3抱え込む涙

翼斗が妹の瑠々斗のことを思い出し、

1人、屋上で泣きながら寝ていた。

勉強の始まりのチャイムが鳴っても、そばに

ずっと頭に手を置きながら安心させてくれた

のが、絆生だった。その後、己紅采が探しに

来た時

「シーっ。こっちはお取り込み中。」

己紅采はその状況を理解できず、

怒ろうとしたが、隣には翼斗がいた。

翼斗が寝ているのに気づいたが、そんなのは

許すわけがなかった。己紅采が翼斗を

起こそうとした時だった。翼斗を起こさず、

小さいな声だったが、さっきの軽い声とは

別ものだった。生徒会、己紅采でも、

驚くものだった。

「翼斗が苦しんでんだよ。わかんねーのかよ

生徒会も甘いもんだな。鈍いし。己紅采、

翼斗の顔、見ろよ。これでわかんなかったら

俺の前から消えろ。」

背筋が凍るような怖さだった。

そして、言われたように翼斗の顔を

起こさないようにそっと見てみた。それは

あまりにも苦しそうで、泣きながら目を

閉じている青年の姿だった。

「る…る……と…」

2人にもわからない発言だったが、その発言

に、とても苦しく、2人も泣きそうになった

ぐらい、重く感じる言葉だった。

「…僕が悪かった。先生には『あとで』

伝えておくよ。2人ものことはね。」

「待て、あとでってなんだ」

その言葉にはさすがの絆生もわからず、

瞬間的に問いかけた。

「僕もここに残るよ。なぜ泣いているのか

『るると』というのは何なのか。

聞かないとな。」

「そんな、いてくれんのは嬉しいけど、

その重い言葉を聞くのかよ…」

「僕だって、聞くのは嫌だ。」

この言葉に絆生は衝撃だった。なら、なぜ

聞くのか、なぜここに残るよ。と言ったのか

絆生には、イライラと意味不明なことが

どんどん積み重なっていく一方だった。

だが、次の瞬間だった。

「その、暁…くん?は…もしかしたらだけど

『ひとりで抱え込んでいる』んじゃないかな…

それなら、聞いた方がいいと思うのだが…」

その考えは絆生にはなかった。

『ひとりで抱え込む』それは否定出来ない

言葉だった。そして、己紅采がまた

衝撃のことを話し始めた。

「神也くん、これは生徒会しか知らないから、

誰にもいうなよ。暁くん、実は…両親がいない

らしいんだ。」

「…は?」

そんなこと、急に言われても、という顔をし、

何も言い返せなかった。

「暁くんの両親は自殺。そして残ったのは

暁くんだけだった。暁くんもおそらく自殺

するはずだった1人。だが、怖かった

んだろうな。自殺ができずにここまで

生きてしまったことを、とても病んでいる

らしい。校長が言っていた。」

「そ、そんなの!嘘に…」

「なら今、君が握っている手首をよく見たら

どうだ?」

「手首…?」

自分が握っていた手を外し、よく見てみると

そこには傷の跡があった。思わず手が震えて

しまう。

「…んん…っ」

翼斗が少し震え、目がうっすらと開きそうな

感じだった。

「あ、もうそろそろ起きるかな」

「…己紅采、悪かった。」

「んーん。君は優しいよ。まぁ聞くけどね」

「好きにすればいい。」

少し絆生はふてくされたが、己紅采はそれに

頭を撫でてやった。それに絆生は

子供扱いすんな!と言い、己紅采をボコボコ

にしようとしたが、身長差のせいで、

頭までは届かず己紅采は苦笑をこぼした。

「あ…れ…ふありとも…いひゃの…」

(か、可愛すぎる…)

2人もは少し顔を赤らめながらそう思って

しまった。寝ている顔も綺麗だったのにも

関わらず、今度は可愛い。いいところ取り

すぎると、2人はそう思いながら、

ある事を聞いた。

「『るると』…聞いたんだね。2人とも。」

「すまない。暁くん。」

「ごめん。」

翼斗は苦笑を漏らしながら、『るると』の

ことを言った。

「瑠々斗。暁 瑠々斗。だよ」

2人は一瞬固まった。そして、絆生が

恐る恐る聞いてみる。

「翼斗の…兄弟…?」

「そ。俺の妹だよ。」

「妹!?そんなの、生徒会でも先生も、

情報もどこにも…」

「落ち着いてー!」

翼斗ができるだけ大きな声で言った。

己紅采が色々長くいいそうなのを一旦止め、

翼斗はため息をつきながらゆっくり話した。

「瑠々斗は俺の妹で…思わぬ事故で

小学2年で亡くなった。両親は何よりも

瑠々斗を大事にしていた。けど、思わぬ事故

のせいで、両親は死んだ。俺も死のうとした

んだけどね(笑)無理だった(笑)」

「…己紅采。わかってるよな」

「もちろん。」ギュッ

2人は翼斗に抱きつき、翼斗にこう言った。


『もう独りで抱え込むなよっ』


「…うん。ごめんなさいっ」ニコッ

翼斗は、また泣きながらはにかむ笑顔で

3人で泣きながらでも、精一杯笑っていた。


3 抱え込む涙 End

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