250話「モテモテ皇子さま」
夜会当日の朝。
朝食を摂った俺たちは侍女たちに引きずられるように客室に連れていかれた。
客室には衣装が届けられており、それの調整を行うようだ。
どの衣装も素晴らしいものに仕上がっており、これを着るのかと思うと少々気が重くなった。他の皆は目を輝かせていたが。
それが終われば今度は浴場へ放り込まれた。
侍女たちに身体を隅々まで洗われた後、湯船に浸ってようやく人心地。
「ふぃ~・・・・・・。朝っぱらから良い御身分だねぇ~・・・・・・。」
肩まで湯の中に沈めて呟いた。
「これからの予定が無ければね・・・・・・。」
「それは言わない約束だよ・・・・・・。」
そう、今日は夜会が始まるまで自由時間は無い。
こうして湯船に揺られている間も侍女たちがきっちりと時間を計っているのだ。
「皆さま、そろそろ・・・・・・。」
「は~い。」
とか言っている間にもう時間がきたようだ。
そしてこの後は全身マッサージ。ここ数日で少しは慣れた。
マッサージが終わって少し休憩すれば昼食だ。
夜会もあるため、かなり軽めの食事である。サーニャを宥めるのが大変だった。
この辺りの時間帯から夜会の参加者がやって来ているらしく、城内が浮足立っている。
会場の庭園も準備で忙しそうだ。
「いい匂いがするね。」
「うー、おなかすいたにゃー!」
「夜になったらいっぱい食べて良いから、今は我慢してね。」
庭園の方をうらやまし気に見つめながら、ぐぅ~っと腹の虫で返事するサーニャ。
「はぁ・・・・・・とりあえずこれでも舐めてなよ。」
インベントリから飴玉を取り出してサーニャに頬張らせる。
顔周りは汚れないからこれくらいは許容範囲だろう。
そうこうしているうちに陽に赤みが差してきたころに庭園が解放された。
本開催は陽が沈んでからだが、庭園で振舞われる食事や飲み物は摂れるそうだ。
庭園では既に到着している貴族たちがゆっくりと景色を観覧している。
その殆どは父と娘というような装い。他には兄と妹のような家族にエスコートされている者が占めている。
「あるー、もう食べていいにゃ!?」
「うん。でもあんまりうるさくしない様に端っこでね。面倒な相手が居るかもしれないから。」
この城内にいる限りは何が有ろうとこちらの有利に働くだろうけど、余計な波風は立てないに越したことは無い。
死人とか出ても嫌だしね・・・・・・。
隅の方で食事を摂っていると人がだんだん増えてくる。
陽が沈むころには賑やかな場となっていた。
「おぉ、皇王様だ・・・・・・!」
周囲の貴族たちが一瞬騒めいたあと、静まり返る。
これから皇王の開会の儀が取り行われ、夜会が開始となる予定だ。
「皆のもの、よく集まってくれた。」
庭園に設置された舞台に上がり、皇王の挨拶が始まった。
俺たちも周りに倣い、皇王の言葉に耳を傾ける。
まぁ、要するに「成人した第二皇子をよろしくね」みたいな内容だ。
皇王の有難いお言葉が終わると、今度は貴族たちが順に皇王とその隣にいる第二皇子のもとへ挨拶しに行く。
俺たちは別に構わないと言われているので、長蛇の列を横目に見ながら食事の続きを楽しんだ。
挨拶が終わった貴族たちは庭園の観覧に戻っているが、エスコート役の人は離れて隅で見守るような感じになっている。
ハタ外相が言っていた「同じ年頃の女性が多く参加する」ってのはこういう意味か。
庭園を散策する女の子たちに目を向けてみると、確かに俺くらいの歳の子からヒノカくらいの子まで居るようだ。
中でも多いのは、やはり第二皇子と同じ年代の女の子。
並ぶ料理には目もくれず、ソワソワとしながら並ぶ貴族たちと対面している第二皇子の方をチラチラと窺っている。
小さい子たちは料理というよりスイーツの方に興味津々みたいだが、手を出せない様子を見ると、はしたない真似をしないようにと止められているのだろう。
保護者の方も壁の花のようになっている俺たちを一瞥した程度で、すぐさま視線を戻した。
ま、こっちに目が向かないのなら、こちらとしては気楽なものだ。
挨拶する貴族の列が無くなると、皇王に促されて席を立った第二皇子が庭園に足を向けた。
すると、あっという間に貴族の女子たちに囲まれ、それに皇子スマイルを顔に貼り付けるようにして受け答えしている。
「うわぁ・・・・・・大変そう。私たちはもうちょっと離れておこう。」
小声で皆に話しかけ、第二皇子から距離を取るように移動する。
「あちらの御仁に用がある。道を空けてもらえるか?」
それがいけなかったのだろう。
こちらを目ざとく見つけた第二皇子が、自分を囲む女子たちにそう声を掛けて道を作らせた。
出来上がった道を悠々と第二皇子が歩いてくる。
・・・・・・ここは俺が相手をするしかないか。
皆を後ろ手に、第二皇子と対峙する。
「本日の夜会は如何ですか、魔女様?」
「景色が美しく食事も美味で非常に満足しています、第二皇子さま。」
会場の視線を一身に受けながら、周囲の人に聞こえない程度の声で会話する。
「それより、”選考”しなくていいんですか?」
「・・・・・・知っておられたのか。」
「知ってるも何も、この夜会を見てれば大体察しは出来ますよ・・・・・・。」
詳しい話は聞かされていないが、第二皇子の成人パーティーというだけでなく彼の婚約者探しも兼ねているようだ。
だから女性の多い夜会ということなのであろう。
巻き込まれてはたまらないと、少し牽制気味に言葉を続ける。
「さぁ、後ろで女性の方々がお待ちですよ、第二皇子様。」
「余は其方らと話をしたいのだが?」
「私共とは夜会が終わっても話せます。今は後ろの方々とご歓談ください。」
「ム・・・・・・余はあれらの相手をして疲れておるのだ。少しは休ませてくれてもいいのではないか?」
こんな針の筵状態でやってられるか!
こっちを巻き込むんじゃねー!
「お休みになられたいのであれば、必要なことを済ませてからになさってくださいませ。」
少し突き放した言い方に、第二皇子が口をへの字に曲げ――
「・・・・・・分かった。邪魔をしたな。」
少し不機嫌な表情を見せて踵を返し、貴族女子たちの輪の中へ戻って行った。
同時に俺たちに向けられていた興味が薄まっていく。
少し言い過ぎたか・・・・・・? まぁ、俺たちの所為で勤めが果たせなかったなどと後から言いがかりを付けられても困るしな。
彼にはしっかりと頑張ってもらいましょう。
こうして夜会の夜は更けていった。
俺が皇子と対峙している間にも料理の物色していた肝の据わった仲間たちは、しっかりと夜会を楽しんだそうだ。
俺はもうなんか胃が痛いわ。
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