第28話 吶喊

 ドローンに囲まれた一行。

 バスから降りた直後に発砲した恵那の銃弾は一機のドローンのローターを吹き飛ばし、墜落させた。

 「各個撃破!」

 前原の命令でバスから次々と降りて来た自衛官達は発砲を始め、数多く居たドローンは次々と撃墜していく。

 「バスは最初からGPSで追跡されている。ここで放棄するわよ」

 恵那はそう言うと、バスの運転席に向けて発砲した。運転席の窓ガラスには派手に血が飛び散る。それを見て、前原は青褪める。

 「おいおい。さすがに・・・」

 前原がそう言おうとすると恵那は彼を睨む。

 「悪いけど、私の邪魔をする輩は許さないわよ」

 恵那は振り返り、道路を歩き出す。チャンも青褪めながら、恵那に尋ねる。

 「こ、これからどうするつもりだ?」

 「ここから目的地までの距離は?」

 「あぁ・・・30キロぐらいか」

 「歩ける距離ね。どこかでクリーンな車を手に入れられるならそれえ良いし」

 前原が不安そう恵那に尋ねた。

 「だが、ドローンを撃墜したとしても、奴等は人工衛星でこっちを監視している可能性もあるぞ?」

 「そうなの?相手はどこまでこの国を掌握しているの?」

 恵那に尋ねられ、チャンは考え込む。

 「解らん。何せ、もうこの国は誰がどこに属しているのかさえ・・・わからない」

 「いい加減なもんね。昨日の友は今日の敵ってわけね。親や子に寝首を掛かれないようにしなさい」

 「親や子か・・・悪いが、すでにそんなような事は彼方此方で起きているよ。信用が出来る奴など居ない」

 チャンは寂しそうに答える。それを見て、恵那は唾を吐き捨てた。

 

 一行は小走りに目的地へと向かった。

 幸いと言えるか、敵の攻撃は無かった。

 偶然、通り掛かった一般車を恵那は止める。

 それはミニバンであった。乗っているのは小太りの中年男性と助手席に妻だろう中年女性。後部座席には10歳にも満たないような子どもが二人。

 彼等は恵那に銃口を突き付けられ、怯えていた。

 「車から降りなさい」

 恵那に言われて、家族は怯えながら車から降りた。

 チャンが中国語で彼等に説明をする。彼等は怯えながら車を提供する事を認めた様子だった。

 「これだと5人しか乗れないわね」

 恵那は車を覗き込み、そう告げる。

 「別の車が来るのを待つか?」

 前原に言われて、恵那はニヤリと笑う。

 「目的は私・・・最低限の戦力で行くわよ。残った奴はそこの家族がどこかに通報しないように見張ってなさい。何なら・・・ここで殺すけど?」

 恵那の冗談とは思えない目に自衛官達はゴクリと息を飲んだ。前原は慌てて、それを制す。

 「無駄に殺すのは無し。彼等は部下が見張っている。我々だけで任務を全うしよう」

 恵那は拳銃をホルスターに戻し、後部座席に乗り込んだ。

 チャンと前原、部下の二人が乗り込んだ。

 「運転は大丈夫?事故ったら殺すし、トロトロしても殺すわよ?」

 恵那は運転席に座った前原の部下に言う。

 すると運転手となった彼は笑って言う。

 「安心してください。俺、こう見えても昔はヤンチャしてましたから」

 彼はそう言うと、シフトをドライブに入れて、アクセルを踏んだ。


 

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