第1話

時刻は午後11時06分






―少年は一人、校舎の中にいた。



「うぁ~夜はまだ寒いなぁ……」



なんて事を一人呟く少年…

―喜村 惠嗣(きむらけいじ)は、


教室の机の中に忘れた携帯ゲーム機をとりに校舎内へ戻ってきていた。



―彼が通う私立駒楽(こまら)学園は一部生徒は中高一貫、

そしてクラスや科も関係無く入学した生徒は学業に集中するため、

という理由で全寮制で、

寮は学園の敷地内にある。



近場から通っている生徒は、土日の休みは前日の金曜日の放課後から自宅に帰ることが許されていて、

この学園の生徒はほとんどが市内の人間のため、金曜日の夜になると寮全体が静かになっていた。



遠方からこの学園に来た少年は取り残され、暇で暇でゲームでもしようと思ったのだが、

教室に携帯ゲーム機を忘れた事に気付き…仕方なく今こうして戻ってきた。




とは言っても普段、夜の校舎へは立ち入り禁止なのだが…



「いや、戸締まり忘れてて良かった」



彼は部員が自分一人だけの剣道部の道場から、運良く侵入に成功した。




普段は人で賑わうこの無駄に広くて綺麗な校舎も

さすがにこの時間は静まりかえっている。



「実際…ちょろっとおっかないな…」



日本の怪談に出てくるような校舎と違いった怖さがある、

この洋風チックで荘厳な雰囲気の校舎内を歩きながら一人身震いをする。




―携帯電話を懐中電灯代わりにしながら自分の教室にたどり着き、無事ゲーム機を見つけたのでさっさと帰ろうかと言うとき、ふと……




「特進クラスの校舎って…今、入れたりしないんだろうか?夜だし…」



そんな事を、思ってしまった。





―この学園には特進クラスというものがあり、渡り廊下で普通科の校舎と繋がっているが、

いつもは何重もの頑丈な鉄の扉で閉ざされている。



食堂やテラスなどは共通なので、弁当を持ってきていない特進クラスの生徒をたまに食堂で見かけた事はあるが…


誰も、近寄ろうとはしなかった。



…というのも特進クラスには昔から変な噂があるからだ。


優れた人間なら中学生でも高校生でも一緒に授業を受けさせるらしいし、


表向きは体育学科・看護学科・理数学科・工業学科…という名目でも実際は人体実験やら魔術の研究、兵器開発やらアブナイ事をしているとか…



それに中学の時から生徒会が特進の4人の女の子で運営されていて、

その4人は中学一年生にして生徒会を仕切るようになったとか…


実際その生徒会も滅多に姿を見る事は無い。


たまにそれっぽい女の子4人が仲良くテラスで盛り上がっているのは見かけるが…。


それでもその生徒会に憧れている者もちらほらいるらしい。



―その数々の噂に拍車をかけているのが、普通クラスは高校から一般入試があるのに対し、

特進のみ中学からのエスカレーター式で、

“一般の入試では生徒をとっていない”という事。


そもそも普通クラスと特進クラスとは全く関わりが無いため、謎が多い。



まぁ、どれも噂の域を出ていないのだが…。




そんな噂を思い出し、

関わらない方が良いとは思いながらも校舎内を散策してしまう…。






そんなこんなで夜は更けていく…






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