260話「熱い○線」
空いていた学院寮の一室を借りて朝を迎えた俺たち。
「ァ、アリス・・・・・・起きて。」
「ん・・・・・・もう朝?」
フラムに優しく揺り起こされると、窓から入った光が目を刺激する。
流石に緊張で眠れないかもと思ったが、子供の身体は便利なもので布団に入ればぐっすりだったようだ。
見回すとがらんとした部屋に一抹の寂しさを感じながら起き上がる。
「フラム、体調は問題ない?」
「ぅ、うん。」
「なら、まずは朝食にしようか。配給は食堂って聞いたけど・・・・・・他の皆も来てるかな?」
顔を洗って身支度を整えてから、久しぶりの食堂へ向かう。
思い出の中では学生たちで賑わっていた場所だったが、今は疲れた表情の騎士や冒険者たちが黙々と食事を摂り、足早に去って行く。
そんな光景を横目で眺めながら食事を受け取り、フラムと一緒に空いている席に着いた。
「み、みんな・・・・・・居ない、ね。」
「そうだね・・・・・・多分、街の方かな。」
レンシアの話では街の宿なんかも借り上げて拠点代わりにしているそうだ。
他の皆はそちらへ回されたのだろう。
「二人だとゆっくり食べられて良いけど・・・・・・やっぱりちょっと寂しいね。」
「・・・・・・うん。」
いつもより静かな朝の食事を終えてから学長室を訪れると、早速奥の部屋へと通された。
「時間通りだな。準備は出来てるか? フラムちゃんも今日はよろしくね。」
「は、はい・・・・・・。」
「準備は出来てるよ。それで、もう出発するのか?」
「そうだな、早い方が良いし、そっちが準備出来てるならさっさと出発しよう。」
それから街の北門に移動した俺たち。
門には既に数台の馬車と護衛の騎士たちが揃っていた。
騎士の人たちはレンシアの事も知っているようで、俺たちは最敬礼で迎えられた。
そのまま馬車に乗り込み、森の中を進むこと数時間。乗り心地は最悪だが文句は言っていられない。
目的地に近づくたび、地響きが大きくなってくる。あの映像で見た巨大な魔物が地を這っているのだろう。
何度か魔物の襲撃に遭いながらも、誰一人欠けることなく馬車は目的地に到着した。
馬車の外に出ると、何かが腐敗したような臭いが鼻を突く。
「酷い臭いだ。」
「あの魔物の肉から出てる臭いだよ。多分腐ってるんだろうな。まぁ、この臭いは慣れるしかないよ。」
精強な騎士たちも顔を顰めて耐えている。
「それにしても、立派な砦だね。仮組みにしては。」
馬車が止まった前に聳える背の高い塔が映える砦。
木造でありながらしっかりと組み上げられているようだ。
高い塔の部分は巨大な魔物を監視できるようにつくられたものだろう。
「でないとアイツの起こす振動で崩れるからな・・・・・・。」
なるほど・・・・・・確かに地震が起きているような振動が断続的に続いている。
適当に組み上げただけでは簡単に崩れてしまいそうだ。
「とにかく、アリスは砦の補強作業に当たってくれ。フラムちゃんは時期が来るまでゆっくり休んでて。」
「分かった。まずは居住部分からやっていくよ。」
俺の役目は、フラムの魔法に耐えられるように砦を補強すること。
こんな木造じゃ魔法を撃つ前に燃え尽きてしまいそうだ。
砦全体を土で覆って燃えないようしっかりと補強していこう。
そして補強した砦に魔法を撃つための発射台を作製することである。まぁ、見晴らしの良い広場みたいなものだが。
フラムの役目は言わずもがな。
俺がサポートに回ってフラムがコントロール出来る限界まで魔力を練り上げ、あとはいつもの通り魔物に向かって魔法をぶっ放すだけである。
魔物の方は魔女たちが引き付けてくれているので作業時間は確保できるだろう。
だがそれもいつまでも続けられるものではない。いくら交代できると言っても限界はあるのだ。早く済ませられるならそれに越したことはない。
「ま、二日もあればいけそうかな。」
砦の前に膝を着いて地面に手を触れ、魔力を流し始めた。
*****
「やーーっと・・・・・・完成した・・・・・・。」
ぐっと両腕を天に向かって突き上げ、凝り固まった身体を伸ばす。
眼前には要塞と化した砦。かつての面影はもう無い。
「おー、凄い立派になったな。」
聳え立つ要塞を見上げ、レンシアが呟いた。
「あぁ、結構頑張ったぞ。お陰でフラフラだけど・・・・・・。」
「で、肝心の発射台の方はどうなってる?」
「ちゃんと作ってあるよ。ちょっとやそっとじゃビクともしないようにね。」
砦を早々に完成させ、そのあと発射台をかなり頑丈に作り上げたのだが、それを支える土台である砦をさらに補強していき・・・・・・最終的には要塞みたいになってしまったわけだ。
「だ、大丈夫・・・・・・アリス?」
「うん、フラムの準備が整ってるなら、あの魔物もさっさと倒しちゃおう。」
「時間はまだあるし、明日でも大丈夫だぞ?」
レンシアの提案も魅力的だが、俺は首を横に振った。
「いや、この地震が収まってからの方がゆっくり休めそうだしね。」
「ま、確かにそうか・・・・・・。分かった、なら他の奴らにも計画の実行を伝えるよ。」
そう言ってレンシアは各所に連絡を取り始めた。
作戦自体は簡単なものだ。
フラムが魔法の準備を終えたら魔女たちは魔物を射線上に誘導し、魔法を撃つ直前に退避。あとは魔物目掛けてぶっ放すだけ。
シンプルな作戦だが、それ故にタイミングが重要になってくるだろう。
俺たちは砦の上に拵えた発射台まで上がり、魔法の準備を始めた。
レンシアは少し離れたところから全体を見渡し、指示を出す役割だ。
フラムには魔法に集中してもらい、俺が方向と発射タイミングを伝える役割となっている。
「それじゃあフラム、いくよ?」
「ぅ、うん。」
フラムの手のひらから小さな火が生まれ、揺らめきながら大きく育っていく。
そこに俺の生み出した炎を触れさせると、吸い取られるように奪われていき、更に大きく膨れ上がった。
膨張した炎はフラムの制御によって凝縮され、炎よりも熱く眩しい光を放つ光玉へと変貌していく。
更に炎を喰らって膨張し、フラムがそれを凝縮させる。
膨張。凝縮。ギリギリ制御できる段階までそれを繰り返し続ける。
「ァ、リス・・・・・・も、むり・・・・・・。」
フラムの声で俺の魔力を止めた。
目を向けていられない程の光球は、今までで最大規模のものとなっている。
これで倒せない魔物は居ない・・・・・・と思いたい。
レンシアの方へ視線を向け、準備完了の合図を送る。
「フラム、もう少しだけ頑張って。」
暫くすると、レンシアが片手を上げた。
魔物の誘導が済み、魔女たちが退避を始めるところだ。
つまり、発射まで秒読みに入った合図である。
息を止め、彼女の一挙手一投足に神経を集中させる。
レンシアの手が――振り下ろされた。
「撃って、フラム!」
「ぃ・・・・・・っけぇ!」
フラムの言葉で凝縮され続けていた炎が解放される。
一条の光が森と共に魔物を貫き、焼き尽くした。
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