第5話

ガチャッ、と




少し高級そうなドアを開けて、2人の女の子は脱いだ靴も揃えずにズカズカと部屋の中に入って行く。



それに少し間を空けて、恵嗣は恐る恐る続いて部屋に入る。




堂々と部屋に入って行った2人…茜子と智景は、先に部屋に来ていた女の子2人にヘラヘラと笑いかけながら、

テーブルと共に据え置かれている座椅子に、既に腰かけていた。



いかにも自分の家の自分の部屋、というような振る舞いだ。



「キムさんもどうぞー?」



茜子が恵嗣にちょいちょい、と手招きをする。




―何かと軽いな



そんな事を思いながらも、


まぁ重苦しいよりはマシだ、と少し肩の力を抜き、

一応気を使ってみんなから一番離れた所に座ろうとした時、



「あ、彼が喜村恵嗣君ね。

キムさんだよ、キムさん。

あだ名は王道なかんじでいくよw」



智景がこれまた軽く、先に部屋にいた2人に恵嗣の事を紹介する。



サクッとした軽さの紹介に、恵嗣は少し呆れたようにため息をついたが…

その流れのまま2人に自己紹介を続ける。



「どーも、喜村恵嗣です。

何するのかまだわかんないすけど、とりあえずよろしく」



「あ、ども、西方由絵(にしがた よしえ)です。

一応生徒会長なんで、よろしくです、」


「伊沢千乃(いざわ ちの)です。よろしくおねがいしますー。」



「おっ、いいかんじですねw

黒メガネがよっちで裸眼がちっぴーだから!

まぁそんな感じで、メガネででも見分けて仲良くしてくださいなーww」



最後も智景の軽い締めで自己紹介を終え、恵嗣はようやく座椅子に腰を下ろし、ホッと一息ついた。

自己紹介を促してくれるあたり、智景は意外と面倒見が良いのかもしれない。




と思ったのもつかの間、生徒会の4人はもうそれぞれに好きな事をしている。

面倒を見るなんてことなかった。なんとも自由だ。



由絵と千乃は2人並んで仲良く絵を書いているし、


千影はテーブルに突っ伏してひたすら「ねむたーい」なんて茜子に話しかけていて、

茜子はその千聖の相手をしながら携帯をいじっている。



昨日は自分の事が精一杯でみんなの顔をじっくりと見る事はなかったが、

今こうして落ち着いて見るとみんな地味にかわいいなぁ、

なんて事を恵嗣は思ってしまう。

男の子だから。



智景は元気な感じがにじみ出ていて、誰よりも絡みやすそうな空気を出している。

どちらかと言うと男友達のノリに近いように思うが…。

ちなみに腕っぷしはそこらの男より強そうである。



茜子は身長が高くて、ちょっとしたモデル体型で綺麗な顔立ちをしている。

一見クールそうだが、智景と会話してるのを見ると見た目とは正反対のようだ。

【ギャップ萌え】か【喋ると残念】か、紙一重。



由絵と千乃は小柄で前の2人より『女の子』な色が強い。



由絵は少しミステリアスな空気はあるが、影がある、というわけではなく、凛々しい感じだ。

小柄だがスーツの似合いそうなかっこいい女の子、そんな印象がある。




千乃は見たまま女の子。THE女の子。

小さいツインテールにふわふわした空気をまとっていて、仕草も全て女の子らしい。

色で例えるなら間違いなくピンクだろう。





こうして見ればどこにでもいる普通の女の子のグループでしかないが…。


だから余計に、昨日の出来事が、助けてくれてのがこの子達だなんて信じられなくなる。




―恵嗣がそんな事をボーッと考え始めてから少し経って、智景が少しムスーッとしながら口を開いた。



「てかテル遅くない?

あいつ来たら説教だわ」



それを聞いて時計を見ると、もう13時を過ぎたというところだった。



が、恵嗣は時間よりも、

今の智景の言葉に一つ引っ掛かる所があった。



「え、テルって?」



「あれ?キムさん知らない?

