★せっしょん053 “認識は情報処理の結果にすぎない”

がーるずほりでぃ♡みりゅうす☆せっしょん

あたしが見届けた時空連続体のさざなみ


★せっしょん053 “認識は情報処理の結果にすぎない”



Girls Holiday ♡ Mie-Lyus ☆ session

The ripples of the space-time continuum that I saw


☆session 053 “Recognition is just the result of information processing”



✔ 『二つになった彼女』




 語り部の背後にセッティングされたモニターが、予め演出された BGV(背景画像)を流し始めた。

 「お招き頂いてありがとうございます。私、史学部のライホリオン・ミーと申します。」

 真っ白いロングヘアを、なんともいえない多角形状のおだんごにまとめたミリギューム人女性。

 今日の語り部の一人だ。

 語り部が着席する大テーブルに、思い思いに10数名。

 そしてガーデンプールの各所のテーブルに、もれなくモニターが設置してあり、好きな料理を楽しみながら、怪談の語りを観る事が出来る。

 語り部の身体の横の部分は、紐2本のみで一切身体を覆う布地が無い水着。

 ぴちぴちの水着を無理して着込んで、おなかの脂肪に食い込んでいる部分もウリ、と妙なハイテンションになっているみりゅうすとは、感覚の座標自体が根本的に違うのだろう。

 首からかけた語り部の ID はBGVの演出パネルも兼用しているので、手動操作も可能だ。

 胸の谷間は、視線をくぎずけにするほど深くもない。

 かといって、彼女の魅力を削ぐほど浅くもなく、この場に思い思いの水着で参集している女子学生とは、えも言われぬ一線を画していた。

 「さて、」

 ジュースを一口すすり、


 「お題は、『二つになった彼女』」


 同じテーブルについたポジション的には極めてラッキーな女の子が軽く混ぜっ返す。

 「え!二つになって、って歳のこと?」

 「いやいやいや…」

 「事故です。」

 「事故!」

 「事故で?」

 「身体がまっぷたつ!」


 「きゃっ…」仏頂面が売りの彼女には、この台詞、キマッタ!、と内心感じていた。



 『怪談:二つになった彼女、事故で身体がまっぷたつになった女の子の怨霊』



 語り_ライホリオン・ミー



 「そう、彼女は、この大学に通う芸術学部の学生でした。そしてある日、」

 「ある日?」

 「そう、ある日事故にあってしまったのです。」

 「え"」

 「彼女には将来を誓った彼氏がいました。」

 「うんうん、」

 「でも彼氏は彼女が事故で死んだと聞くと、すぐ別の女に…」

 「え"…」





✔ 外野




 「ねぇ、たつきくん?」

 「はーくん恋わずらいしてるんだって」

 「…あ~、飲んだ飲んだ…え"~~!?」

 ちょっと不自然な間?

 くるっとこっちを向く?

