第11話 二刀流


「随分と強くなったじゃないか。例えそれが邪道な手で得たものだとしてもな」

「邪道? 違うわ。ソウルイーターは他でもない、私が作り上げた剣。それで奪ったのだから、この力は充分正道と言えるものよ」

「ふん、詭弁だ……なっ!」

「そうかしらっ!」


 互いに互いの急所を狙った一撃。私に急所が存在するのかという疑問はスルーでいいとして、こいつ、思った以上にできる。魔剣、ソウルイーター……か。厄介なものを持ち出してきたものだ。曰く、奴自身が作ったらしいが……。


「貴様が鍛冶師だとでも?」

「いいえ。ただハンマーを振り下ろして鍛え上げる以外にも、武器を生み出す方法はあるのよ。あなたならわかると思うんだけど?」

「ふむ」

「だって、他でもないあなたの武器が、そうでしょう」

「…………」


 なるほど、な。自分で作り上げたとは、そういうことか。だが何故、私の大剣が……ミリーナの時空聖剣を真似て作ったものだと知っている? あの時、誰にも見られていなかったはずだ。


「神聖技! 《不死飛鳥》!」

「舐めるなよ。そんなものが当たるか」

「さて、どうかしら」


 ミルフィリアの身体から、燃え盛るフェニックスのごとき炎の鳥が現れ、辺り一帯を灼熱で覆い尽くす。こんな直線的な攻撃に当たってやるほど、私は鈍くないぞ。


 何を狙っている……?


「む?」

「全ての空間を埋めるように放てば、直線的でわかりやすい攻撃でも、当てるのは容易よ」

「……なるほど、道理だ」


 何度も言うが、我々ほどハイレベルな者同士の戦いとなると、この星自体が壊れてしまわないように結界を張って周囲を保護しなければならない。となると、つまり、“逃げられる空間”が限られてしまう、というわけだ。


 空間を埋め尽くす程の攻撃が来れば、確かに避けようがない。


「デカい、な」

「でしょう?」



 尋常じゃなく巨大な炎の不死鳥が、まるで生きているかのように嘶き、私に牙を向いた。ここまで大きいと、回避は不可能。どうにか相殺するか、防ぎきるしかない。


 普通なら術者自身も自爆してしまうが、ミルフィリアならばその心配はない。何故なら、奴に炎属性の攻撃は一切効かないからだ。


「ふんっ!」


 暗黒を右の掌に集中し、そこで炎の不死鳥を受け止める。しかし奴も負けじと、力の限り身体を押しつけてきた。



 右手に熱を感じ、肉が焦げる臭いが立ちこめる。だが、私は打ち勝ち、不死鳥を握りつぶした。こんなもので死ぬほど脆くはないのだ。


「どうだ、ミルフィリアよ。貴様の不死鳥……は……」


 二発目が来ないことを確認した上で、ミルフィリアが居た場所に向けて勝ち誇った笑みを浮かべてやったのだが……。


 いない。


 ミルフィリアが、いなくなっている。


「逃げた、のか?」


 すぐに気配を探るも、また感知できなくなっていた。ユキムラたちは確認できるのに、ミルフィリアの気配だけがまた、綺麗さっぱり消え去っている。

 せっかく洗脳した仲間を置いて逃げたとでもいうのか? いや、奴はそんな無駄なことをする女ではない。何か目的が……。



「ひゃぁっ!?」

「ミリーナさんっ!!」


「何っ!?」



 悲鳴を聞き、慌ててそちらへ向く。


「ミリーナ先輩のソレ、欲しいのよね。知ってた? 私って……」

「うわぁっ!? ちょ、なにすんのさ~!」


 結界の外で、ミリーナがミルフィリアに捕まり、そして手に持っていた時空聖剣ラグナロクを奪われる姿が目に入った。


 しまった……。先ほどの不死鳥は、ただの時間稼ぎかっ!!


「あっ!? ま、待てぇ~! わたしのラグナロク! か~え~せ~ッ!」


 結界の外から、再び私の元へと戻ってきたミルフィリア。当然、時空聖剣の力を使い、空間転移してきたのだ。



「私って、本来二刀流・・・なのよね」

「そんなアンバランスな二刀流があるか!」



 ミリーナから奪ったラグナロクを右手に。元々持っていたソウルイーターを左手に。大剣と直剣の二刀流という構成。これが奴の、本来の姿? いや、昔戦った時は、違ったはずだぞ!


「重いわね、ラグナロク」

「当たり前だ」


 澄ました顔で、猿でもわかる事を呟くミルフィリア。そりゃそうだ。あれだけデカい時空聖剣が、軽いわけがない。


 いや、待てよ。奴は、ソウルイーターを自作したと言っていた。それはつまり──。


「《再錬成》」

「あ~ッ!? わたしのラグナロクっ! 勝手に作り替えるなよ、こんの小娘がぁっ!!」


 ミリーナの汚い罵声が飛ぶ中、静かに形を変えていく“時空聖剣”ラグナロク。そして、瞬く間に小さくなり、一般的な直剣とほぼ同じ大きさに激変してしまった。だが、その機能は失われていないはず。だからわざわざ、あんな馬鹿でかい時空聖剣を奪ったのか。



「待たせたわね、フィオグリフ」

「貴様、よくもミリーナの聖剣を……」

「あのおバカな初代様はね、このラグナロクを全然使いこなせていないのよ。だから……」


「くっ!?」



 奴がラグナロクを振る。それから一瞬の後、空間そのものが横一線に斬れた。


「私が見せてあげるわ。この偉大な聖剣の、本当の力ってヤツを!」

「……上等だ。それは必ず返してもらうぞ」

「やってみなさい。でも、見知った力だからって甘く見てたら……大怪我するわよ」



 魔剣ソウルイーターが赤く光り、聖剣ラグナロクが金色に輝く。そしてそれらを舞うように振り回すミルフィリア。



「ラグナロクの射程は、無限よ」



「ぐぅっ!?」


 私の身体が斬れた。ああ、わかっている。あれは、ラグナロクの前では、距離など関係無いと言うことを。


 何せ、目に見える全ての物が、いや、全ての空間が、あの聖剣で斬れる距離なのだから。


「手は緩めないわよ」


 分かれた身体を急いでくっつけるが、逃がさないとばかりに構えているミルフィリアの姿が見えた。手数が増えてしまうと厄介だな。


「《極炎剣舞六連》」

「《カラミティ・ウォール》」


 神速の六連撃に対し、暗黒で壁を作り応戦する。が、すぐに奴の身体が消え、背後に現れた。


「はぁっ!」

「ちぃッ!!」


 ラグナロクと、私の大剣が激突する。一歩間違えばまた真っ二つになっていたな。こいつ、剣の腕がミリーナとは比較にならん。


 ギリギリと音を立てながら、激しく鍔迫り合いを繰り広げる。しかし、さすがに腕力では私の方が上だ。


「きゃっ!」

「《オルタナティヴ・エンド》!!」


 全力で叩き潰すため、滅多に使わない上位技を放つ。

 悪鬼の頭部が、吹き飛ばされたミルフィリアを包囲し、一斉に突撃する。これにかすりでもすれば、体内に侵入した悪鬼が膨張し、破裂。ついでに跡形もなく暗黒に食われ、死ぬ。


「物騒な技、使ってくれるじゃない」

「逃げたか」


 しかし予想通り、ミルフィリアは転移する事でこれを回避。ついでにまた私の背後を取ってきた。が、残念だったな。


「ッ!? 何よ、今の感覚……!」

「お前がそこに転移してくるのはわかっていた。当然、罠を仕掛けてある」

「このッ!!」


 すかさず転移で逃れようとするミルフィリアだったが、残念ながらラグナロクはうんともすんともいわない。この罠は、かつてミリーナと対峙した時に考えた、対ラグナロク用のものだからな。


「ど、どうして!?」

「馬鹿が。付け焼き刃の力で、この私に勝てるものか。大体、その聖剣はミリーナの物だ。ならば私が詳しく知っているのは当たり前のことだろう」

「くぅ……!」


 空間霊術と同質の力を際限なく使いこなせるラグナロクだが、弱点もある。


「終わりだ」


 ほぼ勝利を確信してはいるが、油断はできない。ラグナロクはともかく、ソウルイーターの方は深く知っているわけではないからな。

 下らん真似ができないよう、一欠片も残さず消滅させてやろう。




 ──だが。



「……さすが。やっぱりまだ勝てないか」

「む?」


 突然、それまで焦りを見せていたはずのミルフィリアが、冷静に呟いた。

 まだ勝てない? つまり、この場を逃れる手を隠し持っている、ということか?


「予定より早いけど、仕方ないわね。ばいばい、フィオグリフ。“新世界”でまた殺し合いましょう?」

「新世界? 何を──」



 訳の分からない言葉を吐くミルフィリアに詰め寄ろうとした瞬間、ソウルイーターが輝き、それに応じるかのようにラグナロクも輝きだした。


 そして。




「《エンド・オブ・ザ・ワールド》」





 その瞬間、世界は割れた。

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