第3話

…なぁ男子諸君?



それなりにかわいい女の子4人と自分と


夜中の校舎の密室で一緒にいるって言ったらどんな想像する?





……いや!

言わずもがな、何となくはわかる。



俺だって健全な一般の男子だしね。




俺もそんな状況に憧れなかったわけじゃない。


そういう漫画やアニメだって見たさ。



言ってしまえば『ハーレム』ってやつのど真ん中でしょ?






でもなぁ…




現実はそんなにsweetじゃなかったよ。





俺は、



ギャルゲの主人公みたいに、

幸せ人生は送れないみたいだ




————



時刻は日をまたぎ、

午前0時23分



夜の大鬼ごっこを何とか制した少年―喜村惠嗣は、




鬼ごっこのクライマックスで見事においしい所をかっさらっていった女の子4人組に、

特進校舎のとある一室へと連行されていた。




その連行途中で、夜の探索の目的であった特進校舎に続く渡り廊下も特進校舎内も通ったが、

自分はこれからどうなるのかという不安と緊張で、

ろくに見渡す事もできなかった。





そうして今は、女の子4人と自分と駄々っ広い一室で、テーブルを挟んで4対1で座っている。





――連れ込まれたこの部屋の扉には生徒会室と書かれていて、

この4人は生徒会の人間なのだろうと半信半疑ながらも察する事ができたが…


中に入ると本当にこの部屋は生徒会室なのかと疑ってしまう。



中は土足禁止で、入り口には少し段差があり、ちょっとしたアパートの玄関のようになっていて、

その段差の上には部屋の床全体にふかふかの白い絨毯がひかれていた。


部屋の真ん中には大きなガラステーブル、それと合わせて座り心地のよさそうな座椅子、

その横には50インチほどの薄型の液晶テレビがあり

テレビ台の中にはちらっと見えるだけでも、DVDプレーヤーとレコーダーはもちろんPS4やwii、ゲームキューブやスーパーファミコンまで新しい物から懐かしい物までいろいろと揃っている。




またその奥にはそれぞれの立派な机が4つ置いてあり、冷蔵庫、電子レンジ、これまたふかふかのソファーとベッドまで置いてあるではないか。




惠嗣は戸惑いながらもちょろちょろと部屋を見渡して、



『なんだここ…

俺んちより豪華だ!

むしろ生徒会室っつーより誰かの家だろこれ…。

完全に生徒会室ではないなぁ…』


怯えながらもそんな事を思う。



実際そう思っても仕方がないぐらいにこの部屋は生活感に溢れ贅を尽くしていた。




惠嗣が大きくため息をつくと、

黒縁メガネで、この中では一番真面目そうな顔立ちの『よっち』と呼ばれていた女の子がゆっくりと話始めた。



「あの、なんでこの時間に校舎の中にいたんですか?

立ち入り禁止のはずなんですけど」



淡々とした直球な質問に



「いや…DSを教室までとりに…」


そんな惠嗣のおどおどした答えに今度は


茶色いメガネの武闘家ばりに筋肉質な子が口を開く。



「いやいや、てか立ち入り禁止だっていってんじゃん。

どこから入ったの?

それに今DSなんか持ってないじゃん」



この子は完全にイライラしているらしく…。



「…すいません……。」


「謝ってほしいわけじゃなくてさ、

ちゃんと質問に答えてくれる?」


「…剣道部の道場から入って…。

DSはさっきの追いかけっこで落としたっぽいです…」


「はぁ?…で、実際何したかわかってんの?」


そんなイライラMAXな質問攻めに惠嗣はぼそぼそと答えていると…



「ちーちゃん、そんなイライラしちゃだめだって。

今回のはこっちにも責任あるんだし」



この4人の中で唯一メガネをかけていない、髪を小さなツインテールに結んだ子が助け船を出してくれた。



「そうだけどさぁ…」



茶色メガネの『ちーちゃん』と呼ばれた子は不服そうな表情のまま黙り込む。



「まぁ、ちーやんの気持ちもわかるけど…今回はお互い様っぽくない?

