第27話 フルリロード
隊員の自己紹介を終えて、前原は恵那に作戦を説明する。
「作戦は簡単だ。我々は君を重慶から離れた場所にあるこの施設に送り届ける。ここで君は端末を操作して、戦略ミサイルの無力化をする。あとは無事に脱出する。因みにこの作戦には当然ながら、君にそれを送った勢力の支援もある。じゃなければ、とてもじゃないが、我々だけじゃ、君を送り届けるなんて不可能だ。しかしながら、妨害をする勢力も存在する。はっきり言えば、その区別が我々にも出来ないのが現状だ」
「区別・・・内戦中って理解で良いかしら?」
恵那の問い掛けに前原は少し考える。
「いや・・・何とも言えない。単なる内輪揉め程度と考えるべきかな。ただ、それによって、日本や世界の安全が脅かされていると考えれば良いかな」
「内輪揉め程度で世界に核の雨を降らせる危険を与えて欲しく無いわね」
「そうだな。だが、所詮、あの国の考え方などその程度だよ。だから、発展途上国に核は持たせたくないんだ」
前原は呆れたように言うが、それ以上に呆れたのは恵那だった。
「そのツケを女子高生に払わせようとしないでね」
「まったくだ。僕らも君が選ばれた理由が解らないから困惑したよ。事実、本当に君が目の前に現れて、ここに居る全員が驚いているんだから」
「哂い者じゃないわよ」
「解ってるさ。僕らからすれば大切な配達物さ」
「荷物扱いにしないで」
恵那は怒りを露わにする。それに前原は肩を竦めた。
飛行機はそのまま、北京国際空港へと着陸した。
荷物扱いとなっている恵那達は運び出されるコンテナの一つに入っている。それは大型のエレベーター並の大きさしか無く、座席も無い為、皆が立って居るしかなかった。
「狭くて、おっさん臭い」
恵那が不満を言う。それに唯一の女性隊員がクスリと笑う。
「東条、笑うな。それに俺はおっさんじゃない」
若い男性隊員が顔を赤らめて言う。
「黙れ。外に聞こえたらどうする?バカ野郎」
前原が怒鳴る。
「とにかく・・・早く解放して欲しいわ」
恵那は辟易しながら、この状態を我慢した。
1時間程度、その状態が続き、恵那が我慢の限界を超えて、怒り出す頃、コンテナの扉が開いた。
「ようやく解放されたわ」
恵那は怒りに表情を歪ませながら、外に出る。
そこには銃を手にした男女が10人程度、立っている。
いきなり、殺気立つ。
前原達も銃を構える。
「待て。我々は味方だ」
恵那の前に立つ男が片言の日本語を喋る。恵那は仁王立ちで彼の前に立ち、笑う。
「へぇ・・・歓迎ってわけね。それで・・・ここからはあんた達が案内してくれるの?」
「そうだ。・・・私の名前は張」
「チャンさんか。どこにでも居そうな中国人名ね」
恵那の言葉に彼は緊張が微かに溶けたように笑みを浮かべる。
「あぁ・・・多いからな」
「じゃあ、とっとと仕事を終わらせて、本場の中国料理を食べさせてよ」
「わかった。この先にバスを用意している」
彼等に従い、向かった先には3台の観光バスが停まっていた。
「修学旅行みたいね」
恵那はバスに乗り込み、一番、奥の座席に座る。
「戦闘が無しで全てが済めば楽なもんだがね」
彼女の隣に座る前原が疲れたように言う。
そこにチャンも乗り込んで来た。
「わたしもそうであって欲しいですね」
チャンは笑いながら言う。それに恵那がツッコむ。
「あなたの国の軍隊でしょ?」
「確かに・・・まぁ、この内戦状態では同じ中国人と言うだけで敵味方は解りませんけどね」
その言葉に引っ掛かった前原がチャンに尋ねる。
「すでに内戦状態だと?」
「あぁ、外側からじゃ解り難いが・・・この国はすでに分断している。民主化革命をひたすらに抑え付けてきて、軍を拡大させ、停滞する経済成長を誤魔化してきた罰だよ。我々はこれから長い月日を掛けて、そのツケを払うのさ。日本のバブル以後みたいにね」
「日本は血までは流さなかったけどね」
「そうだな。その点において、日本の決断は素晴らしい。我々はそれが出来なかった。今回の事もその一つだよ」
恵那はチャンを睨む。
「それで巻き込んだ理由は?」
「人工知能が出した結論だよ。この事態を解決させるためには鍵を外国の・・・君に預けるべきだと。そうすれば、高い確率で事態は回避されるとね」
「無茶苦茶だわ。それで他国の民間人を巻き込むなんて」
「悪いね。だけど、我々も必死なのさ。万が一にも奴等が暴発したら、国の内外に核弾頭が降り注ぐんだからね。世界の終わりさ」
「勝手に終わらせないで・・・自分で管理が出来ない代物を持ち続けるのが悪いのよ」
「その通りだ。あんな使えない上に管理費がバカ高い物なんてな」
チャンは寂しそうに呟いた。恵那はそんなチャンを眺めつつ、懐から拳銃を抜いた。その様子に前原が気付く。
「どうした?」
前原に尋ねられ、恵那はニコリと笑う。
「どうしたって?面白い事を言うわね。空港から出て、いきなりあんなのが見えちゃねぇ」
恵那は拳銃を窓の外に向ける。窓の外にはバスを追うように飛ぶドローンが何機もあった。それを見たチャン達も慌てて、戦闘準備をする。その様子を見て、恵那は呆れる。
「ずっと監視されてたんじゃない。頼りないわね」
そう言うと恵那は座席から立ち上がり、前へと向かう。それをチャンが声を掛ける。
「ど、どうするんだ?」
「どうせ、待ち伏せされてるわよ。ここで降りるわ」
「ば、馬鹿な事を・・・」
チャンがそう言った時、前原も立ち上がる。
「このバスじゃ、戦闘になれば、やられるだけだ。バスを停めろ」
それを聞きながら、恵那は運転手に拳銃を向ける。
「そう言う事だから、止めなさい」
運転手は怯えながらバスを停めた。前原は後続のバスから部下を降ろす。
「さて・・・もうデッドゾーンじゃない。チャンさん。生き残りたかったら・・・ここから先は派手になるわよ」
恵那は拳銃を構える。そして、発砲した。
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