第8話 続、最強の(元)人間vs最強の怪物!


「…………」

「…………」


 斬撃の応酬により、見るも無惨な光景となった異空間にて、私と彼女は見つめ合う。いや、べ、別にロマンチックなシーンだとか、そんなわけではないぞ? 勘違いするなよ?


 って、私は誰に言っているのだ……。


「!」


 ミリーナの身体から噴き出す神気が、更に勢いを増した。どうやら来るようだ。


「とぅっ!」


 地が割れるほどに力強く蹴り、豆粒大に見えるほどまで高く、高く跳び上がるミリーナ。もはや雲を突き抜けてしまっている。


「神技! 《パラケルススの槍杖》!」


 しかし、そんな遠くからでも、彼女の叫び声が聞こえた。その気になれば、私はものすごく耳が良いのだ。


「いきなり奥義だと!? 私を殺す気か!」


 ミリーナも同様に、何故か私の叫び声だけは、どれだけ遠くにいても聞こえるらしい。地獄耳と言う奴だろうか。


「どうせ効かないでしょ!」

「……それもそうだ」


 パラケルススの槍杖。ミリーナが修得している神技の中でも、かなり上位の威力を誇る奥義だ。まあ、もっと上の神技もあるが。


 空が輝き、歪み、ひび割れ、どこからか集まってきた光の粒が、天空に舞うミリーナの時空聖剣へと集まっていく。そしてそれは、地上からでも確認できるほどに大きな、光の槍となった。


「ていやぁっ!!」


 巨大な槍を、片手で投げつけるミリーナ。もう、なんか、あれだ。あいつ、女を捨ててるな。普通の女はこんな事できん。というか、槍杖じゃなくて、ただの槍だと思うのだが。


「《カラミティ・ウォール》」


 掌に暗黒をかき集め、それを壁の形にして、あの槍から身を守るために、放つ。

 力を制限しているからだろうが、やけに小さいな。これで、持つのか……?


「うるさっ」


 槍と壁が衝突し、思わずそう呟いてしまうほどの轟音が鳴り響いた。


「しゅたっ!」

「自分で効果音を喋るなよ」

「…………」


 眩い光を放ちながら、壁を削り続ける槍と、ガリガリと不快な悲鳴を上げながらも、それに耐える壁。やはり、力を制限しているせいか。本来なら、槍が壁に即打ち消されて終わるはずなのにな。


 ミリーナがバカ丸出しで着地したが、まぁそれは置いておこう。


「……なに……?」


 ピキりと音を立て、壁に亀裂が走った。いかんな。これは、破られるか……?


「神技! 《アーサーの聖剣》!」

「!」


 まだ私の壁が健気に耐えている最中だというのに、無慈悲なミリーナが、続けて神技を放つ準備を始めた。容赦ないな。


 光の粒が奴の時空聖剣に集まっていき、強く、光り輝く。“アーサーの聖剣”は、ただの斬撃の強化版といったところだ。神気を剣に吸着させ、極限まで増大させた上で、放つ。


「くらえ~!」

「ちっ……」


 奴が、その大剣を、縦に振り下ろした。


 三日月のような形をした、光り輝く斬撃が、今にも崩壊してしまいそうな壁に迫る。


 仕方ないな……。


「《カラミティ・ショックウェーブ》」


 掌に暗黒を集め、放つ。


「げっ!?」


 衝撃波が、内側から壁を壊し、パラケルスス の槍杖をも飲み込んだ。


「これ、やばいパティーン……?」


 何語だ。パターンと言え、パターンと。


 衝撃波と、光の斬撃がぶつかる。

その余波で、周りの木々が吹き飛んでいき、暴風が一帯を襲った。


「涼しくて良い」

「これさ、スカートだったらめくれてるよね」

「知るか」

「フィオのえっち」

「何故そうなる」


 戦いにえっちもクソもあるか。手合わせとは言え、なんとも緊張感の無い……。


「っとぉ!? 聖剣壊れたっ!」

「沈め、外道め」

「そう簡単にいくかって!」


 ついにアーサーの聖剣が飲み込まれ、衝撃波がミリーナを襲う。だが、さすがにバカ正直にそれを食らうわけもなく、彼女は素早い動きで安全地帯へと退避していった。


 地面はアウトなので、また空だ。

当然、これも予想済みである。


「《カラミティ・レイ》」


 掌に暗黒を集め、光線状にして空へと放った。ターゲットは、おバカな外道だ。


「ふぬっ!」


 神気で光の足場を作り、空中でそれを回避するミリーナ。だが、一回避けられただけで終わるほど、私の攻撃は温くはない。


「うひゃあっ!? あ、あぶな~……」

「ふんっ」


 カラミティ・レイは囮だ。ハナから、当たるとは思っていない。本命は、我が手に握る、大剣。つまりは直接攻撃だ。


「あっ」

「ふっ」


 地を蹴り、空に跳び上がる。そして、同じく空中にいるミリーナと、目と目が合った。


「はっ!」

「わわっ!」


 大剣を振る二人。先手は私で、少し遅れて、ミリーナも迎撃してきた。


 人の手には余る二つの怪物大剣がぶつかり、不快とも、愉快とも取れる金属音が鳴る。


「ふんぬ~……!」

「ふっ、怪力め」

「涼しい顔して、よく言うよ……!」

「そうか」


 空に浮いたまま、鍔迫り合いを繰り広げる私たち。ミリーナは神気を集めて、私は暗黒を集めて、それぞれ足場を作っているのだ。

 傍目からは、どこか神話のような光景に見えるかもしれない。


「ふんっ!」

「きゃっ!」


 結果、私が勝った。いくら奴が怪力でも、それを少し上回る程度に調整している私には、勝てるわけがないのだ。クックック……。


「いった~……あ?」

「……チェックメイトだ」

「……ちぇっ」


 吹き飛ばされ、地面に墜落したミリーナ。その喉元に、大剣を突きつけた。


「参りました」

「ふっ、私の勝ちだ」

「……あ~あ。フィオは相変わらず強いなぁ」

「お前もな。とても、人間とは思えん」

「元人間ね、元」

「クックック、そうだったな」

「……あはっ」

「ククク……」


 大剣を戻し、彼女に手を差し伸べる。

 さすがの彼女も、今度は不意打ちをしてくることはなく、笑顔でそれに応じてきた。


 ああ、やはり……。


「お前と居ると、本当に愉快だ」

「うんっ! わたしもだよっ!」

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