第68話 謝らなきゃ
個展最終日の日曜。最後だから会場に足を運びたいところだけれど、僕はガヤガヤと落ち着きのないあの場所で、気まずいままフミと顔を合わす自信がなかった。ただ、この日曜を逃してしまったら、また忙しい平日がやってきてしまう。へたれな僕は忙しいということを口実に、きっとまた謝る機会を先延ばしにしてしまうだろう。
ちゃんと謝らなきゃないけないという気持ちはあるんだ。
フミは、今日何時に終わるんだろう?
最終日だし、きっと遅くまでかかるんだろうな。
何時に戻るか判らないけれど、手土産でも用意して部屋で待ってみようかな。
疲れて帰ってくるだろうフミの姿を想像し、僕は謝罪も兼ねて甘い物でねぎらってあげようと考えた。
手土産を口実にしないと逢いにいけないなんて、僕って本当に情けない。
フミへの謝罪の言葉を何度も胸のうちで繰り返しながら、僕は買ったケーキを片手にフミのマンションを目指した。
ドアの前に立ち、もしかしたら帰ってきているかもしれないという僅かな期待と大きな不安に、一度深く呼吸をしてからインターホンを押す。
出迎えに出てこないのはいつものことだけれど、フミが中にいる気配はなさそうだった。きっとまだ帰っていないのだろうなと、小さく息を吐き僕はいつものように鍵を差し込む。
ドアを開けて中に踏み込むと、案の定、中は暗く静まり返っていた。
お邪魔しまーす。なんて、いつもはそんなことなど言いもしないくせに、遠慮がちに呟きながらリビングへ入る。きっと、ちゃんと向き合わずにここ数日来てしまったことが、僕を他人行儀にさせてしまうのだろう。
リビングの電気を点け、フミがいつ帰ってきてもいいようにお茶の準備に取り掛かった。薬缶に水を入れてコンロにセットし、カップを用意する。ケーキを乗せる皿やフォークも準備した。
「よし」
準備されたあれこれを眺めて満足げに漏らしてから、壁にかかる時計を見る。時刻は、二三時になろうとしていた。
「フミ、まだ帰ってこないのかな」
リビングの椅子に腰掛けて、僕はもう一度時計を眺める。
気まずい状況じゃなければ、何時に帰ってくるのかぐらいメールで訊けるんだけどな。
小さく息を漏らし、カチコチと規則正しい音に耳を傾ける。その音が睡魔を誘い、気がつけば僕はうとうととしてしまっていた。
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