★せっしょん063 次元溝探査機

がーるずほりでぃ♡みりゅうす☆せっしょん

あたしが見届けた時空連続体のさざなみ


★せっしょん063 次元溝探査機



Girls Holiday ♡ Mie-Lyus ☆ session

The ripples of the space-time continuum that I saw


☆session 063 dimension crack probe




✔走査開始



 山の中。

 ライホリオン・ミーはバイクのヘルメットを脱いだ。

 真っ白いロングヘアを、なんともいえない多角形状のおだんごにまとめたミリギューム人女性。

 彼女の細身な身体は真っ黒いボディスーツに覆われている。

 それは超絶的なネットワーク演算能力をもつシステマチックな兵器としての機能をもつ。

 その上から派手な(黒地に金色の龍神が暴れている図柄)私物のライダージャケットを羽織っていた。

 スーツのステルス機能は起動しているようだ。

 光学系ステルスなので、遠方からの視覚を撹乱する。

 ステルス機能を稼動状態にしておきながら、そんな派手なジャケットを着ていたら、ステルス効果なんか台無しだろうに、ちょっと間抜け。

 個性的な美人の顔のはずだが、知り合いだと思われたらイヤだな、と感じさせる妙なものを醸している。

 すぐ近くに教育学部の養護支援施設があり、その子供たちが、遠目に彼女の姿を確認して囃しているし、彼女も子供たちに適当に愛嬌を振りまいている。

 真剣なミッションである事は間違いないはずなのだが…

 のんびり仕事をしてる様がよくわかるように、彼女のしっぽも、ふらーんふらーんと揺れていた。

 スーツの装甲がのびて半つや消しのカバーになってしっぽを覆っている。

 それなりにエロい。


 バイクの計器モニターの周囲に5、6個のレビテーションモニターが起動しているが、いくつかは遮光モードのまま。

 彼女は、バックパックの中から直径 5cm ほどの球体を出す。

 小型探査ポッド。

 起動スイッチを入れる。

 球体の赤道部分に光が走り、全体がぼぅっと発光する。

 手首のパネルからネットワーク起動のサインを入れると、それらは空中に舞い上がった。

 1、2、3、4号をミッション中継機として設定する。

 4機はバイクの前後左右上空 10m 前後の位置に固定した。

 5号をたつきの家へ飛ばす。

 肝心な美少女特異点がいる彼氏の家だ。マークせねば!


 4機の中継機セッティングモード。

 複雑な召還図形のような光の多重図形が、うっすらと4機が支持する空中に浮かび上がった。

 その直径100m。

 図形はゆっくりと回転し、やがてその外周部が急速に拡大しながら大気ににじんで広がっていった。


 その“ にじみ ”は瞬時にこの惑星の北半球を超える大きさにまで拡大し、時空次元座標的に跳躍を重ねて数百万キロを超え、次元振動波として 12 秒ほどで物理的には3万光年先の座標に到達していた。




✔ 追尾



 静止軌道上 69255-41-97631 のポイント。

 この平和な学園惑星37995.26km上。

 広域時空界面哨戒艦『マス・パッフィリア 3115』


 全長 365m/乗組員 65 名。

 艦籍:監察官評議会戦略執行部門第 4 中枢打撃艦隊第一哨戒群

 干渉次元位相差レーダー 12 基装備。


 数万光年の銀河をその意識のうちに見通せる生体特異点:ツンデレ美少女の超次元的超感覚視界が展開される“ 軌跡 ”を追い続け、バックアップをとるのがその任務だった。 

 「次元振動波追跡、順調です。」

 「よし」

  学園惑星の自治を侵せないために、これ以上の低高度はとれなかった。

 情報受信感度は激増したようだ。 




✔ やっかいな事



 地上。

 「次元溝探査機 367 号機、391 号機、それに 481 号機が最終的に多次元軌道座標計算の最終段階まで行けたわけね…、」

 “返信”をみて、

 「メリホリオン、最終的に失速しないで帰還軌道にのれるのは?」

 “391 と 481?…”

 彼女は目をつぶったままだ。

 彼女の超空間を見据える視座は、物理的な座標系に換算するなら現時点で数万光年に拡大している。

 それは余人の想像しようもない異次元の認識能力。

 数万光年の銀河の俯瞰は、超遠大な星々の瞬きだ。

 今の彼女のまぶたのすぐ裏にはそれが見えている。

 それは、彼女が不老不死という時空のいたずらを真にうけてしまった代償だった。


 それなりに楽しんでいるようではある。


 追跡している次元溝探査機の航法軌跡は、光の線としてくっきりとその星々の瞬きの中に、明確な意思の表現として彼女の心に認識されていた。


 “定時情報の解析から 481 号も長続きはしないかも”

 「そっか」

 次元溝探査機は使い捨ての無人機だ。

 それでも全長は 100 メートル近くある。

 それが放たれた先は普通の宇宙空間ではなく、時空連続帯の狭間である。

 はじめから回収できればもうけもの、という計算で動いていた。

 「とりあえず『791 故韻文(こいんもん)』に、ゲートウェイを繋げられてる、と見ていいのかな」

 “なんとかね”

