第7話 タナトスとの戦い⑥


 戦塵が舞い、ぶつかり合う戦士たち。皇国軍とタナトス軍の全面衝突が、始まっている。


「はぁ、はぁ……ッ!」

「数が、多すぎる……!」

「頑張って、ゴー! 押されちゃダメです!」


 あたし、レラちゃん、フィリル。うちのパーティーで言う“人間組”の三人で、必死の抵抗を続けている。でも、あんまりよろしくないわね。一応皇国軍の正規兵たちも応戦してくれているんだけど、多勢に無勢よ。


「ミリーナさんたちは、まだ帰ってこないの!?」

「あっちもあっちで数が多いからね。でも、もう少し粘れば、なんとか」

「んくっ……あ~、霊薬がすごい勢いで減っていきますよぉ~……」

「フィリル、右!」

「ふおぉ!?」


 豪快に霊薬を飲み干すウサ耳の頬を、斬撃がかすめていった。リビングデッドが、密かに近付いていたみたい。危なかったわね。


「このっ!」

「あ、ありがとです~」

「気を抜いちゃダメよ!」

「どっちが先輩ハンターなんだか、わかりゃしないね」

「はうっ、手厳しい……」


 すかさず斬撃を返し、敵を倒しておいた。まったく、戦闘中まで間が抜けてるのは勘弁してほしいわよ。フィオグリフにチクっておこうかしら。

 その後も、有り余っている回復薬をがぶ飲みしながら、雪崩のように押し寄せる敵の群れと交戦し続けた。


「んっ?」

「これって……空間転移ッ!? まさか!」

「や、やばいですよ~! 逃げましょう!」


 う、嘘でしょ。なんで、こっちに来ちゃうわけ!? これ、もしかしなくても……! この戦場の中で、紛れもなく最強を誇る敵が、目の前に現れる系……?


「グゥゥゥ……おのれ、人間共めが……!」


 あ、あたし死んだかも。



「「「~~ッ!!」」」


 凄まじいプレッシャーに、押し潰されてしまいそう。見ただけでわかるわ。


 こいつは、他とは次元が違う。


「我は邪神タナトス!! この地に降臨し、数多の死を振りまく神である! 人間共よ、我に逆らう己の愚かさを噛みしめながら、死に絶えるがいいッ!!」


 死神を彷彿とさせる、大鎌を携え、黒いローブを纏った骸骨。それが、タナトスの姿だった。ぱっと見普通のスケルトンがちょっとオシャレしてみましたっていう感じの風貌だけど、発する霊力の濃さが、尋常じゃない。

 これが、神。これが、敵の親玉。


「……か、各隊、一斉射撃!! 目標、“邪神”タナトスッ!!」

「む、無理よ! 効くわけ無いわ!! マリアージュ殿下、早く逃げてッ!!」

「私が引き付ける!! プルミエディアさん、フィリル! さっさとその女を連れて逃げて!」

「そんな! レラちゃん!」


 タナトスが発する凄まじい霊力にあてられたのか、兵たちが次々と倒れていく。あたし自身、今にも倒れてしまいそうな程。それぐらい、やばい。

 レラちゃんが自分を囮にしようとしてるけど、これは、意味がないと思う。無理だ。とても逃げきれないッ!


「無駄な抵抗は止したまえ、人間共よ。おとなしく、健やかなる死を楽しむのだ」

「んなわけにいかないっての! あんたなんか、フィオグリフが帰ってきてくれれば……!」

「わかっているとも。アレは規格外すぎる。我の手にも負えん化け物だ」

「だから、私たちにさっさと死んでほしいってわけ?」

「そういうことだ」


 そう、そうなのよ。フィオグリフさえ、あの人さえ来てくれれば、一気にこの状況を打開できる!


 ……でも、本当にそれでいいの? 結局、あたしって奴は、彼に頼ることしか、考えてないじゃない。ダメよね、こんなんじゃ。


「レラちゃん、フィリル」

「?」

「なん、です……?」


 いつまでも、足を引っ張ってばかりじゃいられないのよ。あの人にずっとついて行くんだから、これぐらい、乗り越えられないと!


「戦おう。あたしたちで」

「……私は元々そのつもり」

「うえぇ!? た、戦うって、無茶です! 勝てるわけないじゃないですかッ!!」

「なんとかなる! いや、なんとかしなきゃいけないのよ! あたしは、あたしたちは、貧弱な“人間”だけど、あの、フィオグリフの“仲間”なんだから!」

「ご主人様が帰られるまで死守できなければ、ご主人様が初めて依頼を失敗する事になる。あの方に、そんなものは似合わないわ」

「たしかに、あの人だけなら、本来はこんな戦いすぐに終わったでしょうけど……」

「グチグチ言わないの! ほら、やるわよ!」

「あー、もうっ! わかりましたよっ!! 腹くくりますよッ! ……ご主人さまめ、帰ってきたら、散々ご褒美を要求してやります!!」


 とは言ったものの、どうしようかしらね、本当に。マリアージュ殿下も気絶しちゃってるみたいだし、何故かタナトスはちっとも動かないし。急いでるんじゃなかったの?


「……覚悟はいいかね?」

「わざわざ待っててくれたの? 気の利く骸骨ね」

「ふっ、そうだろう。死に行くものには、華を持たせてやらねばな。死神として、そこは譲れん」

「変なこだわり持ってるね」

「何とでも言え」


 幸い、コイツは油断しきってるわ。実際、あり得ないぐらい実力差があるだろうから、無理もないんだけど。そこに付け入る隙があるはず。ある、はず。きっと、たぶん。



「行くわよッ!!」

「来い、人間共よ!!」



 こうして、絶望的な戦いが始まった。

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