普通クラスでも保体の先生やってる菅野輝光(すがの てるみつ)だよー」



「え?いやそのテルは知ってるけど…どゆこと?」



「あー…色々複雑なんだけど、テルはこの生徒会の顧問?みたいな人だから。

表向きは普通の教師だけどねー」



茜子がそう簡単に説明してくれたが、

やはり混乱は消えず



「いや、でも俺結構テルと話すし…てか一応剣道部の顧問なんだけど…え、いや、うん」


「動揺しすぎだわww

まぁ知らないのが当然なんだけどね。

一応この学校の最高機密だから。

他の先生もぶっちゃけみんなそんな感じだしねw」




「あー…まじかー…ほえー…」



恵嗣はいきなり飛び出した【最高機密】で余計に混乱したまま、しばらく黙り込んでいたが、


不意にドアから『コンコン』とノックの音が聞こえた。



「来たなww

入っていいよー」



智景がそう言うと、

ガチャッとドアを開けて

1人の見慣れた、こっちの世界とは無関係だと思っていた男性教師が入って来る。




「おっ、恵嗣来てるな。

お前も大変だなー…」



「テル!!

めっちゃテルじゃん!!」



「めっちゃテルってなんだ…、

少し落ち着け。」



そう言いながら輝光は恵嗣の背後を取り、肩を揉む。

肩揉みは彼なりのコミュニケーションらしい。



「で、一応事情は聞いたけど…

みんなはそれでいいんでしょ?」



テルのそんな質問にあまり間を置かず、4人はそれぞれに頷いた。



「そっか。

まぁ、しょうがないな恵嗣。頑張れよ。」



「いや頑張れ言われても…結局ここで何すればいいのさ?」



「何って昨日みたいな事ばっかりだよ。見たしょ?

とりあえずお前は死なないように俺が多少は鍛えてやるから!」



「んん!?テル!!あれは死ぬって!!

どう鍛えたって俺は無理くさい!!」



「大丈夫だってー。

この4人ならお前1人ぐらい守れるから。

昨日みたいに手こずる事もそうそう無いし…」



そう輝光が恵嗣をなだめるように説明していたところに、


「あーそういやテル?

昨日のアレなんだけどさ~、なんであの扉突き破れたの?

今まで手こずったとしても向こうの校舎まで行く事なんてなかったしょ?

見た目もちょっとおかしかったしさ~…」


ちょっと真面目な顔つきで、智景が割って入った。


その問いに輝光は困ったような顔をしながら、


「んー…なーんにもわかんないんだよねー。

キャンパス長が中心になって調べてるけどさ…

まだ何にもわかんな…」


ブーッブーッ、ブーッブーッ



話の途中で、

不意に輝光の携帯が鳴った。



「おおっと、何かわかったのかな?」



ほんのりドヤ顔を浮かべて輝光は電話に出る。



「はい菅野ですー。


……はっ!?


…はい、とりあえず行きます。


報告はまた後程で」



電話が終わると輝光は、

ほんのり苦笑いを浮かべて4人に言葉をかけた。



「みんな、とりあえず準備してくれる?」


「え?

どゆこと?

こんな昼間から?」


「俺も詳しい事はわかんないけどさぁ…

でも今はとりあえず出ないとヤバいみたいね。」



さっきまでのほほんとしていた千乃が少し動揺している。


他のみんなも少なからず焦っている様子で、

どうやらちょっとした緊急事態のようだ。



「…ねぇテル、俺は?」



「あー…恵嗣も来い。

百聞は一見にしかず、

一回ちゃんと見た方が説明するより早いし安心するから。」


「えー…」


「大丈夫だって!

今日は俺もついてくから。命ぐらいは守れる。

あぁ、でも一応木刀ぐらいは持ってった方がいいかも」



「あー、わかったよ~…行くよ…」





恵嗣は輝光がゴソゴソと部屋の隅から取り出した木刀を一振持って、

ちょっと吐きそうになりながらみんなの後ろにくっついて生徒会室を出る。





そこに充満していた、さっきまでの平和な空気は少し薄くなり、

ちょっと首筋がピリっとするような、

そんな空気が漂っているように思えた。

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