第8話 死神との死闘!!


 レラちゃんの霊破銃が火を噴き、その隙にフィリルが召喚の準備をする。あたしも一緒に、タナトスの足止めに挑戦している。


「ふ、ふふふふはははははははッ!! 温い、温いぞ人間共よ! この程度で我に挑もうとは、片腹痛いわッ!!」

「あんたが勝手にこっち来たんでしょうが!」

「くそ、結界を抜けないッ!!」


 まぁ、こうなるわよねー。重霊撃砲が全く効かないんだから、あたしたちの攻撃なんて通るわけないわ。わかってたわよ、くそぅ。


「“我が契約に従い、来たれ、悠久の賢者! 聖なる祝福で、不浄なる者に裁きを!!”」

「ふっ、たかが第200位階程度で何ができる」

「うるさいですねっ!! これが限界なんですよぉ! 悪かったですね、雑魚で! “召喚! 天賢士 ジオフェッサー!!”」


 逆ギレ気味に叫び、自らの最高戦力を投入するフィリル。白いローブを纏った老人が、この戦場に降臨した。でも完全に舐められてるわ。


「さぁ、行くわよ!」

「はいです!」

「やれるだけのことは、やる!!」


 あたしは剣を構え、レラちゃんは霊破銃を構え、フィリルはジオフェッサーに指示を下す。


「《ホーリークロス》!!」

「《スパイラルボンバー》!!」

「《天の裁き》!!」


 あたしたち三人の全力が、同時に吼えた。



「ふっ……」



 でも。



「……はぁ」

「硬すぎる……」

「むうぅ……卑怯ですぅ……」


 あっさりと、結界にかき消されてしまった。反則よ! 硬すぎるわよ! おとなしく食らっときなさいよ、このクソ骸骨ッ!!


「さて、それではこちらからも行こうか」

「「「ッ!!」」」


 カタカタと骨を鳴らしながら、タナトスが動き出した。さすがに黙って見ているだけってわけにはいかないか。

 右手を天に掲げたかと思うと、禍々しい光がどんどんと奴の掌に集まっていく。やばい、マジでヤバいッ!! あんなの食らったら即死よ!! ど、どうすれば!?


「《フィアーズウェイ──」

「おおっと待った! 嬢ちゃんたちには手を出させないぜ!!」


 死を覚悟したけど、高速で現れた影が、タナトスの頭をぶっ叩いた。この声は、アイツね。やっと来てくれたかぁ……。


「……リンドか」

「よう、骸骨野郎。ちぃとばかし遊びが過ぎたみてぇだな? 見ろよ、お前さんが他の門に放ったアンデッド共は、もうなんにも居やしないぜ」

「……ふっ」


 不敵に嗤う骸骨から、あたしたちを守るようにリンドが割り込んできた。ナイスよ。本当に、おかげで助かったわ。

 口振りから察するに、ミリーナさんたちの方も終わったみたいね。


「やっほ~い!! わたし、参上!」

「ふぃ~、なんとか間に合ったのう!」

「ボ、ボクは結構キツかったよ……ただのエンシェントドラゴン風情が、無茶をするもんじゃないねぇ」

「ふん、続々と集まりおって。逆に好都合だ」


 ミリーナさんが、アシュリーが、リリナリアちゃんが、それぞれ帰ってきた。よし、これで少しは勝ちの目が出てきたわ!


「さぁ、タナトスさん? モタモタしてると、うちのボスまで帰って来ちゃうわよ?」

「ボスて。いや、まぁそうなんだけどよ」

「プルミエディアさん、あんまり調子に乗って挑発してると痛い目見るよ」


 でも実際、そろそろフィオグリフも帰ってくるはず。土壇場で、アホなことをやらかしていなければ、だけど。

 あの人、変なところで抜けてるからなぁ。


「ふ、ふふふ……ふふはははは……!」

「な、なによ?」

「ふはははははははははっ!! 甘い、甘いわ! これで勝ったつもりか? 本気でそう思っているのなら、あまり我を舐めないことだな!」

「…………」


 やけに明るいタナトスを前に、あたしたちは気を引き締めた。これだけのメンツが揃っていて、更にあのフィオグリフまで帰ってくる(はず)っていうのに、やけに余裕だ。もしかしたら、とんでもない切り札を隠しているのかもしれないわね。


