251話「自分勝手なモノたち」
「はぁ~、終わった終わった~。」
深夜近くまで続いた夜会も終わり、ようやく部屋に戻ってきた。
「アリューシャ様、お召し物を・・・・・・。」
「は~い、お願いしま~す。」
手を広げて立つと、侍女さんたちが夜会用の衣装をテキパキと脱がしていってくれる。
最中に「湯浴みはなされますか?」と聞かれたので「お願いします」と答えた。
この疲れを癒すにはゆっくり温泉に浸かるのが良いだろう。
侍女たちに連れられて浴場へ向かうと、皆も同じことを考えたらしく鉢合わせになった。
「皆も来たんだ。」
「まぁね・・・・・・こんなお風呂に入れる機会は他にないもの。」
大きさだけなら学院にある銭湯の方がデカいけど、流石に質はこちらの方が上だ。
どちらも魔女が作ったものだけど、こっちは皇族向け。質が良くなるのも当然だ。
侍女たちによる至れり尽くせりもあるしね。
「明日からはどうするのだ?」
「少し皇都を見て回ってからヒノカの故郷に行こうと思ってるんだけど・・・・・・ヒノカはそれで良い?」
「あぁ、構わないぞ。私も皇都を見てみたいと思っていたからな。」
「丁度良いね。それならまずは宿を探しに行こうか。」
そこそこの宿を取って拠点にし、二~三日ほど観光すれば良いだろう。
ついでにヒノカの実家に持っていく手土産でも探そうか。
「外で見た美味しそうなの食べれるにゃ!?」
「あぁ、そうだね。明日からは色々買って食べてみよう。今日みたいな豪華なのは無いけど。」
「いっぱい食べれたら何でもいいにゃ!」
「さいですか・・・・・・。」
「それにしても、今日の食事は凄かったわね。」
「・・・・・・うん、おいしかった。」
「アズマの国にも美味しいものいっぱいあるんだね、ヒノカ姉!」
「あんなのは私も食べたこと無いがな・・・・・・。」
「まぁ、何にせよ面倒事が増えなくて良かったよ。ね、フラム?」
「ぅ、うん・・・・・・。な、なにも無くて、良かった。」
ぐーっと伸びをして、湯船で遊ばせていた足からゆっくり肩まで浸かっていく。
明日になればこのお城生活ともおさらばか・・・・・・。
良い経験は出来たし、少しだけ名残惜しくはあるが、ずっと続けたいとは思わないな。やはり四六時中付き人が居るというのは窮屈過ぎる。
魔女の施設が多くあるレンシアの街でならそれなりに快適な生活出来るし、何より自由だ。・・・・・・お金もそれなりにかかるけど。
まぁ、そんなことより今は明日のことを考えよう。
実は俺たちの担当をしている侍女さんたちから皇都の観光スポットや美味しい店の情報を仕入れていたのだ。
温かい湯船に揺られながら、どの順番で回ろうかなどの考えを巡らせていると、自然と瞼が重くなって欠伸が出てきた。
侍女さんに風呂から出るようにと促され、もう一度欠伸をしながらそれに従う。
・・・・・・明日のことは明日考えれば良いか。
*****
翌朝。
いつもの服装に着替え終え、世話になった侍女たちに別れを告げる。
「お忘れ物などは御座いませんか?」
「はい、大丈夫です。今日までお世話になりました。」
「いえ、私共の方こそ皆様に仕えさせて頂いて光栄で御座いました。本日は皆さまの出立前にご挨拶がしたいと皇王様が仰っておられますので、このまま客室へご案内させていただきます。」
「分かりました、お願いします。」
黙って出ていくわけにも行かないか・・・・・・。
こちらから声をかけるより、こうして向こうから申し出てくれた方が有難い。
案内された部屋の中で皆でゆったり過ごしているとノックの音が響き、すぐさま侍女が対応する。
「皇王様がお越しになられました。」
侍女の声と共に皇王一家とシエリが入室してくる。
「呼び止めてしまって申し訳ありません、アリューシャ様。」
「いえ、今日まで有難うございました。夜会も楽しかったです。」
「そう言って頂けると嬉しい限りです。それで、この後からはどうされるおつもりでしょうか?」
「えーっと、この後は――」
昨夜みんなで話していた予定を聞かせると、護衛をつけられそうになったり高級宿を貸し切りにされそうになったりしたが、何とか断れた。
シエリが皇王を諫めてくれなかったらまた色々とお世話されてしまっていたところだ。
少し話し込んでいると、テンジ第二皇子が不意に声をあげる。
「あの――」
何かを決意したような目で顔を上げ、ヒノカの方へ視線を向ける。
「ヒノカ殿・・・・・・余の婚約者となって欲しい。」
