165話「四天王」
<レディーーース、アーーーンド、ジェントルメーーーン!!! 今宵も血沸き肉踊る戦いの火蓋が切って落とされようとしています!>
実況インプの声が風の魔法で拡散され、闘技場内に響き渡った。
その声をかき消すように客席にいる魔物たちから歓声が上がり、場内を震わせる。
<本日の挑戦者は・・・・・・年端も行かぬ人間の少女たち! と、それに従属する二体の魔物! チーム、アリューシャ~~~!!>
客席から野次ともつかぬ声援が浴びせられる。
ギルドの冒険者が使う言葉に比べれば随分と控え目な表現だが。
<そして対するは我らが四天王の一人! 風の――>
「待てえぇぇぇぇい!!!!」
――ドオォォォォォン!!!!
インプの声を遮り、観客席から飛び出した巨大な炎の塊が大地を鳴らして降り立った。
その炎の塊が、ゆっくりと立ち上がる。
<おおっと! ここで乱入してきたのは四天王が一人! 火のヴォルガント様だぁーーーー!!!>
ヴォルガントと呼ばれた人型の魔物は、己が肉体が武器と言わんばかりにムキムキが主張している。
”火の”と枕詞が付けられるだけあって、赤い肌の身体に炎を纏い、ただでさえムサ苦しい上に熱苦しい。
ヴォルガントがスッと腕を上げて指を差す。
「貴様からは・・・・・・懐かしい”匂い”がするな。」
その先にはフラム。
「ひぅ・・・・・・っ!」
・・・・・・ムキムキメラメラで変態ロリコンとか救いようが無いな。
フラムを後ろ手に庇い、相手を見据える。
だが、それを意に介する様子は無く、ヴォルガントは言葉を続けた。
「どうだ、ワシと”炎くらべ”をしようではないか。火の民よ。」
なるほど・・・・・・”匂い”ってのはそういう・・・・・・。
変態ロリコンってのは撤回しよう。見た目通りの脳筋だコイツ。
「い、嫌・・・・・・!」
「なん・・・・・・だと・・・・・・っ!?」
火の民とどんな因縁があるかは知る由も無いが、断られたのが物凄くショックだったらしい。
驚愕に染まった表情のまま固まるヴォルガント。
「ク、クハハ・・・・・・クハハハハハッ!! 良かろう! ならば諸共消し炭にしてくれるわ!!!」
ヴォルガントが軽く腕を振るうと、放たれた炎が奔流となり、俺達に牙を剥く。
<ギャアアアアアアアアーーーーーー!!!!!>
巻き込まれたインプが一瞬で消し炭になった。
おいおい・・・・・・あのモーションでこの威力は反則だろ!?
その炎は火山洞窟にいた魔物の火ではない・・・・・・いや、比ではない。
「だ、めぇ・・・・・・っ! ”火(フォム)”!」
フラムが生み出した小さな火が巨大な炎の龍を迎え撃つ。
傍から見れば、その勝敗は明らかであった。
小さな灯火は呑まれて終わり・・・・・・かに見えた。
――だが。
「クハハハハハッ!! 面白い!! 面白いぞ、火の民!!!」
フラムの小さな火はヴォルガントの炎の奔流を真正面から受け止めていた。
いや、小さな火だったソレは、触れた部分からヴォルガントの炎を侵食して支配権を奪い、取り込み、大きな火の玉に成長していた。
「うぅ・・・・・・くっ・・・・・・。」
フラムの顔に苦悶の色が広がる。対するヴォルガントは余裕の表情。
簡単に勝てる、とはいかないようだ。
「では・・・・・・これは耐えられるか、火の民ィ!!」
ヴォルガントは空いていた片腕を重ね、炎の威力が増した。
奔流が勢いをつけ、フラムの火の玉に再度激突する。
「あぶないっ! ”風(ウィード)”!」
――ゴゥッ!!!!!
炎のぶつかり合う余波で発生した熱風を、ニーナの風魔法が間一髪のところで遮った。
「うぅ、ボクの魔力じゃそんなに持たないよ・・・・・・早くなんとかして、アリス!」
「分かってる・・・・・・っ!」
急いで魔力を放出し、ヴォルガントの頭上に巨大な水球を創り出す。
時間が無かったため攻撃には向かないが、フラムの手助けぐらいにはなる・・・・・・はず!
「・・・・・・落ちろっ!」
水球はヴォルガントに伸し掛かり、ドーム状に変形して包み込む。
「邪魔を・・・・・・するなぁ!!!!!」
――ゴボ! ゴボボボボ!!!
ヴォルガントの咆哮と同時に、水球が一気に沸き立った。
うおっ!? 嘘だろ!? 蒸発させる気か!?
魔力を追加して水を足していくが、蒸発速度の方が早い。
「”氷矢(リズロウ)”!」
リーフの放った無数の氷矢が水球に突き刺さった。
水に阻まれ矢先はヴォルガントには届かないが、蒸発速度を低下させるには申し分ない。
リーフが次々と魔法を唱え、新たな氷矢が撃ち込まれていく。
「ぐぬぅぅぅぅ!! 舐めるな、小童どもォ!!!!」
ヴォルガントの発する熱エネルギーが更に一段階上がる。
どこまで規格外なんだよ、コイツ!?
