第29話 火中の栗を拾う
異常な速度で突っ走るワゴン車。
タイヤを鳴らしながら、車はドリフトをしながらコーナーを曲がる。
「やるじゃない。あんた」
恵那はケラケラと笑っているが、後部座席の前原達は真っ青な顔をしている。
「任せてくださいって。この速度なら、1時間も掛かりませんよ」
運転手がそう言った時、道路の端から突如として、サイレンを鳴らしたパトカーが姿を現す。当然ながら、速度違反で検挙するつもりなのだろう。
「悪いけど、この運転手、この国の免許は持ってないわよ?」
恵那は冗談っぽく言う。運転手は一気に速度を上げた。だが、パトカーも負けずと追い掛けて来る。
「警察は厄介ね。前原さん。潰して」
恵那の言葉に前原は驚く。
「潰す?相手は関係の無い警察官だぞ?」
「何であっても、妨害されるなら、敵よ」
恵那に言われて、前原は部下にパトカーへの射撃を命じた。
部下は窓を開け、腰から抜いた拳銃を発砲する。
弾丸はフロントガラスやボンネットを叩き、慌てたパトカーは路肩に突っ込んだ。
「殺してないけど・・・警察がうじゃうじゃと集まる展開じゃない?」
恵那の言葉に撃った自衛官が文句を言う。
「拳銃でほいほいと殺せるかよ」
「手榴弾でも投げ込めば良かったでしょ」
「簡単に言うなよ。殺人狂め」
「女子高生に向かって変な仇名をつけないでっ」
そのやり取りにチャンが笑う。
「あんたら、最初に会った時とは思えないぐらい滅茶苦茶だな」
その言葉に恵那は大笑いをする。
「はははっ!滅茶苦茶って・・・こんな事に巻き込んだ奴が言う言葉じゃないわ。世界を破滅させようとしている癖に」
「確かにそうだね。だが、それをさせない為にこうしてるんだ」
当然ながら、中国警察当局はこの事態を把握していた。
周辺の警察車両を全てを投じると共に軍も動かした。
高速道路を爆走するワゴン車の上を軍の航空機が飛び去る。
「軍の戦闘機だ。マズい」
前原が叫ぶ。恵那はワゴン車の時計を見た。
「あと・・・20分も走らずに到着するはずよね?」
すると運転手が答える。
「はい!もう15キロもありません」
「じゃあ・・・車を捨てて、高速から山に入るわよ」
「本気か?」
「空から攻撃を受けたら終わりよ」
ワゴン車は路肩に止められ、恵那達は高速道路から山へと入った。
戦闘機はワゴン車の周辺を飛び回る。しかしながら、戦闘機では山に入り込んだ人を発見することは難しい。
恵那達は道なき道を駆け足で進んだ。
こうなると、恵那では山を走破するのは難しいサバイバル技術に長けた自衛官、特にレンジャーの資格を持つ者にすべてが委ねられる。
森の中は鬱蒼としていて、下手をすれば方向さえ解らなくなるのが当たり前。それを的確に進路を確認して、進むのが彼らであった。
「あと、2キロ程度で目的地です」
自衛官に言われて、恵那は拳銃を手にした。さすがに森の中を歩き回るのに手に拳銃を持って大変だからだ。
スライドを引いて、安全の為に空にしたチェンバーに弾丸を込める。
「さて、殺しの時間よ。皆殺しにして、目当ての装置を動かすとしましょうか」
彼女の言葉にその場に居る全員が凍る。
「敵の総本山だと…まともにやれると思っているのか?」
前原の言葉に恵那が笑う。
「ははは。じゃあ、どうやって、安全装置を動かすつもりなのよ?」
そこにチャンが言葉を挟む。
「そのことだが、説明をしてなかったが、実は極秘に隠し通路がある」
「へぇ…それはご丁寧。それが相手にバレれてない確証は?」
「ある。なぜなら、これは計画に無い通路であり、私のグループが将来への保険と思って、作っておいた物だからな」
「保険ね。だったら、遠隔で操作が出来る安全装置にしなさいよ」
「そんなシステム上に組み込んだらすぐにバレて解除されてしまう」
「これはよくバレなかったわね」
「外国人のあんたの遺伝子を使用することで奴らもこの安全装置の意味が解らなかったらしい。それが狙いだったんだがね」
「厄介ごとに巻き込んで…それじゃ、案内しなさいよ」
チャンに連れられて、ミサイル基地周辺の森へと移動する。
本来ならば、警備の厳しい場所だが、チャンが事前に相手にバレないように安全な経路を設けていたようで、敵に察知されずに入り込むことに成功した。
「ここまで来ると呆気ないもんね」
恵那の言うとおり、隠し通路の入り口となる洞窟まで今までが嘘みたいに簡単であった。
「当然だ。本当ならば、もっと密かにここまで来て、終わらせるつもりだったんだ」
チャンの言うことは本当だろう。だが、あまりにも計画に無理があったと言うか、情報が漏れ過ぎていた。恵那はたぶん、内通者が居るのだろうと思っている。
ボディーガードは女子高生。 三八式物書機 @Mpochi
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