 「面倒なだけ。」

 “そういう事だわ”

 「《主座(標)存在(しゅざそんざい)》の実体化なんて幽霊を呼び出すのと同じでしょ?」

 “そうとも言い切れませんよ。宇宙の構造は深淵ですから、

 「ま、そうだけど。」

 “次元多様体の新しい解が示唆されているのかもしれません。”

 「ふ~ん…」



✔ 美少女超空間ゲート



 《主座標存在(しゅざひょうそんざい)》多次元宇宙構造の超時間軸を基準に計測されている存在。通常基底現実空間上の量子連環効果によって発現する物質とは、根本的にその有り様を異にする。


 先日、水着パーティ会場で呼んじまったアレ。


 それ以前からみりゅうすの周囲には現れていたようだが、その確証は憶測を出ない。

 らいほりおん・シャカスタス=ミーは、尋ねた相手に、敬意を払ったような溜め息をついた。

 穏やかな教師のようなしゃべり方をするのはメリホリオン・シャカスタス=ザイ。

 ライホリオン・ミーが体内に内蔵している予備生体電脳。

 事故死した彼女と縁のある記憶人格の演算記録サーバーだ。

 メリホリオン・シャカスタス=ザイの技術(?)の支援のおかげで、ライホリオン・ミーは、次元溝探査機とのタイムラグの無い交信を可能としている。

 彼女は、数万光年もの時空間を一瞬の視座に収める事が出来る。

 彼女は歩く美少女超空間ゲートだった。

 それでもみりゅうすの“ 訳のわからなさ ”には負けていた…


 監察官評議会本星の《深空間探査機構》が打ち上げている次元溝探査機の回収次元軌道計算に、生体特異点としての彼女の勘が、ゆらぎ演算パラメーターとして必要とされてるのは皮肉な話だった。

 これはまた彼女の運命に導かれる必然でもあった。

 生体特異点(特異発現収束座標)_量子相対座標系の超座標に沿って、極遠距離の感応跳躍ゲートを安定して制御する能力をもつ有機体。

 個体識別と能力解析値によって名前の後に5桁の分類能力コードがつく。



 彼女の正式名称

 《らいほりおん・シャカスタス=ミー51873》



 ぶっちゃけ、とんでもないものをもってる者同士『あんたが適任』という押しつけ半分の指示があったのは確かだ。


 彼女を支援している監察官評議会が『銀河の理性』と言われる所以だが、また知的有機体の泥臭い判断で動く巨大組織である事には変わりがない。

 だから正直、任務にかこつけて、歩く美少女天然ぼけ特異点を心のどこかでバカにしていた所が、ないこともなかった…




✔ 報告、そして対処ね




 「畳み込み時空照合演算限界値の臨界維持はあと9時間、」

 その間は次元溝探査機のフォローは良好な状態を維持出来る。

 それが過ぎたら、回収軌道航法に切り替えるか見捨てるか、判断を決めなければならない。

 今が午前9時過ぎだから、夕方にはかなりはっきりする…

 “今回も良い数字が維持出来たと思いますよ”

 「そう…」

 数百機もの次元溝探査機を打ち上げている惑星監察官評議会本星の思惑は『唯物主義中枢協力者連邦機構』の外郭領域で勃発している不穏な動きにいち早く手をうつこと。

 具体的には、時空破断の修復用ペネトレーターを然るべき座標に打ち込み、同時に超空間連続体開口レーダーのネットワークを構築する事。  

 しかし、安全な探査機体の制御回収に、彼女のような特異能力者の力を借りなければならないのが、知られざる現状だった。


「こっちじゃ、夕方か…これじゃ…この間に“何”が出てくるか…」

 “何”が出てくるか、見当つきませんね。”

 「やな事言わないでよ、この間の《主座(標)存在》なんて、たまんないわよ。あれ20万年前の呪いよ。」

 “それは同意します”。

 「次元深度量子遷移座標系に、予期しない回廊が展開してる件、やっぱりあの子の仕業なのかな?」

 “間違いないわね、回廊の起点座標が遊走してます。”

 「あの子が好き勝手に歩き回った跡、という訳ね…“連合知性体奥の院”の情報審判局司書官の“ミス”で『791 故韻文』の情報流出して、あたしがその尻ぬぐいなんだもん。」


 “ミス、ではない、という未確認の情報に注視してます。”


 「え"!」

 “過去院の禁書の管理体制に、予期しない動きがあります”

 「まさか…」

 “封を解ける者はあなたも含めて、極めて限られますものね。”

 「臨界継続の保証は出来るだけ注視するけど、そんなとこまで無理…」

 “先駆けはつらいわね、一段落したらまた美味しいもの食べましょ♡”

 「…うん」

 “報告、そして対処ね、過重状態は私が禁止制御かけます。”

 「ありがと、そゆことね。」

 “うまく助力を仰ぎましょ。”

 「ええ。」


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