 「は~い、これからデザートのアイスクリームをお配りしまぁ~す」

 「たつきくんはこれ、特別、はい!」


 外野

 「あ、いいなぁ」

 「あら、お兄さん元気いいわねぇ」

 「あ"、歌具庵(うたぐあん)さん」

 「今日は史学部のクイーンのお招きで特別にお邪魔させていただいたのよぉ」

 歌具庵(うたぐあん)、ゲイ専門の飲み屋のマスターだ。

 自前の店が自律航行できる船になっている。

 お店ごと空を(或は大気圏外を)飛んで気軽に営業地点を変更出来る。

 寂しいゲイがいると店ごと飛んでいくらしい。

 業界では名のしれた有名人だ。

 各種知的有機体のゲイとノン気、関係なく楽しく飲める店、なので、みりゅうす一派も顔なじみだった。

 「そんで、どうなのよ、我らがクイーンの様子は?」

 「もう、ばっちし、っす、うたぐさん。」

 「みりゅうすに抜いてもらったたつきクンだもんね。」

 マスターは優しくしなをつくって応援した。

 ゲイ向けの濃い化粧は初期設定だし、仲間公認だから全く問題は無い。

 相手を選ぶ応援なのは確かだが…


 別の外野、スインナグビー人の男の子の集団。

 「抜いてもらったって何を?」

 「お前知らないのかよ?」

 「抜いてもらう、ってたら、やっぱ白髪かな?」

 「違うよ、鼻毛だよ、きっと」

 「ぎゃはははは、お前ら知らないのかよ」

 「だって、俺たちスインナグビー人って長い体毛無いから、長い毛って、あこがれなんだよなぁ…」

 「ふ~ん、そうなの…」



 語り部ステージに戻って、

 「ある日、彼の部屋に、」

 「部屋に?」

 「部屋の隅からいきなり声がしました。」

 「声!?」

 「そう、上半分だけの彼女が…“ねぇ…”って…」

 「きゃ~~~~~~~」

 「上半身だけの彼女は、部屋の中を、するすると手を使って動きまわります_」

 「ぅげ」

 「彼氏は実は、彼女が邪魔でした。」

 「いやあ」

 「真面目で一途な彼女がうっとおしかったのです…」

 「…」

 「後日、彼氏が彼女のバイクに細工をして事故死するようにしむけたのがわかりました…」


 これ、実はライホリオン自身の体験談だった。

 二つになった彼女、というのは彼女自身の事である。

 3年前の話。




✔ 個人的な事情




 彼女は不死である。


 『《生き死人》_生命個体としての中核制御生体活動系が停止しているので、無数のバイオリアクターセルをネットワークで寄生させて稼働する個体、事故や衝撃で肉体がぐちゃぐちゃになっても平気。』

