3年前12月

第9話 あの人との不倫

 フミとあの人が不倫関係にあると知ったのは、フミの部屋を訪ねるようになってから三ヶ月ほど過ぎた頃だった。

 フミの描くイラストにすっかりはまってしまった僕は、当時フミの担当をしていた社員さんに頼み込んで、一緒に仕事場を訪ねる事に成功した。

 ショートケーキとチーズケーキが好きだという情報を貰い、手土産にちょっと名の知れたところの物を買い求め、少しの緊張と共に仕事場兼自宅のマンションを担当の人と訪ねたんだ。

 担当さんから聞いていたとはいえ、絵に興味があるってだけのアルバイトスタッフが訪ねてくる事に厭な顔をされないかと、僕は一抹の不安を抱えていたのだけれど、フミは快く迎えてくれた。

 初めて部屋に通された時、床にはやっぱりイラストが散らばっていて僕は正直驚いた。もしかしたら、しこたま忙しくて、片付ける事もできないような時に訪ねてしまったんじゃないかと申し訳なく思ったんだ。

 けれど、それは取り越し苦労で、ただ単にフミが片付ける気がないだけだと、直ぐに知ったわけだけれど。

「この子、バイトの橘淳平君。私の代わりを務めてくれます。とてもしっかりした子ですからご安心ください」

 担当さんが僕のことを紹介すると、フミは小さく頷いた。

「初めまして、橘淳平です」

 ペコリとお辞儀をして、いつもの人なつっこい笑顔を僕が添えると、フミは少しだけ恥ずかしそうな笑顔を僕に向けた。

「初めまして、木嶋です。これからよろしくお願いします」

 編集さんに紹介されて簡単な挨拶を交わした後は、フミが淹れてくれたお茶と僕が持ってきた、というか会社の経費で買って僕が手にしてきたケーキを三人で囲んで話をした。

 フミは物事を余り自分から語るタイプじゃないから、間に入った担当さんが話をしてくれたおかげで色々知ることができたし、僕のことをフミへ伝えることもできた。

 話をしている間、フミは少しだけ首を傾げ、初めて訊ねてきた僕が気を遣わないよう一生懸命に笑顔を向けてくれた。

 自分のイラストに興味を持つ相手に対する好意でそうしてくれていたのだろうけれど、僕としてはそれ以上の感情を抱かせるのに充分な笑みだった。

 おかげで、初めはイラストに興味があって訪ねてきたわけだけれど、フミに逢ってみて僕は早い速度で彼女自身にも興味を持ち惹かれていったんだ。

 それが思いもよらない相手に邪魔される羽目になるなんてつゆ知らず。フミの顔を見に行くたびに、僕はヘラヘラとした顔で心を弾ませていた。

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