第20話 要塞攻略
駅から村まではバスで一時間。ほとんど、終着に近い場所だった。窓から見える光景は山か田畑。時折、集落が見える程度。まさに田舎だった。そして、目的地のバス停に停まる。案の定と言うべきか。そこには完全武装の警察官の姿があった。バスの運転手は明らかに動揺しながらも、恵那が押したチャイムに気付いて、バスを停めた。
「ここで降りる乗客は?」
扉が開いたと同時に警察官が運転手に尋ねる。バスの中には乗客は一人。
「女子高生か・・・すまないが、身分を確認させて貰うよ。学生証とかは?」
彼がバスに乗り込みながらそう言った時には恵那は拳銃を抜いていた。バスの中で大の大人が動き回る事は不可能。最初の一撃は確実に彼の顔面を穿った。
「ひっ」
隣で倒れる警察官の姿に運転手が怯える。外で待機していた警察官達が一斉に短機関銃を構える。だが、恵那は動じず、鞄を放り投げた。その鞄はバスの搭乗口から飛び出し、警察官達の真ん前に落ちる。誰もが何事かと思った瞬間、それは爆発した。鞄に仕込まれた高性能爆薬によって、バスが横転するんじゃないかと思うぐらいの爆発が起きた。恵那は即座に伏せていたが、バスが何度かゴトゴトと揺すったのが解る。
「ちっ・・・他には居ないわよね?」
恵那は立ち上がるとバスのガラスは全て吹き飛び、運転手も爆風にやられたのか、運転席に横たわっている。
「じゃあ、運賃ね。領収書は・・・無理か」
彼女は壊れた運賃投入機の上に千円札を置いて、バスから降りた。そこには爆弾によって四肢が飛び散った警察官達の姿がある。
「さすが・・・凄い破壊力ね。あんた達には恨みは無いけど・・・こっちも本気なんでね。ごめんなさい」
恵那はそう言って、その場に落ちている程度の良さそうな短機関銃と弾倉を拾ってからその場を後にした。
「2班がやられた?爆弾を使われただと?」
指揮官は突然、鳴り響いた爆音に驚いた。慌てて、別の部隊に無線で確認をしたが、2班だけが応答不通となっていた。近くに居た3班に確認をさせたら、バスが爆発で大破して、3班の5人とバス運転手が死亡していた。その光景はあまりにも凄惨で、直視が出来ないものだと。
「これが・・・俺らが捜している相手って奴か?」
顔面蒼白にして指揮官は呟く。彼も機動隊で銃器対策部隊を率いるだけにそれなりの覚悟はしていた。だが、実際に一瞬で躊躇いも無く6人の命を奪っていく相手にどこまでやれるか。あまりにも自信が無かった。
「3班はそのまま、付近の捜索をしろ。相手を見つけてもすぐに手出しはするな。やる時は俺らと合流してからだ」
指揮官は相手の異常性と攻撃力を感じ取り、慎重になった。3班もあまりに凄惨な光景にその足は竦んでいた。この事は恵那の捜索を遅らせる事に大きく影響をする。彼女はそこまで計算して、派手な殺害方法を考えていた。
陽子達も爆発音を聞いた。
「爆発・・・花火じゃないわね?」
陽子は耳を澄ます。だが、それ以上の音は聞こえない。
「プラスチック爆薬か・・・何が起きている?」
ブラウンも警戒をした。すると、スマホに着信が入る。それは奥田からだった。
「あぁ、オタクか、今、どこぉ?」
「あぁ、僕は駅のある町のインターネットカフェだよ。寂れた街でもあって良かったぁ。そこで調べているんだけど・・・やばいな。アメリカが動いている。そっちにオスプレイに乗ったフォース・リーコンが向かっている。やるなら早くした方が良い」
「フォース・リーコンって・・・。マジかよ・・・」
ブラウンの顔色が完全に青くなる。
「こいつはぁ・・・まずいな。まずは陽子と合流する。場合によってはここを放棄して逃げなきゃ」
彼女達はすでに研究所から出て来た業者の車を止めて、運転手の頭を殴り倒した所だった。
「じゃあ、こいつ、どうするよ?」
ブラウンは殴り倒した作業員を見て、困った顔をする。
「考えたら、そいつの代わりが女子高生や黒人なんて、意味が無いわよ。車だけ貰って、恵那を迎えに行くわよ」
陽子と恵那に情報を流した奥田はインターネットカフェの個室で、作業に取り組んでいた。パソコンの画面には幾つものウィンドウが並び、並列に数列や英数字が並ぶ。突然、アラートが鳴り響いた。これは自分の居場所が逆探知された事を意味する。奥田は慌てた。パソコンを持って、個室を飛び出す。すぐにここに警察がやって来るだろう。単純に捕まるなら良いが、消される可能性が高い。
会計を終えて、店の外に飛び出す。この街の中ではまだ、繁華街の方なのだろうが、店は数点だけだ。インターネットカフェがあるのが不思議なくらいだ。奥田はとにかく走った。この場所から離れないといけない。