「ええっ!?」
驚きの声をあげた俺とは対照的に、当のヒノカは口をあんぐりと開けたまま固まってしまった。
思考が固まったままのヒノカに代わって俺が第二皇子に言葉を返す。
「ヒノカは優秀ではありますけど、平民ですよ? 貴族が相手ならまだしも、皇族相手は流石に無理がありませんか?」
貴族が優秀な平民を取り込むという風潮は確かにあるが・・・・・・皇族ともなれば話は別だろう。
「ふむ・・・・・・ハタ外相の養子とすれば家格は問題あるまい。」
「は? 養子って・・・・・・。」
皇王の言葉にムッと自分の眉が吊り上がるのを感じる。
そう感じたのは俺だけではないようで、シエリが盛大なため息を吐いた。
「はぁ・・・・・・何を企んでるのかと思えば・・・・・・。」
不機嫌そうなシエリの言葉を慌てて否定する皇王。
「そ、そういうわけでは御座いません、シエリ姉さま! 元々ハタ外相が連れてきた者をテンジが気に入れば、ハタ外相が責任を取るという話であっただけでありまして・・・・・・まさか魔女さまやその祝福を受けた者を連れてくるとは思わず・・・・・・。」
「ふーん、じゃあテンジ坊やはホントにヒノカちゃんを気に入ったんだ?」
シエリに尋ねられて、テンジ第二皇子は少し頬を赤らめながら頷いた。
「余に剣士として真剣に向き合ってくれたのはヒノカ殿だけなのです。」
「ぅ・・・・・・。」
多少なりとも責任を感じたのか、シエリが小さく呻いた。
「結構ボコられてたと思うけど・・・・・・。」
「それでも、です。」
力強く頷くテンジ第二皇子。
「コイツ変な性癖に目覚めてないよな・・・・・・?」というシエリの呟きを俺は聞き逃さなかった。
話の途切れたところを見計らってシエリに尋ねる。
「センパイ、”祝福”っていうのは?」
「ん~、簡単にいうと魔女が正体を明かした人間のことかな。」
魔女が自ら正体を明かし寵愛を与えている者を”祝福を受けた者”として扱っているのだそうだ。寵愛は少し大げさだが。
有り体に言ってしまえば、間接的に”塔”がバックに付いた状態ということである。
もしかしなくても、皆を大変なことに巻き込んでないか・・・・・・?
「で・・・・・・ヒノカちゃん、正直に答えて欲しいんだけど・・・・・・将来を誓った相手がいたり、好きな相手がいたりする? もしそうなら私の権限でテンジ坊やには諦めさせるよ。」
「い、いえ・・・・・・そういう相手はおりませんが・・・・・・。」
「ふむ、ならテンジ坊やにも機会を与えてくれるかい?」
「その・・・・・・私にも両親がおりますので、養子になるというのは・・・・・・。」
「あぁ、それは御免被りたいよねぇ・・・・・・。よし、それじゃあテンジ坊やは廃嫡にしようか。それでヒノカちゃんを口説く機会をあげよう。テンジ坊やを気に入れば婿にでもすればいいよ。」
その提案に一番驚いたのは皇王だった。
「シ、シエリ姉さま!? それはあまりにも・・・・・・!」
「後継はコウブ坊やに決まってるし問題無いでしょ、何か文句ある? まぁ、テンジ坊やが嫌だというならヒノカちゃんの事は諦めるんだね。」
「余はそれで構いません、父上。」
「しかしだな・・・・・・第二皇子派の貴族連中はどうするのだ。下手をすればヒノカ殿にも危険が及ぶのだぞ。」
「その辺はテンジ坊やがきっちり身辺整理しなよ。そしたらヒノカちゃんを口説く許可をあげる。どう?」
「分かりました、シエリ姉さま。余としてもヒノカ殿を危険に晒す訳には参りませんから。」
「話は決まりだね。ヒノカちゃんはテンジ坊やのことなんか気にせずに、過ごしてくれればいいよ。相手が出来れば結婚でもしてくれれば、テンジ坊やには諦めさせるから。」
ヒノカが目の前の光景に困惑しながらもなんとか答える。
「は、はぁ・・・・・・。しかし、それで良いのですか、第二皇子様は。」
「いいのいいの。代わりと言ってはなんだけど、その心意気に免じていつかテンジ坊やがヒノカちゃんのところに訪れた時は話くらい聞いてあげてよ。」
「・・・・・・分かりました。」
困惑したままヒノカは頷いた。そりゃいきなり皇族からのプロポーズだもんなぁ・・・・・・。
とんでもない約束させられたのには気づいてるんだろうか。
とまぁ、そんな一悶着ありながらも城を後にすることができた。
歓迎され過ぎるのも考えものだな・・・・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます