第9話 暗黒神様の楽しい愉しい処刑タイム
光喰獣を消し飛ばし、ようやく皇都に来てみれば、タナトスとかいう骸骨が大暴れしていた。リンドが肉片になっているが、まぁ、奴はあれぐらいでは死なんだろう。
問題は、プルミエディアに、レラに、フィリルに、アシュリーに、リリナリアに……何より、ミリーナに、この愚神が怪我を負わせていた事だ。
許さぬ。断じて許さぬぞ。
「うっ……ぐ、がぁぁぁ!」
「どうした骸骨。仮にも神なのだろう? もっと足掻いてみせろ。全力で向かってこい。この世界を破壊するつもりでな! 私は、それを正面から叩き潰してやる!!」
「おのれ、化け物がぁぁあああ!!」
最初の一撃で、タナトスは相当なダメージを負ったらしい。骸骨の身体でも、痛みは感じるのだな。実に面白い。
「《フィアーズ・トルネード》ッ!!」
「《ファイア》」
濃厚な霊力を込めて放たれた奴の霊術に、最も弱い火霊術をぶつけてやった。赤黒い竜巻に、ちっぽけな火の玉がぶつかり、天まで届く程の火柱が上がる。
「ば、バカな……こんな初級霊術が、我の攻撃を、飲み込んだだと……」
「どうした? 貴様に、遊んでいる暇があるのか?」
「ぐ……! 《フィアーズ・メイルシュトローム》! 《フィアーズ・トルネード》! 《フィアーズ・フレア》! 《フィアーズ・メテオ》! 《フィアーズ・ディストラクション》!!」
禍々しい色の、渦巻きが発生し、竜巻が吹き荒れ、爆炎が上がり、隕石が降り、苦悶の表情を張り付けた死者たちの憎悪が、それぞれ、私の元へと殺到する。
ああ、もちろん結界で周囲を保護してある。よほどやっちまわない限りは大丈夫だ。地形は少しばかり変わるだろうが、まぁ今後の観光地にでもして欲しいと思う。
「《アクア》、《ウインド》、《ファイア》、《グランド》、《ダーク》」
私も負けじと、初級霊術で応戦する。尚、結界が無かった場合、これだけで国がいくつか消え去る事になる。奴を“倒す”でも、“殺す”でもなく、“滅する”つもりだから、一切自重していないのだ、今回は。
超高位霊術と初級霊術がぶつかり、あっさりと初級霊術が勝利した。
「……あ、ありえん……こんな、バカなことがあるか、あってたまるかッ!!」
「と、言われてもな。実際に起きているのだから仕方あるまいよ。というか、貴様は、この私が、お遊びモードのグローリアにどうにかされると、本気で思っていたのかね?」
「お遊び、だと……」
「そうだとも。貴様が何を思い、何を願ったのかは知らんし、興味もないが、あの腐れ女神が、それを本気で叶えてくれると? バカバカしいにも程がある」
「ぐっ……」
実は、光喰獣たちを喰い殺した後、グローリアの声が聞こえてきたのだ。奴の話によると、このタナトスとかいう骨は、何らかの“願い”を叶えるために、彼女の指示通りに動いていたらしい。バカの極みだ。
「だが、いかに貴様がバカであろうと、許されない罪を犯した事に、変わりはない」
「罪? 人を襲い、命を奪った事か? そんなものが罪になるのなら、貴様もよく犯しているではないか! 今更何を善人面している、勇者殺しの化け物め!!」
なるほど。どうやら、真性の馬鹿らしい。私は、思わずため息を吐いた。ここまで来ると、いっそ哀れに思えてくるな。
「そんな細かい事はどうでもいい。人と触れあう楽しみが減るのは、少し寂しいが、今はそんなものを気にしている場合ではない」
「なんだと? では、何か? 哀れな吸血王を葬ったことが、罪になるとでも!? はっ、なかなかお優しい怪物様だ!」
「それも割とどうでもいい。第一、奴は死んでいないぞ」