銃声が鳴り響く。
奥田の左肩を掠めた銃弾で、彼はその場に倒れてしまった。
「動くな!動くなよ!」
背後からは男の声がした。足音が聞こえる。奥田は戦闘のプロじゃない。それで相手が何人かなんてわからない。ただ、二人ぐらいじゃないか?二人なら勝てるかも。ポケットから拳銃を抜く。振り向き様に発砲した。相手は5メートルぐらいまでに迫っていた。背広を着た二人の男。手にはS&Wの回転式拳銃。
「バカ野郎!」
一人の男が奥田に向かって怒鳴った。銃口が奥田に向けられる。奥田も彼らに銃口を向けた。交錯する銃弾。銃声が何発も響き渡る。空薬莢が地面に落ちる乾いた金属音と硝煙の匂いだけがその場に漂った。
恵那は陽子からの連絡を受けて、彼女達が来るのを隠れて待った。状況は最悪。村には警察の特殊部隊がまだ残っているかも知れない。オスプレイに乗った海兵隊の特殊部隊も迫っている。そして、拉致られた美緒もどうなっているか解らない。そして、この事態を解決せねば、何処にも逃げる場所の無い自分達。
「尻に火が付いたわね・・・獲物に嚙みつかないと・・・死ぬだけだ」
恵那は潜む林の中で静かに牙を研いだ。
陽子達は予定通りにやって来た。車は何処かの業者の車だった。どこで手に入れたかとは思ったが、陽子の事だから、上手くやったんだろうと恵那は気にせずに、その荷台に恵那が乗り込むと座席も無いただの荷台に陽子が居た。
「奥田と連絡が取れない。何かあったかもね」
陽子は心配そうに恵那に伝える。
「仕方が無いわね。それで・・・研究所に入る方法は見つかった?」
陽子は首を横に振る。
「正面ゲートからは戦車でも無いと強行突破が出来ない。それ以外は自力で登るにはかなりの時間と労力を有するし、発見される可能性が高い。業者に扮して入ろうと思って、この車を奪ったけど、その時には奥田から海兵隊が来る知らせを受けた後よ」
恵那は少し嫌そうな顔をする。
「なるほど。海兵隊は数十分もしたら、ここに到着するわ。それまでに研究所に突入しないと・・・皆殺しになるわね」
恵那の言葉に陽子はゴクリと唾を飲み込む。
「でも、まだ、村には警察の特殊部隊も居るわよ?」
「バス停で5人は殺した。残りは10人ぐらい?」
「やるつもり?」
陽子の問いに恵那は軽く笑う。
「邪魔はさせない。どうせ、探索しているでしょ?各個撃破する」
「本気なの?」
「このまま、逃亡生活でも一緒にする?日本には居られないわよ?」
「・・・冗談じゃないわ」
陽子は拳銃を手にした。
「さぁ、手当り次第・・・やるわよ。やる時は一発勝負。ビビらないでね・・・私達が生きるかどうかなんだから」
恵那は獰猛な猛獣のように笑う。それに合わせて陽子も笑った。
車は田舎道をゆっくりと走っている。それを見掛けた捜索中の機動隊の3班は車を停めた。見る限り、どこかの業者の車だから、それほどの警戒はしていない。ただ、誰かを見なかったかを聞こうとしただけだった。
「はい。すまないけど、話を聞かせて貰えるかな?」
運転席を覗き込む隊員は運転手が黒人だと気付く。
「あ、あんたっ!」
銃声が鳴り響き、隊員の顔面に穴が開いた。運転手が拳銃をぶっ放したのだ。他の隊員達が慌てて、短機関銃の弾を装填させようとボルトレバーを引っ張ろうとする。その時、荷台の扉が開き、恵那達が降りて、手にした短機関銃や拳銃をぶっ放す。彼女達は躊躇無く、空薬莢をバラ撒きながら、銃弾を吐き出す。弾倉が空になるまで、容赦なく銃弾を目の前に居る男達に撃ち込む。彼等は何も出来ないまま、至近距離から撃ち込まれる銃弾に身体を震わせながら、倒れていく。
「よし、銃と弾倉を奪え!次やるぞ」
恵那は全ての死体の顔面に弾を撃ち込みながら、手にしている短機関銃や弾倉を奪う。ブラウンも汚れていないヘルメットを被る。
「そんなもん、自動小銃には意味が無いわよ?」
陽子が笑いながら言う。
「爆弾で頭が吹き飛ぶのはやだよ」
3班からの定時連絡が無く、呼び掛けにも応じない事から、機動隊の指揮官は彼らが命を絶ったと直感した。
「敵は攻撃に出ている。こちらから・・・討って出る」
駐在所を拠点としていた彼らはすぐに外に出た。仇を討つ。そんな気持ちがあったからだ。
「相手は黒人と女子高生。見付けたら容赦なく撃て。相手は撃って来るぞ!とにかく先手必勝だ」
指揮官がそう部下に声を掛けた時、彼の身体に銃弾が浴びせられる。隊員達は慌てた。しかし、違う方向から銃撃が浴びせられる。次々に倒れる隊員達。
