第22話 その後・・・
四人はボロ車で東京へと向かった。まだ、自分達がどのような立ち位置になっているか解らない。いつ、追手が現れても良いように常に銃は手にしている。美緒はまだ、眠ったままだ。息はしているが、目覚めようとしない。本当ならば、何処かの医療機関に診せるべきだろうが、それどころじゃなかった。
ボロ車のノイズの多いラジオからニュースが流れる。研究施設での火災で職員全員と救助に当たっていた警察関係者が亡くなったと騒いでいる。まぁ、火災じゃないけどねと恵那は心で思った。ただ、ラジオではあくまでも火災で亡くなった事だけを告げている。多分、このまま事件は幕を引かれるのだろう。そう恵那はただ、願うだけだった。
「まるで、何事も無かったかのようね」
陽子がつまらなそうに呟く。
「ふふふ。国家的な陰謀って奴は幕を引く時は幻のように消えるのよ。そうじゃないと、処分される首が増える一方だからね。皆、自分の首が一番かわいいのよ。だから、この手の事件は下手に騒いではダメよ。その時こそ、本当に消されるから」
恵那は笑いながら答える。
「処分される首ね。じゃあ、この子はどうなるの?」
「さぁ・・・まずは目覚めて貰わないと・・・困るわね・・・状況は限りなくレッドに近いイエローよ」
恵那は美緒の寝顔を見る。まるで子供のような寝顔だ。
「神か・・・悪魔か・・・芹沢が言うように全ての力を解放した神であれば、世界から狙われるかも知れない。使える兵器としてね」
「じゃあ・・・その子も処分?」
陽子の不安そうな言葉に恵那は微かに笑う。
「だけど・・・そうじゃないとすれば?」
「ただの人間って事?さっきのあれを見たら、そう思えないけどね」
「さっきはさっき・・・あんな力がいつまでも出せるとは思えないわ」
ブルブルブル
恵那のスマホが着信を伝える。見ると、それは奥田の番号だった。ひょっとしたら、奥田のスマホを使っている敵という可能性もあるから、一瞬、通話にするか悩んだが、ここまで来たら良いやと思い、通話ボタンを押す。スピーカーからは知った声が流れる。
「あぁ、どうやらうまくいったみたいだね?」
「生きてたんだ?」
恵那は奥田の声を聞いて、冗談を言う。
「勝手に殺さないでくれ。まぁ、あまり良い状況じゃないけど」
「今、何処に?」
「病院さ・・・肩と腹に銃弾を受けてね。さっきまで意識が無かったらしい。弾丸の摘出手術をして、ようやくお目覚めってね。パソコンも何も没収されて無かったけど、何故かスマホだけは手元に置いておいてくれたから、何とか君達と会話が出来たよ。ネットのニュースを見たら、例の研究施設、火災だってね」
奥田は笑っている。
「えぇ、不幸な事故よ。美緒は巻き込まれずに済んだわ」
「それは結構だね。警察の方だけど、待遇はかなり良い。どうも今回の事は見て見ぬ振りを決め込む気のようだ。僕を逮捕しようとしないどころか、監視も無いんだよ。まるで僕が発砲事件の犯人って事は無かった事にするみたいだし」
「泳がされているんだじゃない?」
恵那は呆れた感じに言う。
「いや、何とかスマホだけで、警察のネットに入ったけど、俺らがここ数日、引き起こした事件は全て、解決済みにされているよ」
「解決済み・・・捜査されないって事ね?」
「そういう事」
恵那は少し安堵した。陽子はそれを聞いて、
「じゃあ、あんただけ、送検されて、犯罪者にでもなれば?」
「バカは止めてくれ。俺を捕まえた刑事も俺らの仕事はここまでだ。じゃあな。二度と俺の前に現れるなよとかキザなセリフ吐いて出て行ったし」
「解ったわ。政府がこの件から降りてくれるならありがたいわ」
「まぁ、そういう事だと思う。後はそっちで始末しれくれ。俺は逮捕されないと解っただけ、助かったと思う気持ちで暫く、ここに厄介になるから。こんだけ気が楽になったのは久しぶりだよ」
奥田からの通話が切れた。
「奥田は無事・・・警察も手を引いた。あとはこの子が目を覚ますだけね。本当に疲れたわ」
その後、彼女達は無事に東京に戻る事が出来た。
恵那は警備会社へと出向くものの、特に咎められず、ギャラに関しては約束よりも多くが払われた。これに対する説明は一切無かったが、単純に口止めであることは理解が出来た。
陽子も保安官としての職務を大きく逸脱した行為を続けたわけだが、これも所管する警察からは何も咎は無い。覚悟をしていただけに、彼女は呆気に取られてしまった。
ブラウンも元の民間軍事会社に復職した。しかもギャラはかなり良くなっている。上司達の数人が姿を消していた。彼らが何処に行ったか、ブラウンには解らない。ただ、解らない方が良い事もあると彼は知っている。
そして、奥田は1週間の入院を終えて、学校に戻って来た。傷はまだ、痛々しそうだが、陽子が揶揄っているので、良しとする。
全ては元に戻った。
「何もかもが戻った・・・あとはあんただけよ」
朝の陽ざしが窓から入り込む。ベッドに眠る一人の少女。その横顔に声を掛けた恵那はトレーニングを終えて、朝食を作り始める。今日も二人分。眠ったままの少女には点滴による栄養補給がされている。だが、いつ、目を覚ましても良いように、いつも二人分を作る。それが彼女の日課になっていた。
「あんたが好きなチーズトーストが焼けたわよ」
恵那が振り返った時、ベッドには笑顔の美緒が居た。
「おはようございます」
彼女は笑顔で挨拶をする。
「えぇ、おはよう。朝ごはん、食べる?」
「はい」
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