「何を馬鹿な。いくらオーバーデッドと言えども、あれだけのダメージを与えれば……」
リンドのことはまぁ、置いておく。どの道、何故プルミエディアたちやミリーナに怪我をさせているのか、小一時間問い詰める必要はあるかもしれんが。
心なしか、悲鳴が聞こえたような気がするが、それも放っておこう。
「わからぬのなら教えてやる。貴様は、私の仲間を傷つけた。プルミエディアという料理人を、レラという秘書を、フィリルは……まぁいいが」
結界の外から、ウサ耳の抗議が聞こえてくるが、知らん。知らんったら知らん。あれだ、空耳というやつだろう。
「アシュリーという
今度はクソトカゲの声が聞こえてきた。うるさい、黙れ。貴様は私の奴隷のようなものだろう。そして、肉片。おとなしくしていろ。ふるふると震えるな、鬱陶しい。
「何より、私の大切な、とても大切な、ミリーナという女を傷つけた事は!! 断じて……許さんッ!! 貴様には死など生温い。
そうだ。ミリーナを傷つける者は、誰であろうと許さん。許してはならないのだ。
ふと結界の外にいる彼女の姿を確認してみると、顔を真っ赤にして、へたり込んでいた。なんだ? こいつに何かされたのか? だとすると、とんでもないな。もっといたぶってやるべきだろうか。
「そ、そんな事で……そんな事でッ!! 我の夢が、野望が、潰されてたまるかッ!! そのような不条理が、まかり通ってたまるかァ!」
骸骨がきゃんきゃんと吼え、私に向かってきた。まだやるのか。おとなしく、自分の罪を認めれば良いものを。
「ふん」
「ぐぎゃああああ!? な、なんだ! なんだこの痛みはッ!? 我に、何をした!?」
「なんだ、知らぬのか? 勇者たちが扱う“神気”というものは、貴様のような不浄の存在に対して、絶大な力を持つのだぞ」
「馬鹿な! 貴様が、あれを使えるはずがない!」
「私に不可能はない」
散々現物を見ているせいか、案外あっさりと使うことができた。ちょっと頑張ってみたら、剣に神気が宿ったのだ。やってみると、意外と何とかなるものだな。
「おの、おのれ! おのれ、化け物!! 何故、貴様のような存在が居るのだッ! あり得ぬ! 貴様は、強すぎるのだよ!!」
「知るか。生まれたときからこんな感じだぞ」
骸骨め。何回私のことを化け物呼ばわりすれば気が済むのだ。見た目からしたら、貴様の方が十分化け物だろうが。
さて、そろそろ消すか。いい加減、鬱陶しくなってきた。
「それでは、刑を執行する。何か、言い残したことはあるかね?」
「グローリアめッ! 話が違うではないか! 奴の計画通りならば、今頃は……!」
「無いようだな。それでは、ごきげんよう」
「ふ、ふふ……だが、我が消えても、まだ、終わるわけではない。楽しみにしていろ、化け物。貴様も絶望の底に落ちる時が来る! ふ、ふふふ、ハーハッハッハッハッハッ!!」
うるさいので、この世から滅してやった。仮にも神というのなら、肉体が滅びようと死ぬわけではないが、精神体を《次元の墓場》に飛ばしてやれば、例え再生しようともはや何もできない。あそこでは、一切の力が使えないからな。
ついでにクレシェンドペインをかけておいてやったから、凄まじい激痛と共に、再生と死の無限ループを永遠に繰り返す事になる。何年か経てば、精神も壊れるだろう。いい気味だ。
「さて、後始末をせねばなるまいな」
まだ少し敵の気配が残っている。先ほどそのうちの何体かがどこかに消え去ったが、グローリアにでも拉致されたのだろうか。
あの腐れ女神め、今度は何をしでかすつもりだ?
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