75話「それぞれの未来へ」
残っていた雪もすっかりと解けたが、まだ少し肌寒い。
卒業式を終えた俺達は、講堂から出て強張った身体を伸ばす。
卒業式、と言っても俺達は見送る側だ。
講堂の入り口から少し離れたところで、出てくる生徒達を窺う。
「あ、出てきたにゃ!」
大勢の生徒達に紛れて講堂から出てきた、見知った顔の元へ駆け寄る。
「マルネ先輩、レーゼ先輩、テリカ先輩、ミゼル先輩。ご卒業、おめでとうございます。」
「うわーん、アリスちゃーん!」
涙で瞳を濡らすマルネにガバッと抱きつかれた。
「うぅ・・・・・・アリスちゃん達に会えなくなってしまうなんて、寂しいです。」
「もう、何後輩の前で泣いてるんだい。もうちょっとシャキッとしなよ。」
「だ、だってぇ~、皆とお別れなんて、ミゼル悲しいよぉ~。」
「ミゼル・・・・・・アンタまで・・・・・・。」
そう言うテリカの瞳も少し潤んでいる。
ミゼルに解放された後、レーゼにガッチリと拘束された俺は四人に問いかけた。
「先輩達は卒業後どうされるんですか?」
俺をホールドしたままレーゼが答える。
「私は家の方へ戻る事になっています。」
「ミゼルもだよ。イヤだなぁ~・・・・・・。」
「アタシも家業の手伝いだね。マルネもそうだろ?」
「うん、そのために勉強してたんだし。うぅ~、でも自信ないなぁ・・・・・・。」
「皆、バラバラになってしまいますのね・・・・・・。」
レーゼの最後の言葉に四人が肩を落とした。
落ち込んだ雰囲気を和らげようと、努めて明るく声を出す。
「もう二度と会えないという訳ではないですよね?またきっと会えますよ。」
「そうでしょうか・・・・・・。」
「手紙もありますし、場所と時間をきちんと決めて集まれるようにすれば大丈夫です。」
「そ、そうだよね!よし、皆で手紙を出し合おうよ!」
連絡先を交換し、思い出話に華を咲かせる。
四人の出会いから今までの話を。
元は六人だったが、途中で二人がリタイアし今の四人になったそうだ。
大変ではあったけど、それで四人の団結は一層深くなったらしい。
しばらく経つと、レーゼが居住いを正し、小さく咳払いした。
「あの・・・・・・皆さん。迎えの者が来ましたので・・・・・・これで失礼します」
「うん・・・・・・うん・・・・・・レーゼちゃん、また会おうね。」
「はい・・・・・・必ず。」
執事に迎えられ、離れていくレーゼを見送る。
それを皮切りに、ミゼルが、テリカがこの場を去っていく。
気付けば周囲には卒業生の姿は殆ど無くなっていた。
「それじゃあ、アリスちゃん達。私もそろそろ行かなきゃ。」
「はい、マルネ先輩もお元気で。」
マルネの新たな門出を見送る。
卒業生達の姿が消え、残された在校生の中にはちらほらと涙を流している者もいた。
「行ってしまわれたわね、先輩方。」
「あぁ、少し・・・・・・寂しくなってしまうな。」
「まだまだ賑やかだと思うけどね。」
「ふ・・・・・・そうだな。ニーナ達もそろそろ泣き止んだらどうだ。先輩方に笑われてしまうぞ。」
「だ、だってぇ~~・・・・・・。」
今年度の大きなイベントはこれで全て終わり、あとは春休みを挟んで新学年。
幸い俺達のパーティに脱落者は居ないが、同学年では何人か居るようだ。
家の事情や成績、理由は様々だが。
卒業式の片付けを終えた頃には、昼食より少し遅い時間になってしまった。
今からお昼を食べるよりはと街に繰り出し、喫茶店でティータイムを取っている。
紅茶にケーキにパフェにマカロン、クッキー、ドーナツにプリンにクレープ・・・・・・。
昼飯をガッツリ食べるよりガッツリいってる気がするが見なかったことにしよう。
