174話「古代魔道具の謎」

「これで片付いたかな。お姉ちゃん達、怪我は無い?」


 洞窟の入口付近に巣食っていた魔物をサクッと退治し、先陣を切った二人に声をかける。


「ボクは大丈夫だよ。フィーは?」

「・・・・・・だいじょうぶ。」


「ふむ・・・・・・奥に魔物の気配は無いようだ。」

「魔物除けがまだ効いているのね、良かったわ。」


「そう簡単には壊れない・・・・・・と、思いたいね。いつ頃のものなのかは分からないけど・・・・・・ニーナなら補修出来たりしない?」

「こんなのムリだよ・・・・・・。そう言うアリスはどうなの?」


「考えただけで頭痛がしてくるね。」


 出来るのなら、とっくに誰かがやってるか。

 魔女たちもこの場所を知らない訳ではないだろうし。


「結局、壊れないように祈るしかないという事ね。」

「ま、そうだね。とにかく野営の準備を済ませちゃおう。」


 俺を先頭に、一歩一歩確かめる様に洞窟の中を進んでいく。

 魔法の光で照らされる壁をじっと観察しながら。


「確か・・・・・・この辺りだったかな?」


 力を込めて壁をグッと押す。・・・・・・何も起きない。


「あ、あれ・・・・・・?」

「もう少しこっちじゃなかったかしら?」


 少し離れた場所でリーフが壁を押す。・・・・・・何も起きない。


「あら・・・・・・ち、違ったみたいね。」

「この辺りではなかったか?」


 今度はヒノカが別の場所で壁を押す。・・・・・・やはり何も起きない。


「む・・・・・・違ったか。」


 フィーとニーナも同じ様に壁を探っているが、ハズレのようだ。


「てか、マルネ先輩はどうやって見分けてたんだろ・・・・・・。」


 あの時はマルネに教えてもらったから辛うじて分かったけど、これ片っ端から調べないとダメなんじゃ・・・・・・。

 一本道のトンネルみたいな構造だけど、結構広いぞ此処。

 そんな想像しただけで気が滅入ってきそうだ。


「みんな何してるにゃ?」

「そういや、あの時はまだサーニャは居なかったね。この辺りに隠し扉があって、それを探してるんだよ。」


「扉って・・・・・・コレにゃ?」


 サーニャが無造作に壁を押すと、ズズズッと音を立てて動き始めた。


「そ・・・・・・それだよ! どうして場所が分かったの?」

「うーん・・・・・・何となくにゃ!」


「あ、そう・・・・・・。」


 まぁ、獣人なんだし、動物的なアレが働いたのだろう。

 だとしたら、ほぼ迷うこと無く見つけていたマルネは一体・・・・・・。


「何にせよ、見つかって良かった。早いとこ荷物を下ろしちゃおう。」

「そうね、何だか一気に疲れた気がするわ・・・・・・。」


 部屋の隅に荷物を集めて置き、中央に小さな焚き火を作る。

 さすがに夜は冷えそうなので、窓から吹き込む風を防ぐための壁も作っておく。


「先輩達と来た時はゆっくり見る暇が無かったけど、ここって何のためにあるんだろうね。」

「こうして休むためではないのか?」


「それにしては巧妙に隠され過ぎじゃない?」

「確かにそうね。それだけなら普通の扉で良いのだし。」


「ねー、アリス・・・・・・。この部屋、魔道具になってない?」

「魔道具って・・・・・・何か見つけたの、ニーナ?」


「ほら、ここから見てみてよ。」


 ニーナの立っている位置から部屋を見渡してみると、光の加減で壁の一部に模様が見えた。

 壁に近づき、目を凝らしてよく見ると、描かれた模様は部屋全体に続いている。

 特殊な塗料が使われているのか、気に留めていなければ全く気付かない。


「ホントだ。この模様、魔法陣みたいだね。どんな効果なのかはサッパリだけど。」

「うーん・・・・・・”自ら”・・・・・・”動く”? ・・・・・・”動かす”? 分かんないや!」


「二人とも、調べるのは後にして、そろそろ夕食の準備をするわよ。もうすぐ日が落ちるわ。」

「そうにゃ! お腹すいたにゃ!」


「ごめんごめん、分かったよ。」


 後ろ髪を引かれる思いだが、また明日にでも調べれば良い。

 仕事なんて無いようなものだしな。


*****


 翌日。

 日の出と共に目覚めた俺とニーナは、早速隠し部屋の本格的な調査に乗り出していた。

 もちろん、朝食はしっかりとお腹の中に収めた後にだ。


「この足跡みたいな模様・・・・・・何だろ?」


 床に膝をつけてニーナが調べている場所。

 そこには大人の大きさ程の足の模様が、逆のハの字に描かれていた。

 その通りに立てば、部屋の壁と向かい合う位置になっている。


「これは足跡って言うより、ここに立てって意味じゃない?」

