「ハンターと言うのは、何人居るのだ?」
「全世界で?」
「ああ」
「だいたい100万人ちょい。えっと……。
うん。あなたの順位は、115万5000位よ。エラくキリが良いわね」
「多いんだか少ないんだかわからんな」
「まぁね」
「お前の順位は?」
「34万6471位」
「エラく中途半端だな……」
「普通こんなものよ」
途中で何やら妙なモノをいじっていたが、またあの“キカイ”とやらだろうか。何となく、質感が計測機に似ていた。恐らく、用途は異なるのだろうがな。
聞いてみたはいいものの、順位を言われてもいまいちピンと来ないな。他に誰か比較できる相手がいればいいのだが。一応頭に入れておくかな。
「ちなみに、1000位から上は“サウザンドナンバーズ”と呼ばれて、人々から羨望の眼差しを浴びているわよ。あなたも目指してみたら?」
「……ほう」
羨望の眼差し、か。
なるほどなるほど。これは良いことを聞いた。
ハーレムを築き、勇者視点から人間を観察するのに、これほど相応しいものはないだろう。
うむ、是非とも目指してみるとしよう。
「特に、1位~10位までの10人は、英雄とまでもてはやされているわね。レイグリード総支配人が言ってた“勇者殿”の正体こそが、ランキング1位の凄腕ハンターだって噂だし」
「そうなのか?」
「……まあ、噂だけど、ね」
だとすると、そいつもう死んでるぞ。
……アレが1位か。アレで1位なのか。
やっぱり、なんだ。スケールが小さい世界だな……。
正直、私ガッカリ。
「…………」
「な、なんか急に元気なくなったわね……?」
「……なんでもない……」
「……あ。まあ、もし本当に勇者殿イコールトップランカーなら、あなたはそれより遙かに強いって事になるのかぁ……」
「そうだな……」
妙な沈黙が、2人を襲う。
この世界は、人間サイズになっても私には窮屈かもしれん。
「い、依頼! 依頼受けましょ!」
「……ああ、そうだな」
「何受ける? いきなりダンジョン行っちゃう?」
「待て、早まるな。我々はたった2人しかいない上に、まだ共に戦った経験すら無いのだぞ。まずは魔物討伐でいい」
「それも、そうね。ちょっと調子に乗っちゃったわ」
「いつ何時も謙虚な気持ちを忘れずに。
と、昔ミリーナが言っていた」
「……そのミリーナって人の言葉、やたらと推してくるわね。あなた」
「そうか?」
「っていうか女の名前よね、それ? 恋人?」
「…………」
恋、人? ミリーナが? いや、もう死んでいるが。どう、なのだろうな。一緒に暮らしていたのは事実とは言え、我々の間にそう言った感情があったのだろうか。
……わからんな。それに、最終的に彼女を殺したのは私だ。そんな私が、彼女の恋人などと、ありえん。ミリーナに失礼だ。
「……いや」
「そう、なの? なんか、変なこと聞いちゃったかな。ごめん」
「何故謝る?」
腕を後ろで組み、少し目を伏せるプルミエディア。そして、刹那の沈黙の後、私を見据え、こう言った。
「だって、フィオグリフ。今のあなた、すごく寂しそうな顔をしているんだもの……」
「……何……だと……?」
ミリーナの美しい笑顔が、何故か頭の中に蘇ってきた。
本当に、この身体になってから……。
やけに昔のことを思い出すな……。
◆
「そういえば、プルミエディア」
「なに?」
「お前の武器は何なのだ? 見当たらないが」
「ん、ああ。そういえば言ってなかったわね」
オフィスでとある依頼を受け、グランバルツを抜け、我々は今、街の東にあるという“朽ちた氷像”と呼ばれるモニュメントを目指して歩いている。
ここで気になったのが、プルミエディアはどう見ても素手だと言うことだ。身体のどこを眺めても、武器らしき物が一切見当たらない。『霊術』の源たる霊力の流れは感じるが。
「ちゃんとここにあるわよ」
「何? 素手で戦うのか?」
「違う違う。ま、これは最近の霊術だから、あなたが知らないのも無理はないかもね~」
「むむ?」
にへら、と笑うプルミエディア。
私が無知な田舎者だと思って馬鹿にしているな? 少し腹が立つぞ。
それにしても、右手……? 何もないではないか。しかし素手が武器なのではないらしいしなぁ。私の知らない霊術……。
興味がある。
「ま、見せてあげる」
「頼む」
最初と比べると、随分表情が移り変わるようになったな。少しは心を開いてくれたのだろうか。いや、そういう問題でもないのかもしれんが。
そして、右手を開き、構えるプルミエディア。
「
その一言と共に、彼女の右手に光が集まり、白銀の剣が姿を現した。まるで手品だ。
ふむ、なるほど。そう言うことか。
「こういうこと。とある霊学者が開発した“光霊術”の一つよ。自らの武器を光の粒子に変えて体内に収め、必要に応じて“
剣が光の粒子になり、彼女の身体へと吸収されていった。どうなのだろう? いざという時、対応できるのか?
だがまぁ……。
「いちいち武器を携帯しなくていいから、便利なのよ?」
「なかなか面白い事をする」
「でしょ~。あたしも気に入ってるのよ、これ」
「宴会芸に使えるな」
「ネタじゃないわよっ!」
おぉ、怒られてしまった。
いや、こう言うのは“ツッコミ”と呼ぶのだったな。ククク、面白い。本当に面白い事をする。
「今はまだマイナーな霊術だけど、す~ぐ流行るわよ、これは」
「その自信はどこから?」
「だって便利でしょ!? 霊力の消耗も少ないし!」
「そうなのか」
様々な生物に宿る、超常の力……『霊力』。
私は年がら年中休みなしで垂れ流していても尽きない程の霊力を持っているから、消耗の度合いなど気にしたこともなかったな。
人間はそうもいかんから、色々と研究をしているのか。
そうして得た力で、私に挑んできては返り討ち。クックック、人間とは本当に面白い生き物だ。だからこそ、観察のしがいがある。
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