「そういえば、春休みの予定は決めているのかしら?」
「私は自警団の方に顔を出すよ。あと・・・・・・ちょっとした用事があるかな。」
「用事?」
「それはその時に話すよ。他の皆は?」
「特には無いな。私も自警団に行くくらいか。」
他の皆も似たり寄ったり。
迷宮都市に行くには期間が短いし、トコナツは冬に行ったばかりだ。
学院から転送で行ける街は他にもあるが、特に旅行に行くような場所でもない。
強いて言えば各国の王都くらいだが・・・・・・コミケでもあれば行ってもいいかな。
そもそも、辺境の地ではあるがこのレンシアの街には最先端の技術が多く使われているのだ。
今更他の”都会”と言われるような場所に行っても見劣りするだけなのである。
「皆特には無いみたいだね。それなら、今度一日付き合って貰っていいかな?」
「先程の用事という奴か?」
「うん、何時かはまだ分からないんだけど、春休みの間に。」
「構わないのだけれど、内容は言えないのかしら?」
「そういう訳じゃないんだけど、楽しみは後に取っておいた方がいいでしょ?」
「はぁ・・・・・・分かったわ。無理に聞いても仕方ないでしょうし。」
「皆も構わないかな?」
皆に了承を貰い、ホッと胸を撫で下ろす。
特にフィーには必ず来て欲しかったのだ。
俺の話が終わったのを見計らい、今度はニーナが口を開いた。
「ねぇねぇ。みんな次の学科はもう決めてるの?」
選択学科は二年間で修了する。
つまり三年生になる俺達は次の学科を選ぶ時期に来ているのだ。
「私はこのまま魔道具科を続けるよ。アンナ先生に誘われてるしね。」
「ということは・・・・・・教員免許を取るつもりなのかしら?」
「うん、それに魔鉱石も扱えるようになるしね。」
同じ学科を四年受講すると、その学科の教員免許取得のための試験を受ける事が可能になる。
先生の推薦があれば二年の受講で受験資格が得られ、そのまま続けて四年受講すれば卒業時に自動的に教員資格を取得出来るのだ。
推薦は二年間で学科ごとに同学年に一人まで。一桁しか生徒がいないような不人気学科ではかなり有利となる。
それでも実力が満たないのであれば推薦ゼロ、という事態もあるが。
勿論、基礎学科にも適用されるため、基礎学科の教員試験は卒業生なら全員が受験可能だ。
教員の資格を取れば特典も美味しい。
福利厚生は勿論のこと、他学科の授業を割安で受ける事ができ、二年間受講すればその学科の資格試験に臨める。
複数の教員資格があればその分待遇も良くなっていくのだ。
教員として働かない場合でも、学院の施設を使用出来たりするので取っていて損にはならない。
年齢制限も設けられておらず、俺のような子供でも問題ないことになっている。
まぁ、年齢制限してしまうと魔女が恩恵を受けられなくなるからな。見てくれは皆子供だし。
そして魔道具科の教員資格があれば、同時に魔鉱石を扱う許可も下りる。
買う事も出来るし、理論や設計図を提出し、審査に通れば研究費ごと学院が面倒を見てくれるのだ。
前者は全部自費になるが完全自由、後者は色々制限が付くがお金の心配はしなくて良い。
どちらが良いかは人によるが。
・・・・・・俺は前者かな。
「私もジロー先生に推薦されてな。そのまま戦術科を続けるつもりだ。」
「わたしも戦術科をつづけるよ。」
「ボクもヒノカ姉達のところに行こうかなー。」
「魔道具科は続けないのか?筋は良いのだろう、アリス?」
「作る方は凄いんだけど、理論とかがちょっと・・・・・・。だからこのままだと教員資格は難しいかも。基礎学科も難しいだろうから、教員資格を取るなら戦術科か剣術科に行って、卒業してから追加受講が早いと思う。剣術科なら推薦も狙えるんじゃないかな?」
卒業生は修了した学科に限り、金貨一枚で追加受講することが出来る。
期間は一年間で、修了すれば教員資格の受験が可能となるのだ。
期間が短いのは基礎学科を受ける必要が無いためである。
言いかえれば、朝から晩までみっちり授業があるという事だが。
「剣術科かぁー・・・・・・どうなんだろう。」
「もし戦術科で推薦を取ろうと思うなら、まだ推薦を貰っていないフィーと争う事になるぞ?それに、他にもフィーと同様に続ける者もいるだろうし、強ければ推薦が貰えるという訳でもないからな。」
「確かに、二年間授業を受けてきたお姉ちゃん達を相手にするっていうのは結構大変だね。」
「それだったら剣術科も同じじゃん。」
「何言ってるんだよニーナ。剣術はずっとルーナさんに教えて貰ってきたんだし、今まで稽古だって続けてる。それこそ授業よりも長くね。戦術科よりも確率はぐっと上がるよ。」
「そう、かな・・・・・・?」
戦術科では実戦を想定した総合能力で判断される。
魔物相手に勝利するより、生き残る事を重視した内容であるためだ。
勝つよりも自分より強い相手にどれだけ凌いでみせるかの方が評価が高い。
故に、推薦を貰えるのは実力的には二番手であったりする場合も多いようだ。
自分より弱い相手に勝っても仕方ないのである。
剣術科は剣の技術。
いくら強くても、力だけで剣を振るうような者は単位すら貰えない。
こちらは真に剣技に長けた者が推薦を手に出来るのだ。
まぁ、どちらの場合も”人に教えられるか”というのが一番重視されるのだが。
何しろ教員資格だしね。
トップ組の成績でなくとも、芽はあるという訳である。
ニーナならその点も問題ないだろう。
「あぁ、アリスの言う通りだ。別の学科になるのは寂しいかもしれないが、私達は同じ部屋に住んでいるのだしな。」
「それに資格を取れたら他学科の授業料が割り引かれるんだし、それから戦術科で”ヒノカ先生”に教えて貰えばいいんじゃない?」
「あっ!それいいね!ボク、そうするよ!」
「な、何を言うのだアリス!私は教鞭を取る気など・・・・・・!」
「まぁまぁ、それは資格を取ってから考えればいいじゃない。リーフは魔術科を続けるの?」
「えぇ・・・・・・、推薦を貰えるかは分からないけれど。」
魔術科での評価は魔法の総合力。
使える魔法の種類、威力、効率、制御など。もちろん魔力量もその中に入っている。
どれだけ多くの種類の魔法が使えようが、威力が高かろうが、魔力量が少なければそれを見せる事は出来ないのだ。
簡単に言えばMPがたりない。
それだけがリーフのネックだった。
「リーフなら推薦なしでも普通に取れると思うけど・・・・・・多分、推薦も貰えるんじゃないかな。」
「無理よ、だって・・・・・・魔力量はどうにもならないもの。」
「いや、増えてるよ?魔力。」
「え・・・・・・うそ?」
そう、それだけがリーフのネック”だった”。
「冬休み船に乗った時、リーフが魔法を撃って魔力が暴走してたからね。あれから随分増えてるよ?」
「そ、そんなの・・・・・・聞いてないわよ。」
「あれ、そうだっけ?ゴタゴタしてたから忘れちゃってたのかも。」
「でも・・・・・・本当なの?魔力が増えたような感じはしないのだけれど。」
間違いない。魔力視した限りでは以前より増えている。
「う~ん・・・・・・多分、リーフの身体がまだ慣れてないんだよ。」
「慣れて、いない・・・・・・?」
「いきなり増えたからね。無意識に以前と同じ様に制御してるんだと思う。」
それは魔法を使う者にとっては必須の能力。
限界を越えて魔力を消費してしまえば魔力が暴走し、最悪死を迎えるのだ。
