244話「出港」
翌朝、少し早めに宿を出た俺たちは早速港へ向かうことにした。
朝の早い時間ながらも既に街は仕事に向かう人で活気にあふれており、同じ海辺の街であるリゾー島とは雰囲気が異なっている。
宿で朝食を摂って出た筈なのに、屋台が出ていないことに不満を漏らすサーニャたちを宥めながら歩を進めていくと、船の並ぶ一画へと辿り着いた。
「へぇ・・・・・・あれが魔導船なのね。本当に帆が無いのね。」
木造の帆船が立ち並ぶ中に、鉄製の立派な豪華客船が異彩を放って聳え立っていた。
既に乗船は始まっており、数人の乗客が係員に案内されてタラップを上がっていくのが見える。
タラップの前にも数人が列を成しているが、今から並べばすぐに乗船できそうだ。
彼らの服装や立ち居振る舞いを見ると、やはり上流階級であることが分かる。
「ぅ・・・・・・本当に乗せてもらえるのかしら?」
「大丈夫だよ、私たちも並ぼう。」
リーフの杞憂も他所に、程なくして俺たちも船の中へと通された。
「これが船の中・・・・・・なのか? 私が乗ったのとは比べ物にならないな・・・・・・。」
呆然と辺りを見回すヒノカを連れて、チケットに記載された番号を頼りに自分たちの部屋を目指す。
船の中はまさに一流ホテルといった様相で、通路から覗ける食堂や遊戯室も中々に近寄り難い雰囲気だ。しかしこれらの施設は出港してから稼働するらしく、入り口は閉ざされていた。
通路は窓から入る光と魔力灯で照らされており、白い壁と相まって明るく演出されている。魔力灯のおかげで夜でも灯りを持たずに出歩けそうだ。
足元には絨毯が敷かれ、足音が響かないよう配慮されている。
案内図によると会員証によって宿泊区画が分けられているらしく、銅が一般区画、銀が高級区画、金が特別区画となっているようだ。
俺たちが持っているのは金の会員証なので、特別区画へと足を向ける。
というか、会員証に種類があるなんて聞いてないぞ・・・・・・。金のなんて貰って良かったのだろうか。
特別区画へ入ると、俺たちの後ろに続いていた他の乗客がぱったりと途絶えた。一般区画か高級区画の方へと分かれていったのだろう。
チケットの部屋番号とドアプレートを見比べながら寂しくなった通路を進んでいく。
「あった。ここと隣が私たちの部屋だね。」
俺たちに割り当てられた部屋は二部屋。どちらも同じ造りで一室が四人部屋となっている。
大きな窓に四人掛けのテーブルと二段ベッドが二つ。クローゼットに浴室とトイレ。ざっと見渡した限り設備はこの程度。
調度品は見てきた船内と比べると地味ではあるが、転生者にとっては”普通のホテル”と呼べるような内装になっており、落ち着けるようになっている。
まぁ、それを再現するのにどれだけコストが掛かっているのかは分からないが。
俺とフラムとサーニャで一室、フィー、ニーナ、ヒノカ、リーフでもう一室に別れて荷物を運び込んだあとは、いつものように一室へ集まった。
各々が好きな場所に腰を落ち着け、これからの相談を始める。
「・・・・・・これからどうするの?」
「ボク、船の中見て回りたい!」
「って言っても、行けそうなところは全部閉まってたよ。」
「そうね。どの施設も出港するまでは閉まっているみたいだわ。」
「えーっ、どうして!?」
「船に乗り込んでくる人で通路が混み合うからだろう。狭くはないが広いとも言えなかったしな。」
通路は人一人が余裕で通れる幅はあるが、すれ違うには多少譲り合う必要がある。
だから通路へ出る人を減らすように施設を閉めているのだろう。
「それなら私は時間まで少し寝ようかな。朝早かったし。」
隣に座っているフラムがくいっと袖を引いてくる。
「ぁ、あの・・・・・・い、一緒、に・・・・・・。」
部屋に備え付けの二段ベッドは大人サイズで、俺とフラムが並んで寝るには十分な大きさがある。
フラムに頷き返すと、嬉しそうに顔を綻ばせた。うん、可愛い。
「ふむ、そうだな。出港まではまだ時間があるようだからな。」
「もう少しゆっくり来ても良かったかもしれないわね。」
「だね。けどそうしてたら乗船にもっと時間掛かったかも。」
「確かにね・・・・・・あれは勘弁だわ。」
俺たちが乗船するころには後ろに結構な行列が出来てたからな・・・・・・。
街で時間を潰すにしても、早朝だったため店は殆どが準備中。どちらにしても手持ち無沙汰になっていただろう。
「あら、随分静かだと思ったらもう寝ちゃってるわね、サーニャ。」
リーフと同じ場所へ目線を向けると、サーニャがベッドの上で丸くなって寝息を立てていた。
「そのようだな。では私たちは部屋へ戻るとしよう。」
ヒノカの言葉にリーフたちが頷くと、音を立てないように隣の部屋へ戻っていった。
「それじゃあ、私たちも寝ようか。」
「ぅ・・・・・・うん!」
******
汽笛のような音が鳴り響き、まどろみの中に落ちていた意識が徐々に覚醒していく。
「ん~・・・・・・? うるさい・・・・・・何の音?」
のそのそとベッドから起き上がり窓の外へ視線を向けてみると、港がゆっくりと離れていく様子が見える。
「あぁ・・・・・・さっきのは出港の合図か。」
揺れはほとんど感じないが、若干のふわっとした浮遊感のようなものが足の裏を通して伝わってくる。
「ってことは、もう昼かな。」
伸びをしながらベッドの方へ目を向け直すと、ちょうどフラムとサーニャも起き上がってきたところだった。
二人ともさっきの音で目覚めたのだろう。結構大きな音だったし、おそらくは隣の部屋の子たちも目覚めているはずだ。
「あるー、おなかすいたにゃー!」
「はいはい・・・・・・もう食堂は開いてると思うし、皆が揃ったら行こう。多分お姉ちゃんたちも起きてるだろうから、まずは隣に行こうか。」
通路に出て隣の部屋の扉をノックすると、すぐさま返事が返ってきた。やはりさっきの音で起きていたようだ。
部屋に入れてもらい、適当な場所に腰を落ち着けた。
「貴女たちも起きてたのね。」
「まぁ、あの音じゃね・・・・・・。それで、もうお昼だし食堂に行こうかと思って。」
「え、もう行くの? 今起きたばかりじゃ――」
あまり気乗りのしなさそうなリーフだったが、フィーたちの子犬のような視線に気付き「うっ」とたじろいだ。
「そうね・・・・・・私は軽いもので済ませようかしら。」
「食事は軽くして甘味を頼むのも良いかもね。そっちも美味しいらしいよ。」
「ほう、それは楽しみだな。」
「早く良くにゃー!」
サーニャに急かされながら重い腰を上げて部屋を出た。
朝食が早かったせいか、歩きはじめると身体が空腹を訴えてくる。
これなら少し重めの食事もいけそうだ。
食堂へ着くとお昼時なためか、人が多い。それでも空席は三割ほどあるので座る場所には困らなさそうだ。
入り口で船員に案内されるまで待つように書かれているので大人しく待つことに。
しかし良い匂いが漂ってくる。ある種の拷問だ。
心頭滅却しながら待っていると男の怒鳴り声が聞こえてきた。
「おい、ここで何をしている!」
えぇ・・・・・・また何か厄介事か?
勘弁して欲しいものだ。
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