「まとめて消し飛べッ!! 《フィアーズ・カタストロフィー》ッ!!」

「皆、結界を!!」

「おうよ!」

「わかっとる!」

「プルちゃんたちは、リンドの近くへ!」

「うん!」

「急ごう!!」

「言われなくても~!」


 突如、タナトスの身体から凄まじい霊力が噴き出した。まさか、最初からこれを狙って、ずっと力をため込んでいたの? だから、相手にしやすいあたしたちの所に、真っ先に来た?


 膨大な熱で空間が歪み、暴風が吹き荒れ、気絶している人たちが、棒きれのように吹き飛んでいった。マリアージュ殿下は……!?

 そして、キノコ雲が立ち上る。



「ふっ……」


 噴煙が辺りを包み、視界が限りなく0に近くなった。痛む身体を引きずりながら、皆の安否を確認する。

 勝ち誇ったタナトスの声が、憎々しい。


「……あ、あれ? 動ける……痛いけど……」

「わ、私も、なんとか……」

「うぅ、酷い目に遭いましたぁ……」


 リンドに守ってもらったあたしたち三人は、全員無事だ。よく見ると、マリアージュ殿下も近くに倒れている。まぁ、大丈夫よね。


「ぐぬぬ、いったいのぅ……嫁入り前の大事な身体に、何て事をしてくれるんじゃ」

「あ~、死ぬかと思った……ボク、そんなに強くないんだから、加減してよね……」

「ふうぅ、びっくりしたぁ。わたしとしたことが、油断しちゃったよ」


 よかった。人外組も無事ね。少なくとも、文句をぶつくさ言うだけの元気はあるみたい。


「ぬ、生きておるか。しぶとい奴らめ」


 へん、ざまぁみろ、骸骨。あたしたちはそう簡単にはやられないわよ……って、んっ?


「リンドはッ!?」

「「そういえば!」」

「そういえばて、お主らひどいのう。守ってもらっておいて……」


 アシュリーのお小言をスルーし、リンドの姿を探す。おかしい、近くにいたはずなのに。


 すると、タナトスが唐突に爆笑し出した。


「ハーハッハッハッハッ!! お探しの物は、これかね?」


 奴の手にあったのは、グズグズに焼けただれた何……か……!?


「う、うそ……でしょ……」

「そ、そんな……」


 その正体に気付き、あたしとフィリルは、両膝を地面につけた。そんな、そんな! あれは、あの肉片は……!!


「ハッハッハッハッ! 哀れな吸血王よ! せっかく命を拾われたというのに、呆気なかったなァ!!」


 間違いなく、リンドの変わり果てた姿だった。彼は、必死にあたしたちを守ってくれたんだ。だから、こうしてあたしは生きているし、彼はあんな姿に……。


「リン……ド……」

「…………」


 皆、黙り込んでいる。言葉を失うとは、こういう事を言うんだろう。


「ハハハハハッ!! さぁ、お前たちも、哀れな道化の後を追うがいい!!」


 そう笑うと、タナトスはリンドを投げ捨てた。あたしも、レラちゃんも、フィリルも、リリナリアちゃんも、動けない。



「ハーハッハッハッハッ!!」



 そんな中、あの人が軽く呟いた。


「あっ、フィオが来るよ」

「ハーハッハッハッハッ……は?」



 次の瞬間、凄まじい暗黒が辺り一帯を、いや、恐らくはこの国一帯を、包んだ。


「貴様が、タナトスか。私の連れが世話になったようだな」

「……そ、そんな……バカな! ど、どうやって、あの場から……!?」



 ……遅いわよ、バカグリフ。

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