だが、膨れ上がった熱エネルギーが一気に減衰していく。
「何ぃ!? ワシの、炎の力が・・・・・・!?」
そう、こと”火”においては規格外な子がコチラにだって居るのだ。
俺とリーフの魔法に気を取られている内に、フラムがヴォルガントの炎の支配権をゴッソリと奪っていた。
「うぬぅぅぅ!! だが貴様らなど、この身一つで十分である!!!」
一歩、また一歩足を踏み出し、ヴォルガントが水球を抜け出してくる。
もう役に立たないかアレは・・・・・・。攻撃するための魔法でも無いしな。
形を維持していた術を解き、ヴォルガントに対峙する。
アイツが力を取り戻す前に倒したいところだが・・・・・・。
フラムはヴォルガントの炎の力を抑えるだけで精一杯。
ニーナとリーフは魔力を使い過ぎてしばらくは動けないだろう。
「ようやっと私達の出番だ! 行くぞ、フィー、サーニャ!」
「・・・・・・うん!」
「コゲた尻尾のウラみを晴らすにゃ!!」
ヒノカの声に二人が応えた。
「調子に乗るなよ、小童ども! ワシの拳で砕いてくれる!!」
「うにゃあーーー!!」
――ゴッッッ!!!
サーニャとヴォルガントの拳が激突する。
「クハハハハ・・・・・・ッ! ワシと張り合うとは・・・・・・やるではないか、獣人!」
「ふんにゃぁ~~~!!!」
いくら相手がパワーダウンしてるとは言え、あんなのを受け止められるのかサーニャは・・・・・・。獣人すげぇ。
二人の力は拮抗しているとは言い難いが、コチラにはまだ後ろが控えている。
「ハァッ!!」
ヒノカの斬撃に合わせて空気が裂け、血飛沫が舞う。
「ぐおぉぉぉ!! 小鼠のなまくら如きが・・・・・・ワシの身体に、傷を付けるとは・・・・・・っ!!」
だが、それも致命打にはなってはいない。
ヒノカの与えた傷は既に塞がり始めている。
・・・・・・毎ターンHP回復みたいな能力まで持ってんの、コイツ。
サーニャは拳で打ち合い、ヒノカはすんでのところで攻撃を回避して斬撃を与える。
しかし長くは持ちそうにない。
何とか膠着させているが、サーニャかヒノカのどちらかが崩れれば一気に瓦解するだろう。
「・・・・・・アリス、剣をもっと大きくして。聖女さまのくらい。それと、魔力もちょうだい。」
「わ、分かったよお姉ちゃん。」
フィーの注文通り、聖女サマがクソデカ狼を退治した時のクソデカ大剣を再現した。
もちろん、強度が極端に落ちない程度に中抜きは行っている。まぁ、フィーの持っていた剣と手持ちの土団子では量が足りない、というのが一番の理由だが。
そしてフィーの手を握り、おでこを触れ合わせ、短い時間で目一杯の魔力を注ぎ込んだ。
「無理しないで、お姉ちゃん。」
「・・・・・・だいじょうぶ。」
フィーが大剣を腰だめに構える。
デカすぎて剣というより突撃槍を構えているみたいだ。
「クハハッ!! そのような身の丈に合わぬナマクラで何――をォォォォォッ!!! ――ガフッ!!」
その言葉が終わらぬ内に、俺の前から掻き消えたフィーの持つ大剣がヴォルガントの胸を貫いていた。まさに一瞬の出来事。
フィーの突撃を受けた衝撃でヴォルガントの足元には轍のような跡ができている。
てか、セリフの途中なのに容赦無いな、お姉ちゃん・・・・・・。
「ハ・・・・・・ハ・・・・・・クハハ・・・・・・ッ! ワシが、ここまで・・・・・・圧倒されるとは・・・・・・な。――グゥッ!!」
口から血が溢れ、ボトボトと地面に血溜まりを作った。
胸に空いた大穴も、ヒノカが付けた傷も、回復は止まっている。
彼の生命はもう尽きているのだ。これ以上手を加えようとする者はいない。
「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・ッ。良いぞ・・・・・・クハハッ・・・・・・ワシは、満足だ・・・・・・っ! 火の民よ・・・・・・誇りに思うが良い。ワシに打ち克った・・・・・・こ・・・・・・と――」
ヴォルガントはその背を地につけること無く、塵となって消えた。
「ふぅ・・・・・・終わったか・・・・・・。」
周りを見れば満身創痍と言ったところか。
戦闘に参加した中で、まともに動けそうなのは俺とヒノカくらい。
やはりフィーもサーニャも身体への負担が大きかったようだ。
怪我などは無いが、しばらくは動けないだろう。
「ッ・・・・・・フラム!?」
倒れそうになったフラムを慌てて支える。
「み、んな・・・・・・だい、じょうぶ?」
「うん、フラムのお陰だよ。」
「よか・・・・・・った・・・・・・。」
そのまま気を失ってしまうフラム。
あれだけ壮絶にやりあったんだし、無理もない。
「へぇーっ、ヴォルガントに勝っちゃうなんて、すごいね君たち。」
「うん、すごいすごい~。」
「ウフフ・・・・・・将来が楽しみな子たちですネ。」
その声の主は、頭上から降り立った三つの影。
そうだよな・・・・・・四天王なんだから、居るよな・・・・・・残り三体。
降り立ったのはいずれもヴォルガントと同じ人型の魔物。
緑の肌の少年。茶色い肌の少女。青い肌のお姉さん。
身も蓋も無い言い方をすれば、風のショタ、土のロリ、水のボインといった感じである。
ヴォルガントは・・・・・・火のガチムチだな。
「さぁ・・・・・・宴を始めようか。」
緑の肌をした少年は、ニィと口の端を吊り上げた。
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