第3話 僕たちの関係
僕たちの関係を一言で表せといわれたら、僕はきっと困惑するだろう。
家族かといわれれば、そうだともいえるし。
友達かといわれれば、そうだともいえる。
けど、できるなら。
恋人かといわれたら、そうだと答えたい。
ただ、僕たちはそのどれでもない。
家族のようで、友達のようで、恋人のようで、そのどれでもない。
複雑な感じで、実は少しも複雑なんかじゃない。
だって、フミにしてみたら、僕は仕事先のただのアルバイトってだけだろうから。
なぁんだ。ただのアルバイト君じゃん。なんて、思わないで欲しい。
僕たちには、それ以上の何かがある、そう確信しているのだから。
いや、確信なんて力強く言ってみたけれど、そう思いたいんだ。
願望?
理想?
希望的観測?
まぁ、色々……。
ただ一つ言える事は、僕はここに居るととても落ち着くという事。
僕は、フミによく自分の事を話す。大学のことやバイト先でのこと。友達とのことや、家族のことも時々話す。
フミは黙って僕の話を聞き、時々相槌を打ち、時々何かを言う。
それは他愛もない感想だったり、説教のようなものだったり、自分の意見だったり。
僕は僕のことを話しながら、フミがどれほどの興味を持ち、どんな言葉を言ってくれるのかをいつも楽しみにしていた。
まるで、小学生が作文を書き、先生に今日は花丸をもらえるだろうか? なんて思うときのドキドキ感と似ている。
フミから花丸をもらえた時の僕は、有頂天になる。
楽器が弾けるなら、エレキギターを抱えてギュインギュインと派手にパフォーマンスをしながら鳴らすだろうし。小さな子供なら、そこら中を駆け回って両手をあげてやったー! なんて叫びながらジャンプしまくっているだろう。体操が得意なら、バク転だってしまくっているかもしれない。
フミの花丸には、そのくらいの威力があるんだ。
実際、本物の花丸をノートや何かに書いてもらうわけじゃない。
ただ、数日後。僕の話したことに影響されたような素敵な原画がはらりとその部屋にあっ時、それが僕にとっての花丸になるんだ。
それを見つけた瞬間は、当然エレキギターも弾けないし、体操も残念ながら得意ではないので、ご機嫌な鼻歌を歌いながらコーヒーを淹れるにとどめるのだけれど。
いや、なんなら前転くらいはしてもいいかな。きっとフミなら、僕の前転を見て楽しそうに笑ってくれるはず。それから、僕の淹れたコーヒーにフミが笑顔を見せてくれるのを待つんだ。
とはいえ、コーヒーは僕よりもフミの方がずっとずっと美味しく淹れられるから、ほんのちょっと悔しさを感じる。
いつかフミよりも美味しいコーヒーを淹れてみせる、と意気込みだけは常に持ち合わせている僕だ。
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