それは恵那達だった。彼女達は相手が駐在所を拠点にしている事を警察無線の傍受から事前に分かっていた。その為、彼らが出て来るのを待ち伏せしたのだ。駐在所の外で虐殺とも言える一方的な銃撃が浴びせられる中、駐在所の中に居た警察官は怯えていた。慌てて県警本部に応援を呼ぼうと電話機を取ろうと、伏せた状態で机の上に手を伸ばす。
「あぁ、悪い。電話のご使用はお控えください」
黒人が彼の手を掴み、優しそうに言う。彼が片手に持った短機関銃の銃口が彼の最期に見た光景だった。
「駐在をやったぜ。拳銃もパクってきた。S&Wだぜ?」
「ニューナンブなんて、今時、残っていないわよ」
彼らはまるで軽い遊びでもしたように陽気に車へと乗り込む。
「次は・・・研究所だな?この武装で大丈夫かよ?」
「ダメなら死ぬだけ。海兵隊が来るより先に突入しないとね」
ブラウンの心配を他所に覚悟を決めた恵那はただ、不気味に笑っているだけだった。それを見ていた陽子も無言で銃の準備をするだけだった。
この研究所を警備する警備員は現状で21人。正面ゲートに5人。二番目のゲートに5人。研究所の入り口に5人と周辺と中に5人。指揮官が指令室に1人の体制だ。全員がFN社P90PDWを手にしている。銃口には大型の消音器が装着され、光学式照準器を装着している。
警備員の多くは元陸上自衛隊の自衛官である。だが、彼らとて、人を殺した事など無い。だが、迫って来る連中はたった、今、多くの人を殺した殺人鬼だ。その彼等と真っ向から撃ち合いをしなければならない。そう考えただけでも、全員の気分が悪くなった。
正面ゲートに立つ警備員は銃器を携帯しない決まりだった。一般人に見られる事を気にしての処置だったが、さすがに今回はそんな事を言ってられないので、全員が短機関銃を手にしている。すると、前から車が走って来る。それはいつもの業者の車だ。
「時間じゃないぞ・・・撃て!」
それが業者じゃないと感じた班長が叫ぶ。それと同時に発砲が始まる。弾丸は次々と車を蜂の巣にする。車はコントロールを失って、道の路肩にある用水路に落ちた。
「吉岡、多田、確認だ!」
二人の警備員が銃を構えながら車に迫る。だが、その瞬間、一人が倒れる。その後銃声が鳴り響く。それは遠距離からの銃撃だった。
「狙撃!」
誰もがそれに気付いた瞬間、二人目が倒れる。
「狙撃だ!身を隠せ!」
彼らは検問所に隠れる。ただ、狙撃から逃れるためだった。だが、彼らは気付かない。その瞬間、道路の脇に潜んでいた二人の人影が近付く事を。
「すぐに応戦準備おえええ」
班長が他の二人に応戦準備を命じようとした瞬間、二人の人影が至近距離で彼等を撃った。短機関銃から吐き出された9ミリパラベラム弾はその場に居た3人を穴だらけにする。防弾チョッキや防弾ヘルメットは傷付き、その隙間から彼らの身体を撃ち抜いた。三人は折り重なるように倒れる。
「陽子、こいつら、良い銃を使っているわね」
恵那はP90PDWを掴む。
「折角だから、使わせて貰うわ!」
陽子は監視カメラに向かって銃を見せる。
状況は最悪だった。研究所内に非常事態を告げるサイレンが鳴り響く。
「隔壁を下ろせ!研究棟に入れさせるな」
研究所は完全防護モードに入る。警備員達は恐怖と怒りの間で、気分は高揚していく。
ブラウンは機動隊から奪ったホーワM1500ボルトアクションライフル銃を構えたまま、茂みに隠れている。彼の役目は狙撃。そして、海兵隊の動きを知らせる事だった。研究所が見渡せる場所でただ、じっと潜んでいるしかなかった。
恵那と陽子は第2検問所に向かっていた。そこにはすでに臨戦態勢の警備員達の姿がある。恵那はそれでも怯えず、銃を撃ちながら迫る。その正確無比な銃撃に彼らは頭も出せずにただ、耐えるしかない状態になる。だが、その銃撃も限りはある。恵那が弾切れになって、間が空く。警備員達は慌てて、頭を出した。だが、その頭を次々と撃ち抜くのが陽子だった。
「ビビってるなよ!」
最後の一人を撃ち殺して、陽子は検問所に飛び込む。全てをクリアして二人は更に上を目指した。
この光景に警備指揮所の指揮官は焦った。とにかく、火力を集中して、二人を殲滅する事にした研究所の彼方此方に配置していた警備員が集められる10人が研究所の正面入り口に集まる。彼等は遮蔽物に隠れながら、二人が現れるのを待った。
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