捜査会議

 午前八時三十分。警視庁の会議室の前に、『赤井落書き殺人事件』と書かれた張り紙が設置されている。

 刑事たちは綺麗に並べられた机の前に座る。それから刑事達の正面の席には、捜査指揮をする、頭頂部が寂しく、優しい目付きをしたタレ目の喜田輝義きたてるよし参事官と白髪混じりな髪を生やした強面の男、千間創せんまつくる刑事部長が座った。突然の刑事部長と参事官の登場に、刑事達は騒がしくなる中で、喜田参事官はマイクを握る。

「最初に言っておくが、この事件はただの殺人事件ではない。どうやら、指名手配犯の中之条透なかのじょうとおるが関与している可能性がある」

喜田の推測の直後、正面のスクリーンに、鋭い目付きで額にバツマークのような傷跡が残る指名手配犯の男の顔が映し出された。

「中之条透」

 合田が呟くと、千間刑事部長は、喜田からマイクを渡され、第一容疑者に関する詳細な情報を刑事達に説明する。

「中之条透。半年前の一月三日の夕暮れ時、衆議院議員の菅野幸雄宅に押し入り、襲撃にした残忍な連続殺人犯。一家は全員重症に陥り救急車で緊急搬送されるも、病院内で息を引き取った。だが、唯一生存している男がいる。息子の菅野聖也氏だ。彼はあの時、ホテルで人にあっていたため、殺害を免れた」

「現在も逃走中な奴の指紋が、被害者の手荷物から見つかったそうじゃないか? 北条」

 喜田が尋ねると北条は立ち上がった。

「はい。あの指紋は間違いなく中之条透の指紋で間違いないかと」

 北条は報告を終わらせ、席に座る。その直後、千間は言葉を続けた。

「兎に角、被害者と中之条が繋がっているのは明らかだ。それを踏まえて捜査してほしい。ということで、まず現場周辺で聞き込みをした月影報告してくれ」

「はい。午後九時三十分に被害者の高野健二が近くの居酒屋で飲んでいたという証言がありました。それと、被害者の遺留品に紛れ込んでいた、清水美里さんという中学生は、被害者を殺害した犯人に誘拐された可能性もあります」

「では次。鑑識の北条。死亡推定時刻はいつだったか報告してくれ」

「死亡推定時刻は午後十時三十分。遺体の正面の落書きはペンキの乾きぐあいから被害者の死後一時間以内に書かれたものです」

「では次。葛城。コンビニでの情報はなかったか」

「遺留品の女物の財布は清水美里さんのもので間違いないです。それと月影さんの補足ですが被害者は居酒屋で飲んだ後に清水美里さんの寄ったコンビニで水を買ったことが分かりました。九時五十分に被害者が映っていました」

 次々に報告を促していく千間刑事部長は、最後に春野の顔を見る。

「最後に春野」

「先程話に出た菅野聖也は、ご存じのように司法の悪魔として、弁護士として活躍しています。さらに、被害者と菅野氏には繋がりがあります。彼らは取材で知り合い、飲み仲間だったようです」

 全ての報告を聞いた千間刑事部長は、席を立ちあがり、刑事たちに指示を与える。

「合田と春野と青田と斉藤の四人は、六係と共に清水美里誘拐事件を追え。残りの刑事は月影と葛城の指示の元、高野健二の交友関係を洗え。以上だ」


 捜査会議が終わり、合田たち四人は、警視庁の廊下を歩き始めた。

繋ぎ服姿に着替えた合田達は、警視庁の地下駐車場まで降りる。そこには同じ繋ぎ服を着た四人の刑事達がいた。

 その刑事達は合田達と向き合うように、頭を下げた。その内の一人、黒髪のベリーショートという髪型の男が、合田に対し右腕を差しだす。

「交渉人の麻生恵一あそうけいいちです」

「ああ。知っているよ。捜査一課の刑事として活躍していたが、二か月前に特殊捜査班に配属された名刑事。いつか一緒に捜査したいと思っていた」

「こちらこそ。光栄ですよ。捜査一課の鬼警部さん」

 麻生と合田は互いに握手を交わす。その直後、サングラスが似合いそうなスキンヘッドの男、高崎一たかさきはじめ巡査部長が、駐車場に停められたワゴン車の運転席に乗り込む。

「彼は?」

 青田が尋ねると、麻生は笑みを浮かべる。

「特殊捜査班で一番ドライブテクが凄いと言われる高崎一巡査部長。犯人を追跡させたら右に出る物はいないが、現在は運転手係ですね。特殊捜査班では、中々犯人を追跡するようなことはありませんから。」

「なるほど。ということは、荒っぽい運転なのですか?」

「安全運転です」

 青田と麻生が会話を交わしている頃、合田は麻生の近くに立つ二人の男の顔を見た。

 一人は、小太りな体型で目が細い男で、逆探知を担当する上条武かみじょうたけし警部補。もう一人は、右の頬に大きなシミが残る男で、上条と同じく逆探知を担当する西野茂警部補。

 特殊班に所属する四人の刑事達の顔を把握した後で、合田は高崎が運転するワゴン車に乗り込んだ。

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