第2話

「千里」

あぁ、まただ。

15になった千里は、うるさそうに眉を寄せた。

「消えろ」

昔よりも、多く呼ばれるようになった。

頭の中に響くような、声。

鈴のような声だが、寝不足にはうるさいだけ。

「あら、ひどい。」

「⁈」

今まで名しか呼ばれなかったのに、返事が聞こえた。

(いや…………夢、夢だな、うん。)

「ちょっと!無視しないでよ!」

(そう、今、寝不足だから………変な夢だ。あぁ、寝ちゃいけないんだから………)

千里はぎゅっと自分の頬をつまんだ。

「いっ⁈」

「なにやってんの、あんた」

(うそだ………………)

夢じゃない。

なら、なんで…………

千里は、矢が放たれたように走り出した。

怖い。

(消えろ…………消えろ…………消えろ…)

これがあるから。

これのせいで父さんは俺を嫌う。

母さんは出て行く。

悪いことばかりだ。

こんなのが、なければ…………もしかしたら、幸せになれたかもしれないのに。

「うっ‼︎」

何かにつまずき、たたらを踏む。

「っ…………はっ…………はっ…………くそっ…」

陸上部を引退して2カ月。

息がきれる。目の前が、クラクラする。

そっと後ろを振り向くが、なにもなかった。

気配もない。

(まいた…………?)

千里は大きく息をはいた。

それと同時に睡魔がおそう。

「やべ・・・・・・」

受験まであと一週間。

こんなことをしている暇などないのだ。

少しでもいいところへ行かないと今の家から出られない。

(いつまでも父さんの世話になってたまるかってんだ)




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