うちらにも原因あるのも確かだしね…。

てかこの彼をこれからどうするかのほうが重要なんじゃない?」



沈黙を破るように放った赤いメガネにすらっと背の高い少女の言葉にに3人は



「「「うーん…」」」



と揃って今度は考え込んでしまった。




惠嗣もその言葉を聞き、

特進の物騒な噂を思い出す。



『俺はどうされるんだろうか…


噂通りなら人体実験やら何やらに使われるんだろうか………


ヤバいヤバいヤバい…―』



小さく震える手に汗をびっしょりかきながら、テンパる脳を冷静に抑えようとしていたが、

そこにさっきまで憤慨していた茶メガネ少女のあまりにも意外で、何よりも物騒な言葉が惠嗣の脳に響く。



「じゃあもうめんどいから生徒会入れちゃえばー?

ほんとにこっちも悪いなら『処分』するのも後味悪いし。」



「まさかの!?

あーでもさっき剣術っぽい構えとってたし…

確かに男手あってもいいかもねー」



そんな重要な話を軽い感じで話す茶メガネと赤メガネを見て、



黒メガネ少女と裸眼少女は顔を見合わせて苦笑していたが…



「あの…剣道かなんかやってるんですか?

さっきも剣道部の道場から入ってきたって言ってましたし…」


そう黒メガネ少女が惠嗣に問いかけた。



「あ、一応…

でも剣道なんてしばらくまともにやってなくて、また始めたのもここに入学してからですけど…。」


「?

て事は?昔も剣道やってたの?」



ちゃっかり今話を聞いていたのか、今度は赤メガネが茶メガネとの会話を中断して惠嗣に問う



「一応ですけど

じいちゃんが昔道場やってたんで…

でも小2の時じいちゃんが死んでから、道場も閉じたんで俺は野球に行きましたけど…」



「ほー。

ちーやんはどう思う?使えると思う?」



赤メガネ少女は惠嗣の答えを聞いて、また茶メガネにそう問いかけた。


「いや~…

微妙だけど何もやってないよりマシじゃね?

実際今は接近戦できんのうちだけだからさぁ、

ちゃんと訓練して剣でも使えるんなら助かるかも…

あかちんはいいの?」


「あ、私は別になんでもいいかなーって!

じゃあ入れちゃう?入れちゃうか?

どうするよっち?」



「えっ、マジで?いや…、いいんじゃないすか?」


「んー、ちっぴーは?」


「あ、うん、よくわかんないけどいいんじゃない?

でもテルにも聞かないと…」


「あーそっかぁ…」




『―ん?え、何?

てか何?

俺この中に入んの?

俺の意思関係なし?んんっ?!』



惠嗣は4人の会話を聞いてそう思ったが、

それを口に出すと厄介な事…

というか存在を消されてしまう気がして、

心にとどめておく事にした。




―それでもまだ4人の会話は続き、

詳しい話と手続きはまた明日…実際は日付けが変わっているので、今日の昼過ぎにまた、という事になったようだ。



『さて、最後まで俺の意思は無視か…』



なんて事を思いながらも、なんとか命は助かったのだと実感し、大きくため息をついた。




「とりあえず、寮に帰っていいですよー。

あ、あとこの事は他言無用で…

じゃ、てことで渡り廊下まで送ってあげよう!」



そんな赤メガネの言葉に甘え、4人に渡り廊下まで送ってもらう。



今回も絶望で好奇心なんか仕事せず、特進校舎内を見る余裕はなかったが…。



「「「「じゃあまた」」」」



4人の言葉に、

『もうできれば来たくねぇよ』

なんて言葉を圧し殺し、軽く会釈をして、


渡り廊下を通って1人寮に向かう。




その道程はいつもの倍以上に感じたが、

何事も無く自室にたどり着き、ベッドに大の字になって大きなため息をついた。



「そういえば俺、自分の名前すら言ってないし………


………あ、てかやべぇ

DS落としたまんまだべや…最悪や…」



そう1人呟いて、他の事をもう何も考えられない脳と、

意識はだんだん深く沈んで行く…。





少年の波乱の1日の終わりはそんな何気ない独り言で終幕。





これが彼の今までの『日常』だった、ごく一般的な人生の最後の夜。



そしてこれから始まる『非日常』で波乱万丈な人生の、

最初の夜だった。


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