第4話

あれから一夜明け、

時刻は午後12時20分

穏やかな土曜日のお昼時。



恵嗣は昨日初めて行ったあの魔窟…


もとい、駒楽学園生徒会室へと向かうため、まだが残る春の空の下を歩いていた。



昼過ぎに行けばいいか…という感じに思っていたのだが、少し早く出てしまったのには理由があり



彼がシャワーを浴びて、遅い朝食のカップラーメンを食べ、さぁ歯でも磨こうかと思っていた時、彼の携帯に知らない番号から着信があった。



恐る恐る、通話ボタンを押すと、妙なハイテンションで女の子の声が通話口から聞こえてきた。



『あ、もしもーし

喜村さん?』



「そうですけど…」



これはつい半日ほど前に聞いた声。


この…なんか…ユルいような元気なようなよくわからないしゃべり方はきっと赤メガネの子だろうか。



『まじですか、よかった!

あ、そろそろ来てもらって大丈夫ですよ!

待ってますんで!

それじゃ~』



プツッ、プーッ、プーッ……



何とも一方的な電話だ。今日も今日とてこれだ。

それでも長く待たせては悪いと、こうして少し早めに寮出る事になってしまった。




―てかなんで俺の電話番号も名前も知ってんだよ…




そう思ったが、まぁ後で全部聞けば良いかと開き直り、それなりに急いで歯を磨き、一応制服を来て恵嗣は部屋を出た。





さて、駒楽学園の学生寮は校舎と同じ敷地内にあるが、


その距離は意外と離れていて正面玄関までは普通に歩いても10分強はかかる。




そんな道程の中、恵嗣は素晴らしく晴れた空を見上げながら歩く。


少しだけ、高ぶる気持ちを押さえながら。





そして、いつものように校舎内に入ってから気付いた不自然な所に気が付く。




昨日の傷跡が、

何一つ残っていないのだ。




昨日は暗かったせいで細かい所まではわからないが、

あの化け物が所々ぶつかりながら進んでいた廊下の壁も、

確実に崩壊していたであろう階段も、

何一つ今までの校内と変わっていない。



昨日の出来事の面影すら無いのだ。



気になってあの化け物を最終的に倒した音楽室前の廊下も見に行ったが、


あの化け物の残骸は愚か、床や壁には汚れ一つ無い。




「どうなってんだぁ…?」



恵嗣は頭をポリポリ掻きながら、一人当然の疑問を口にする。



いや考えても仕方ないのか…と大きくため息をつき、とりあえず再び生徒会室に向かおうとして振り返った時、



廊下の遠くに見えた2人の女の子の影に、思わず反射的にビクッとする。



「あー!いた!」



そう叫んで向かってくる2人の女の子。

昨日の赤メガネと茶メガネだった。



「喜村さん遅いよー、何してたのさーw」



昨日とはうって変わってフランクな感じで話しかけてくる茶メガネ少女。

すごい高低差だ。寝たらだいたい忘れるタイプなのだろうか。


その変化に恵嗣は少し戸惑ったが…。




「いやぁ、階段とか廊下とか元通りになってたから…気になって…。」



「あぁ…昨日あれからちっぴーとあかちんで直したからね~」



「ちっぴーとあかちんとは…?」



「あら、自己紹介してなかったっけ?

ウチは【大鷹智景(おおたか ちかげ)】ですよ~。

そんであかちんってのはこの赤メガネw」


「どーもー!

【松ノ宮茜子(まつのみや あかねこ)】でーす!

よろしく~!

てかちーやん、赤メガネって紹介酷くない?それだともうメガネが本体じゃない?」


「え、あかちんの特徴それしかないじゃんw」


「あーあ、私はとても傷付いた、もう重罪だわ」



いきなり現れハイテンションで唐突に行われた2人の自己紹介。


赤いメガネの方【松ノ宮茜子】が、【あかちん】と呼ばれていて、


そして茶色のメガネの方【大鷹智景】が【ちーやん】というあだ名で呼ばれているようだ。

とりあえず今の会話で得られた情報はそれぐらいしかない。



「あ…ども、

俺は喜村恵嗣です」



「よろしくっ!

じゃあやっぱ【キムさん】に決まりだね!王道だね!」


「ちょっ、あかちん、速攻であだ名でいくんだねw

キムさん困ってるだろーがーw」


「えっ、いや親しみやすいかなと思って!

てかちーやんだってキムさんにするかってさっき言ってんじゃんかー」


「まぁ大鷹にあだ名つけられて喜ばない男子なんていないからねっ!

なんつってー!」


「いやまて、あだ名つけたの私だし!

てか待って、キムさん本気で困ってきてるから!

落ち着こう!」


「あぁ、すいませんw」



恵嗣は今はこのテンションについて行けず、少し顔を引きつらせていたが、

内心は『あぁ、面白い人達だ』と少しホッとしていた。

智景の昨日からの変わり様に、正直戸惑いもあったが。



「いや大丈夫すよ、

全然キムでもなんでもいいんで。」


「おっ、さすがだねー!」


「さすがって何なんだよw

てかキムさんも全然ウチらにタメ口でいいよーw」


「あ、私も全然いいよ!むしろそうしよう!」


「まじすか、

じゃあ俺もタメ口でいいすよ」


「いやさすがだわ!

てかあれ、何の話ししてたんだっけ?」


「あー…あかちんとちっぴーで校舎直したとかって話じゃなかった?」


「あー、そだそだ。

まぁね、魔法でちょちょっとね!」


「ほとんどちっぴー直してたけどねw」


「!

うちだってちゃんとやったもん!」





その言葉に恵嗣の頭で『?』が浮かぶ。



「え、

 ちょっと待って、魔法って何事??

 いやいや…やー…」



「あら、キムさんってまだそういう話し知らないんだっけw」


「そーだよー!

 だから生徒会室で今日話しする予定だったんじゃん!」


「じゃあ生徒会室行っとく?

 ちっぴーとかよっちももう待ってるんでしょ?

 それにもう大鷹さん足疲れた~」



「そだねー、

 じゃあそろそろ行くかー

 キムさん行きますよー!」




「あ…、はーい…。」












波乱の初日、



そんな感じで記念すべき幕開け。



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