175話「発見! 秘境の奥に眠る古代人の遺跡!」

「で・・・・・・この奥に行こうって訳なの、貴女たちは?」

「・・・・・・ダメ、リーフお姉ちゃん?」


「ぅ・・・・・・・・・・・・ハァ、分かったわ。けれど、今日はしっかり休んで、明日からにしましょう。」

「ふむ、そうだな。我々も多少疲れているしな。」


 穴の奥へは進まず、戻ってきたリーフ達に相談した結果がこれだ。

 フィーの子犬のような瞳は耐え難いらしい。


 壁の穴は開いた時点で魔力の供給を断ち、開きっ放しにしてある。

 中からも開くことは出来るみたいだが、最悪閉じ込められる可能性もあるしな。


 外から様子を伺うと、入ってすぐに小さな踊り場になっており、そこから下へ続く階段が一本。

 その先は闇に包まれ光も届かない、と言った感じ。


 リーフ達の帰りを待つ間に、レンシアにも報告済み。

 洞窟は知っていたが、隠し部屋の存在は知らなかったようだ。

 俺の調査結果を待って、本格的な調査を行うか決定するらしい。

 写真やら動画やらも撮ってこいというお達しだ。

 まったく人使いが荒い。


 ちなみに撮影はメニューにある機能のひとつで、基本無料。

 フィルターやスタンプ等の編集機能が課金制である。もちろん買わない。


「明日からかぁ・・・・・・。楽しみにしてたのにー。」

「まぁ、まだ時間はあるしね。ゆっくり調べようよ。」


 それに、折角の前人未踏の遺跡なのだ。

 あっさり終わらせてしまっては味気無い。


*****


「それじゃあ、皆は焦らずゆっくりついて来てね。」


 翌日、日の出と共に朝食を終えた俺たちは、遂に穴の探索を開始した。

 俺が先頭に立ち、最初の一歩を踏み出す。


「うおっ、すご・・・・・・。」


 向こう側に足を着けた瞬間、足元を照らす淡い魔法の光が点灯した。

 それは階段の奥までずっと続いている。


「綺麗・・・・・・。でも、まだ少し暗いわね。」


 この灯りも自動ドアと同じ作りになっている様だ。

 魔力が足りないのであれば灯りが点かないはずなので、最初からこの光量で作られているのだろう。

 これを作った何者かは、暗闇に目が慣れていたという事か?


「とにかく、これだけじゃ危ないね。」


 魔法の光を作り、周囲を照らす。

 それだけで足下の灯りはまるで感じられなくなってしまった。


 魔法の光を頼りに、慎重に階段を下りていく。

 階段の造りはしっかりしていて、いきなり崩れそうな様子はない。

 2~3階分を下りると階段は終わり、そこは広い空間になっていた。


 洞窟から掘り出して作られたような石造りの建物が、幾つも立ち並んでいる。

 魔物の気配も、生き物の気配も感じられない静けさ。

 おそらく、長い間何者も立ち入っていないのだろう。


「ここは・・・・・・村・・・・・・だったのかしら?」

「そんな感じの場所みたいだね。」


 手近にあった建物を一つ覗いてみる。

 広さは10畳もなく、高さは2メートル程度。

 家と言うより、一人部屋と言った方が近い。

 壁は一部がくり抜かれて戸棚の様になっており、低い机とベッドの様な台が一つずつ。


「お、おい・・・・・・あれを見てみろ、アリス。」


 ヒノカが指した方へ目線を向ける。


「あれは・・・・・・黒い石?」


 魔物を強化して凶暴化させる黒い石。

 それに似た物が無造作に床に転がっていた。

 それを拾い上げようと、恐る恐る手を伸ばす。


「あっ・・・・・・。」


 黒い石に指先が触れると、そこからボロボロと崩れ去ってしまった。


「物にはあまり触らない方が良さそうだね。」


 遺跡調査なんてのは専門外だしな。

 トレジャーハントなら興味はあるが、俺の考える”お宝”とは縁遠そうな場所だ。


「それで、こんな所を調べてどうするつもりなのよ?」

「学院に報告して、後は歴史の好きそうな先生にでも任せるよ。」


 それからいくつかの建物を見て回ってみたが、広さやベッドの数が異なる程度で代わり映えはしなかった。

 黒い石も数個転がっていたが、建物の中だったり道端だったりと、法則性も感じられなかった。


「・・・・・・たいくつ。」


 最初は目を輝かせていたフィーも、すっかり不満顔。

 古代遺跡と言えば聞こえは良いが、古代の集落の遺跡だからな・・・・・・。

 金銀財宝も、それを守る仕掛けも魔物も居ないのである。


「うーん・・・・・・そうだね。最後にあそこだけ調べて良い、お姉ちゃん?」

「・・・・・・わかった。はやく行こう。」


 最奥にある、一番大きな建物。と言っても、体育館程度も無い。

 しかし、派手ではないが装飾も施されていて、明らかに他とは一線を画している。

 敢えて言うなら”神殿”と呼ぶのが相応しいだろう。


 ”神殿”の中は広間になっており、奥には何かの像を祀った祭壇。

 それだけのシンプルな構造になっていた。


「あの像は何なのかしら?」


 祭壇に祀られた、土偶だか埴輪だか、どちらとも言えないような形の像。

 顔だけ見れば、埴輪のようなトボけた表情をしている。


「ァ、アリスに・・・・・・似てる。」

「プッ・・・・・・ククク・・・・・・ホントね、フフフッ。」


「つ、角のとこが似てるだけでしょ!?」


 そう、この像の頭と思わしき部分から、二本の角っぽいものが生えて垂れ下がっているのだ。まるでツインテの様に。

 たぶん動物か魔物なんかを神格化して象ったものなんだろうけど・・・・・・ツインテにしか見えなくなってきた。


「も、持って帰ったら・・・・・・ダメ?」

「戻ってから似たようなの作るから、それは置いといてね・・・・・・。」


 いや・・・・・・もしあんなのを抱いて寝られたら・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・縫いぐるみでも作って渡そう。

 埴輪を抱いて寝る女の子より、縫いぐるみを抱いて寝る女の子の方が健全だろう。うん。


「それにしても、足の踏み場に困るわね。」


 床には沢山の黒い石が、像の前に等間隔に並べられている。

 石の天日干しでもやってたのか?

 日当たりは最悪だけど。


 その昔はここで黒い石が採掘できたりしたのかもしれないな。

 それが殆ど採れなくなり、この場所を捨てて移動したとか。妄想が尽きない。


「供え物ではないのか?」


 古代ツインテ神を崇めるツインテの民たちが謎の石を奉納か・・・・・・。

 なるほど分からん。

 ただ、採れたものを捧げるってのは、よくある話な気がする。


 あのツインテ像が邪神像で、邪神を崇める邪教徒たちが暮らしていた、なんて線も捨て難い。

 謎の黒い石を捧げるってのも、雰囲気的にはピッタリだ。


 見ようによっては、黒い石の並び方が墓標のようにも見えるな。

 気味が悪くて誰も口にはしないが。


「まぁ、詳しい調査は先生たちに任せた方が良さそうだね。」


 俺が調べるより分かる事は多いだろう。

 実は”神殿”の地下に巨大迷宮が!

 ってのも期待したが、一通り調べてみた限り、その望みは絶望的である。


 とにかく、レンシアに送る報告書を作って、一先ず調査終了だな。

 タイトルは――

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