「あっ・・・・・・そうか、そうだよ! ここに立ったら起動するんだ!」


 ニーナは「えいっ!」叫ぶと、彼女のものより少し大きい足の模様の上に、ピョンと飛び乗った。


「ちょっ・・・・・・危ないよ、ニーナ!」


 いつ、誰が、何の目的で作ったのかも分からないモノである。

 警戒し過ぎるくらいで丁度良い。

 だが当のニーナに、そんな考えは微塵も無いようだ。


「あれ・・・・・・何も起こんない?」

「壊れてるのかな? もう少し調べてみよう。」


「あるー、ツマンナイにゃ!」


 サーニャの声を後押しする様な、他の子たちからの視線。


「わ、分かったよ。じゃあパーティを二つに分けよう!」


 隠し部屋調査班と外の探索班。

 メンバーは言うまでもなく決まった。


「それじゃあ、私たちは日が暮れるまでには戻って来るわ。」

「うん、気を付けてね。」


「それはこっちの科白。貴女たちこそ無茶はしないで。二人をお願いね、フラム。」

「ぅ、うん・・・・・・!」


 以前マルネ達と薬草を集めた場所へ向かうリーフ達を見送り、居残り組は晴れて調査再開。

 あちらにはヒノカもリーフも居るし、心配する必要は無いだろう。


「フラムは行かなくて良かったの?」

「ゎ、私・・・・・・邪魔、だった・・・・・・?」


「そ、そうじゃなくて! 退屈じゃないかと思って・・・・・・。」

「ァ、アリスが楽しそう、だから・・・・・・退屈じゃない、よ。」


「な、なら良いんだけど・・・・・・何かあったら言ってね?」

「ぅ、うん・・・・・・。」


 気を取り直して、ニーナと調査を始める。

 結構な時間を掛けて分かった事は、魔力の供給が足りてないから動かない、という事だった。


「なるほど・・・・・・足の模様の上に立てば、周囲の魔力で起動するのか。確かに、この規模の魔法陣じゃ魔力が全然足りないだろうね。」

「でもそれぐらいしか分かんないよー・・・・・・。」


「いや、分かる事もあるよ。」

「何がわかるの?」


「この辺りに魔力がもっと満ちていた時代のものだって事。つまり――」

「つまり?」


「大発見かも。」


 所謂、歴史的大発見というやつだ。


「ホントに!?」

「まぁ、もしかしたら・・・・・・ね。」


 だがそうなると、余計にこの魔道具が何なのかが気になってくる。

 俺が魔力を流し込めば動かす事も可能だろう。

 壊れてなければ、だが。


「ねぇ、ニーナ。この魔道具・・・・・・動かしてみる?」

「・・・・・・さっきボクに危ないって言ったクセに。」


「いやまぁ、そうだけど・・・・・・でも、気にならない?」

「なるけど・・・・・・大丈夫なの?」


「おそらくだけどね。罠にしては入口が巧妙に隠され過ぎだし、大掛かり過ぎるよ。」


 あの隠し扉の時点で、まず人が入って来ない。そんな場所に、これだけ大掛かりな罠を仕掛けるなんて、無駄以外の何物でもない。

 ひねくれ者が”かべのなか”にワープさせるような罠を仕掛けたというのなら納得だが、流石にそんな奴はいない・・・・・・と、思いたい。

 何か用途があって作られた、と考えるのが自然だろう。


「とは言っても、万が一の可能性もあるし、ニーナとフラムは外で待ってて。」

「それはダメだよ! ボクもこの部屋にいる!」


「ゎ、私も・・・・・・!」


 ・・・・・・説得しても無駄みたいだな。

 足の模様の上に立ち、二人に声をかける。


「じゃあ、二人は私の隣に立ってて。・・・・・・うん、そう。それじゃあ、やってみるね。」


 ニーナとフラムの手を取り、足元からゆっくり魔力を流していく。


 ――ズ・・・・・・ズズズ・・・・・・。


 足元を震わせながら、眼前の壁が左右に割れ始めた。

 30秒も経たないうちに開き切り、大人ひとりが楽に通れる程の四角い穴がポッカリと口を開けた。


「あ、穴が開いちゃったよ、アリス・・・・・・。」

「す、すご、い・・・・・・。」


 息を呑んで穴を見守っていると、今度は穴が閉じ始める。


 ――ズズズ・・・・・・ズ・・・・・・。


 きっかり同じ時間を掛け、先程までの穴など存在しなかったようにピッタリと閉じた。


「ど、どうしよう! 閉じちゃったよ、アリス!?」

「どうしようって・・・・・・もう一回開ければ良いだけじゃない?」


 一度足を上げて居住まいを正し、再度足の模様に魔力を与える。

 すると、また同じ様に穴が開いた。


「ね?」

「ホ、ホントだ・・・・・・。」


 ってかコレ・・・・・・ただの自動ドアじゃねーか!

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