第7話 凶王グリモワール
嫌だ嫌だと叫びながら暴れ回るシルヴィアと、彼女を守るように動き回りながら攻撃を仕掛けてくるグリモワール。
こんな状況でどうしてなかなか、連携が取れているな。伊達に恋人同士ではないというわけか。
「《アンチ・トルネード》!」
シルヴィア・パンデモニウムが放ったパンチを避けた私に対し、すかさず霊術を撃ってくるグリモワール。ほほう、これまた懐かしい霊術を使うな。
「メビウス」
「うん。まだアレを使える奴が居たんだね。とっくに失われたものだと思ってたよ」
「メビウス嬢、この霊術を知っているのかい?」
「もちろん」
一応塔の中だと言うのに、全てを切り裂く暴風を放ってくるとは思わなかった。まぁ、暗黒霊術で無に帰しておいたが。塔に足を踏み入れる前から、既にリミッターは全て解除してあったのだ。
「くっ……!」
「諦めろ、グリモワール。たかだか魔王程度がこの私に勝てるものか」
「やってみなければわからないだろう! これでも食らえ! 《アンチ・ブレイク》!」
「《カラミティ・ウォール》」
私の暗黒を彷彿とさせる、真っ黒な球体を掌に凝縮し、光線状にして放つグリモワール。それに対して私も、暗黒をかき集めて作った壁で防ぐ。
ふむ。魔王にしては素晴らしい威力だが、まだまだ足りんな。
「あのボーヤが使ってる“アンチ”なんたらっていう霊術は、古代文明人の大賢者が好んで使っていた古の禁術シリーズだよ。全てを飲み込む“無の力”で敵を消滅させるっていうヤバイヤツなんだけど、フィオグリフ様の暗黒霊術は超絶インチキだからね。無の力を普通の霊的な力に書き換えて、ああやって防ぐ事を可能にしているんだよ」
「そ、そうかい。詳しい解説をありがとう……何を言っているのかはわからないけれど……」
「ウーズのボーヤはバカだなぁ」
妙なところでメビウスの悪癖が出てきてしまったらしい。奴は霊術マニアなのだが、何もこんな時にのんびりと解説をするんじゃない。ウーズが困っているだろうが。
「どうやらコイツの相手は私にしか務まらんらしい。貴様らはシルヴィアとやらを始末しろ」
「はーい」
「承知しました、暗黒神様!」
メビウスなら対処できそうな気もするが、まぁ私だけの方が気楽だし構わんだろう。奥にいるミルフィリアの笑顔にイライラするし、こんな戦い、さっさと終わらせるに限る。
「ッ!! くそ、シルヴィアはやらせない! 退け、暗黒神!」
「ならば私を倒してみせろ。わざわざ貴様に付き合う必要など無いのだ」
「この野郎……ッ!!」
メビウスとウーズがシルヴィアに向かっていくのを確認するや否や、露骨に焦り始めるグリモワール。実年齢は知らんが、随分と精神年齢は低いらしい。そんなだからミルフィリアにいいように踊らされるのだ、嘆かわしい。それでも魔王か。
「《カラミティ・カタストロフィ》」
「なっ……味方もろとも殺す気か!? くそっ、《アンチ・ウォール》!」
戯け。レラとフィリルも居るのに、そんな事をするはずがなかろう。きちんと結界で隔離してあるわ。
ついでにミルフィリアも巻き込むつもりだが、まぁ無駄だろうな。
暗黒が急速に膨張し、私とグリモワール、そしてミルフィリアだけが入っている結界の中を、超高温を伴う大爆発が襲った。
「ぬわーーーッ!? 目が、目がァーーーッ!! フィ、フィオグリフ様っ!! ちゃんと周りにも気を配ってよ~ッ!!」
「これが暗黒神様の御力……! なんと偉大なんだ……」
あっ。
すまん、結界でダメージは遮断できても、大爆発と共に生じる閃光まではカットできないか。
メビウスの目が大ダメージを受け、面白すぎる悲鳴と共に悶絶していた。ウーズは至って平然としている事から、耐性があるのだと思われる。
この分だと、後方にいるレラたちの目にもダメージがいっているな……。
はぁ、後で怒られてしまうではないか……。
「……ぐぅっ……!」
「痛いわね。さりげなく私にも攻撃するのやめなさいよ、フィオグリフ。こっちは観客席よ?」
「ちっ」
多くの目を犠牲にしたにも関わらず、グリモワールは未だ健在。ミルフィリアに至っては、まるでダメージを受けている様子がない。霊術かチートで防ぎきったのだろう。
シルヴィア・パンデモニウムの方は、そもそも攻撃範囲から除外してあるので何ら影響はない。あちらはメビウスとウーズに任せたからな。私、知らない。
「頑丈な奴らだ」
「な、舐めるなよ、暗黒神……! 俺は、ただひたすらに力を蓄えてきた……。この塔を、シルヴィアの墓を荒らしに来る奴らを追い返すために!」
「そんなに大切な場所で物騒な古代霊術を使っているのはどこのどいつだ。寝言は寝て言え」
「この塔は幾重にも重なった結界で守られている! 揺れることはあっても、崩れることは無い!」
「そうか」
ふむ。さっきの大爆発は、それなりに力を込めておいたのだが、アレを防いで尚も戦闘の続行が可能なのか。魔王の割にはタフな奴だな。恐らく邪神でも瀕死になっていると思うぞ?