魔力量を増やすため、暴走させようとしても出来なかった理由でもある。
人がずっと息を止めておく事が出来ないように。
「じゃあ・・・・・・本当に、本当・・・・・・なの?」
「うん、後は練習あるのみ、だね。」
新たな限界を知り、制御を覚え、効率、配分を組み直す。
やらなければならない事は多いだろう。
リーフの瞳から雫が溢れ、ポタポタとテーブルクロスに染みをつくる。
「ご、ごめんリーフ!今まで黙ってて・・・・・・!」
確かに冬休みから時間は短かったが、早く伝えていれば推薦を手に入れられるくらいまでにはなっていたかもしれない。
そう考えれば手痛い失態である。
「違うの・・・・・・うっ・・・・・・嬉しい、の・・・・・・ひっく・・・・・・あ、ありがとう。」
「何を泣いているのだ、リーフ。大変なのはこれからなのだぞ。」
「ふふっ・・・・・・そうね。皆に負けないよう頑張るわ。」
「じゃあ、次はフラムかな。」
「ぇ?わ、私・・・・・・?」
「そうだよ、次の学科はもう決めてあるの?」
「ゎ、私、は・・・・・・・・・・・・ど、どうしよう・・・・・・?」
「えっ?ど、どうしようって・・・・・・う~ん・・・・・・。」
フラムが縋るような目を向けてくる。
「えーと、一つずつ考えていこうか。まずは魔道具科を続けた場合。」
「・・・・・・うん。」
「私はもう推薦貰ってるし、フラムなら成績も悪くないから推薦は受けられると思うよ。もし誰かが新しく来ても、余程の相手じゃなければ大丈夫。ニーナが魔道具科を続けるとしても、成績自体はあまり良くないしね。」
「あっ!アリスひどい!」
「・・・・・・事実でしょ。」
「うぐぐー・・・・・・。」
勉強さえ出来れば騎士科も狙えただろうに・・・・・・。
コホンと、咳払いを一つ。
「で、次に狙うとすれば魔術科だろうけど・・・・・・フラムだと火の魔法以外が難しいかな。授業についていけるかがキモだね。」
「ご、ごめん・・・・・・なさい。」
「責めてる訳じゃないよ。出来る事と出来ない事はキチンと分けておかないとね。」
「うん・・・・・・。」
「あとは、属性ごとの魔術科なら一発でいけると思うけど・・・・・・今のところ火魔術科は生徒数ゼロだね。」
フラムがフルフルと首を横に振る。
「そ、それは・・・・・・イヤ・・・・・・。」
属性ごとの魔術科は、大抵魔術科にあぶれた生徒が受講する学科だ。
一つの属性に絞られるため魔術科より簡単・・・・・・という訳でもないが。
その分より高い実力が求められるのだ。
不人気である火以外なら数人の生徒がおり、中でも水魔術科は人気で常に片手では足りない位の生徒がいる。
まぁ、実用性の差が顕著に出ている訳だ。
戦時下ならまた違ってくるだろうが。
「他に興味のある学科は?」
「み、みんなが居ない、ところは・・・・・・イヤ。」
「なら後は・・・・・・ニーナと一緒に剣術科か、お姉ちゃん達と戦術科になるね。」
「ちょ、ちょっとアリス。それはフラムには辛いのではない?」
「確かに一緒に訓練してるとは言え、実力的にはまだ厳しいかな。受講したいのなら教員資格を取ってからでも遅くないだろうし。・・・・・・お金はかかるけど。」
「じゃ、じゃあ・・・・・・。」
「フラムさえ良ければ、また一緒に頑張ろうね。」
「う、うん!」
「あるー!あちしはどうしたらいいにゃ!?」
「どうするも何も・・・・・・サーニャは私と魔道具科だよ。」
そもそも生徒ですら無い。
「え~っ!つまんないにゃ!」
ちなみにサーニャの成績は・・・・・・最近絵本を読めるようになりました。
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