第2話

第2章:山口良樹


嬉しいと思うポイントは人によって全然違う。

ある人に野球ボールをあげたとして

嬉しい人もいれば別に嬉しく感じない人もいる。

そう。それが価値観の違い。


私はとある理由から

電車に毎日乗っている。

丸の内線の荻窪駅から朝の始発で乗る

その際、絶対に座れるように

朝一番で始発に並ぶ。

席を確実にキープする為だ。

俺が座ったあと

目の前に吊り革を持った人が現れたのでもう準備完了だ。

ここでようやく「自分の嬉しいこと」を開始できる。


「〜〜駅〜〜駅」

と声が聞こえると

俺は足元に置いている鞄を

急いで取り上げ尻を少し浮かせる。

しかし

(あっ、俺の降りる駅じゃない。間違えた)的な顔をして

また尻を椅子に置いた。


これが俺の嬉しいことなのだ。

もっと言うと

私が降りる振りをした時

私の目の前に立っている男は

一瞬だけ(えっ?やった!座れる!)

と喜びの顔を見せる、、、、が

俺がまた座り直すと

先ほどの喜びの顔が一転

地獄に突き落とされたような顔をする。

その落胆の顔を見るのが俺の喜びなのだ。


今年で俺は53歳になり

仕事は無職だが

なんとか金をかき集めて

電車に乗り

これを毎日する。

その時だけ生きてるって実感するんだ。


「〜〜駅〜〜駅」


再び違う駅でアナウンスが流れると

私は「ヤベッ‼︎」っと急いで

鞄をまた持ち上げる。

そしてお尻を少し浮かせて

しばらく間をおき


また座った。


(はい2回目も向かいのヤツの

【喜びの顔→地獄の落胆】

見れました笑

こいつ2回目も引っかかるってどんなけ座りたいんだよ笑

本当ご馳走さまです笑)


2回目も絶対に引っかける自身はあった。

なぜならば1回目は動作だけだったが

2回目は「ヤベッ‼︎」と声に出して言ったからだ。

こいつは(今度こそ声も出してるし座れる)と思ったはずだ。

でも残念!残念賞!


座れるわけねーだろ。

終点までこれをやり続けんだからよ!!

バーカ!!

ぁぁ気持ちィィイイ。



「〜〜駅〜〜駅」


次の駅に着いたようだ。

さて一丁やりますか。

気合を入れ直し

良樹は指をポキポキ鳴らした。


隣の人に「〜〜駅ですか?ここ!?」

と聞き

隣の人が驚いた顔で「ええそうですよ」

と言うと

「ありがとう御座います」とお辞儀をして、ただ黙って真正面を向いた。

今回は立つ素振りもなくいける

さすがに隣の人も(なんで聞いたん?)

的な顔をしていたが関係ない。


もちろん今回も

ご馳走いただきました笑

俺はまた見逃さなかった。

俺が隣のヤツに「〜〜駅ですか!」

と聞いた後に真正面を向き微動だにしなかった時の

向かいの立ってる男の

【喜び→落胆】をな笑

最高だ。

超気持ちィィイイィィイイ。

この手法については特に説明はいらないな笑

しかしここからが難関だ。

もう向かいのヤツも騙されにくくなっている。



俺の大好きな

ボクサー

辰吉丈一郎が言っていた。

【「なりたい」ではなく「なる」と思ってる人間が成功する。】と


だから俺も

「騙したい」ではなく「騙す」と思ってこれにいつも臨んでいる。


だから4回目は大変だけど

絶対に騙す

俺は一つの妙案が頭に閃いた。

過去を振り返っても

さっきまでのやり方までしか俺は実践してなかったが今回は新しい方法が浮かんだのだ。

4回目も騙せる。

俺は確信した。



「〜〜駅〜〜駅」


と聞こえると俺の中のシグナルが青に点灯した。

スタートだ!!

俺の前に立っている男は

もう騙されないぞ的な顔で佇んでいる。

しかしこの方法では

お前も終わりさ。

そう思うと嬉しさを隠せなかった。


ゆっくり俺のズボンの股間の部分から染みができてきて段々とそのシミが大きくなっていき

最終的にスイカぐらいまでシミのサイズは広がった。

それに気づいていない奴らに

俺の方を向かせる為に

「わぁぁぁあああ!!!

オシッコ漏らしちゃったぁぁぁぁあああ

!!!」

と大きく叫んだ。


そう、閃いた方法とはオシッコを漏らすことだった。

オシッコを漏らす→急いで俺が電車から急いで降りる

との方程式が俺の向かいに立っている男の頭によぎると考えたのさ

でも残念オシッコ漏らしても

俺はこの席を立たないぜ!

さぁ、向かいの立ってる男さん

いい顔を見せてくれ!



するとションベンを漏らした俺の方を

その男は見て

凄い気持ち悪がった顔をした。



(ちがうよ!

その顔じゃねぇーだろ!!!

【座れる】って思えよ!!!

ちゃんとションベン漏らしただろーが!!)



そして、向かいの男だけではなく

俺の隣の座っている男も

周りの全員違う車両にゾロゾロと移っていった。


自分の思い描いたストーリー通りにならなかった俺は






最後に

オナラを「ブッ!」と一発だけこぎ

その電車から絶望の顔で

下車した。


俺は思った。








(明日からはちゃんと

「オシッコ漏らしちゃったぁぁ!!」とは言わず

「ションベン漏らしちゃったー!!」って言おう、、、、

反省反省、、、、)

と思い

改札をくぐり

キセルをしていたのをバレて

駅員に捕まった。




良樹は

神様っているのかな?

と思った。



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