まぁ、私に攻撃が効かない以上、グリモワール側は勝ち目など万に一つも無いがな。
「やっぱり“無霊術”でもフィオグリフには通用しないか……。案の定相性が悪いのね」
「む」
ミルフィリアが何やらぶつぶつと呟いている。その内容からして、私の戦闘能力を分析するためにグリモワールをけしかけたのか? 自らこんな所に足を運んだのも、それが理由か。なるほどな。
「おっと」
「“無霊術”だけが俺の力だと思うな! 直接ぶった斬ってやる!」
古の禁術が効かないと理解したグリモワールは、空中から直剣を取り出し、私に襲いかかってきた。今度は物理で押そうというわけか。まぁ、無意味だが。
私は無数の勇者たちを葬り続けてきたのだぞ? 剣士の相手なんぞ腐るほど経験している。敵うわけがなかろう。
「はぁっ!」
「ふん」
直剣の鋭い一撃を素手で掴み、剣を粉砕。そのまま、奴の腹を蹴り飛ばした。
「がはっ……!」
「……諦めろ。貴様では私には勝てん」
勇者たちは全員が剣士だったからな。ミルフィリアのようなチートの集合体ならいざともかく、ちょっと人外なだけの魔王ごときの剣術に私が負けるか。
「くそっ……霊術も効かない、剣術も効かない……どうすれば……」
「だから諦めろと言っているだろう。貴様程度に邪魔をされている暇など無いのだ。怪物になっていても、シルヴィアという女はお前の恋人なのだろう? さっさとアレを連れて失せろ。鬱陶しい」
「くっ……!」
なんだか私が悪者みたいではないか。弱いものいじめをしているように思えてくるから、本当にさっさとどっか行け。
どうしても引かないのなら本当に殺すぞ? これは私からの慈悲だ。
段々とグリモワールの意思が揺らぎ始めたが、それを黙って見ているミルフィリアではなかった。
「なっ……」
「見てられないわね。役立たずなんだから」
ラグナロクによってグリモワールの背後に転移してきたかと思うと、素早く捕獲。直後、メビウスとウーズが戦っているシルヴィア・パンデモニウムの元へと転移し、怪しげなチートを使ってグリモワールとシルヴィア・パンデモニウムを合体させてしまった。
「貴様……ミルフィリア……!」
「見ていてつまらないのよ。フィオグリフに手も足も出ないんなら、次の手を打ってあなたを強化するだけ。嬉しいでしょう? これであなたとシルヴィアは、文字通り一心同体。死ぬまで一緒に居られるわよ?」
突然の出来事に、呆然とするメビウスとウーズ。
そして、何か言いたげな目で、私を睨むメビウス。
「すまん。油断した」
「フィオグリフ様ッ!! 油断した、じゃないからね!? せっかく楽に片が付きそうだったのに、余計にややこしい事になっちゃったじゃないかぁっ!」
「まことにもうしわけない」
「反省の意思が感じられないよ!? もうっ! さっさと一緒にこの怪物を倒しちゃわないと!」
本当に申し訳ないと思っている。
グリモワールの相手に集中しすぎて、ミルフィリアの動きを見張る事を忘れていた。
どうやら、ここからが本番のようだ。
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