 や

 『《無機知性体賦活型有機体》_生体活動系は生きているが中枢神経系の損壊が復旧の見込がないので無機知性体制御系(補助電脳)で稼働する個体。』

 ではない。


 双方、正規の法的有機体人権認証を受けた人格生存支援制御介護体ユニットを内蔵する場合は、学生個人として就学が認められる。

 そういう学友もちゃんといるから銀河は広大だ。



 彼女の肉体は、分類上は単純な有機体だ。

 彼女は何度も死んでいる。

 彼女の存在を定義している時間線が、死を確定する因果を何故か自動的に回避する。

 肉体的に死亡確定、存在消滅確定の事態が、いつのまにか、あらぬ方向に差し替わっている。

 その事情を知っている関係者と知らない関係者がいる。

 彼女は、まわりで創りだす騒音を出来るだけ避けるようにしてきた。

 それは彼女自身の理解を超えた(手に負えないとも言う)物語だから。それだけに、この語りが醸す得体の知れない恐怖は絶品だった…



 3年前の4月、肌寒い日。

 彼女の肉体が死を迎えたその時の時空に刻まれた物語。

 彼女が放つ言霊。

 それは、量子の海に還元されたはずの物語を再読み込みしていた。

 言葉=言霊に耳を傾ける、という事は、その言霊が刻みこんだ時空に目を開く、という事だ。

 彼女はその事に従う刺激の毒の実態をしっていた。

 不死の運命(さだめ)にある彼女の配慮。

 それは、自分の物語の毒を何百分の一、何千分の一に薄める心配りだ。

 それは、おそらくは理解者が出てくれる事が果てしなく0に近い事であるとしても記しておくべき事だろう。




✔ 個人的の事情02


 すぐ近くの外野_

 「おひさ!、みりゅちゃん、お元気してはった?」

 「きゃ~~~~~、ゆみこさん、もう着いたの?」

 あたしは、久しぶりの遠来のお客を迎えた。


 自由貿易軍団営業統括本部長、ゆみこ・ラマルシャ=カー。

 20 ウン歳。齢は絶対禁句。

 だから“ 20 ウン歳 ”というのは見た目からそういう事にしておこう、という配慮。

 ティッシュペーパーから惑星規模艦、恒星系未開地開拓権まで売るという全長 31.6 キロにも及ぶ巨大交易船:グランドニルバーナの営業責任者。

 船の航法責任者有志で作るバンド:グランドハーモニーズのボーカル。


 で、あたしらのバンド:“ナチュラルサウンド”のライブゲスト。

 ご縁だねぇ。

 「今度は、ライブの後いつまでいるの?」

 「二ヶ月くらいかな。」

 彼女も北方系ミリギューム人なので飾り毛はふさふさ系。

 でも今日は、パンク系宇宙海賊っぽい真っ赤なビキニだったりする。

 あたしよりずっと《余分な脂肪》少ないんだよなぁ…

 「きゃ~、グランドニルバーナ、今どこにいるの?」

 「うん、公転駐船軌道 269-8544、ってもわかんないか。」

 「すぐ行けるところでしょ?行っていい?」

 「もちろんや、みりゅちゃんなら、お友達ぎょーさん連れてきてもらってもおっけーやで。」

 「ありがと!」

 あたしは、宇宙海賊ビキニの営業本部長と思わずハグしちゃいました。

 「これ着るの大変やったんちゃう?ぱっつんぱっつんやないか?」

 「もっちろんよ、ぇっへん。」

 あたしの水着がいたる所でうけて、ちょっと嬉しい。





✔ あの雪の降り始めた日にすれ違った女性




 語り部ステージ

 「そうして彼氏は、この星の極北の地にある刑務施設の、交通傷害致死事故受刑者矯正教育施設で、償いの日々を送っているのです。」

 「まぁ、」

 「ごく…」

 「男の部屋には、今でも時々、二つになった彼女の上半分が、現れるそうです。」

 「う…」


 「“ねぇ…”ってつぶやきながら…」


 「げ、」

 「いや…」

 「怖…」

 彼女の手首にはめたフィンガーレスグラブの手の甲の一番手首側の部分が光った。

 彼女はそれで何かを感じる。

 ことわりもしないで、勝手に語りを中座し立ち上がった。

 「え、何?」

 「あれ、どうしちゃったの?」

 「変なの」


 あの女性がいた!

 あの雪の降り始めた日にすれ違った女性だ。

 その人物は、華やかな水着に身をつつんだ青少年が気ままにたむろするこのような場所になじむ姿ではなかった。

 頭、胸、腹部、両足全般にわたって装着されたプロテクターに、接近戦用の小型火器、さらには航法支援ツールやサバイバルキットのポケットがいくつも散在する。

 飾りではない証拠にそのポケットはほとんどが何か入っている様を表しており、服のそこかしこは継ぎ当てだらけで、汚れていた。

 その装束は、明らかに陸戦兵器の操縦員である。

 臨戦体制下にある戦地でなければあり得ない装束だ。

 彼女は、ガーデンプールの隅の観葉植物の脇にいる。

 彼女は、胸にかけた“大切な荷物”をおろして、なにやらあやしているようにも見える。

 あのような格好をしている彼女が、必然的に何を望んでいたかは、類推的に理解はされよう。

 彼女自身の存在が実体か、幻かは別にして…


 みりゅうすは、その軍装の女性に気づかなかった。

 いや、気づきたくなかった、というべきだ。


 心の感覚装置の鋭敏さを書き留める事は彼女の得意とする所だった。

 だから“異常が発生している部分がある”という事ぐらい、とっくに気付いてはいた。

 みりゅうすには見えていた。

 しかし、それを認識したくない、という感情が発動していた。

 それは恐れと恐怖…

 そしていくばくかの畏怖が混ざった無意識の動作だった。

 それは、普通の女子大生らしい当たり前の振る舞いだった。

 彼女の過去に普通ならざるものがあったとしてもだ。

 可愛い史学部のクイーンは、きつい水着の胸を両手で抱きかかえるようにして深く深呼吸をした。

 脂汗が滲んでいた…




✔ 天山北路囲炉裏端ガーデンプールを遥かに望む天山南路のショッピングモール展望テラス




 そこにいたのは!?_____

 ろくに顔も洗わず脂ぎった髪の毛で、オタクオーラ全開で今日も元気な盗撮小僧4人グループ!

 2500mm 望遠を特大のドライブユニットランチャーにセットして準備万端だ。

 ロジャオ・エンドラ人が2名、ミリギューム人が1名。

 最後の1名が『ツォーフォア・レミングォ行政体統治聖連邦』からの交換留学生。

 交換留学生以外の3人は、まぁアイドルオタクらしく身なりはそっちのけの肥満体型だ。

 カメラ、アイドルポスターを丸めていれた紙袋、その他いろいろオタクのエネルギー発現に貢献すると思われる各種高性能デバイス。

 大学内でいる時は『我らが姫_みりゅうす』を追う事を悲願としているが、当然彼らの世界観を構成しているのはみりゅうす彼女一人だけではない。

 かの交換留学生は、みりゅうすが見ていた(かもしれないもの)を、カメラのファインダー越しに見ていた。

 その視線は確実にその方向へ固定されていた。

 いくつかの観葉植物の群落を通り過ぎて、彼女は立ち上がり、みりゅうすの方へ歩き始めた。

 彼女の歩いた足跡。

 確かに、足跡はあった。

 それは、質量をもった肉体がそこを移動した証であるはずだった。

 120 人あまりが気ままにたむろしているこの会場の中で、彼女の存在に気づく有機体、全く気づかない有機体と、異様なほどに区分けされた状態が起きていた。




✔ 認識は情報処理の結果にすぎない




 その軍装の彼女。

 身長は、みりゅうすより頭一つ分小柄。

 年齢はミリギューム人の史学部学生よりかなり年配かもしれない。

 彼女は耳の長いプロトアクラ人で、人生経験を積んだ芯の強さが感じられる美人だった。

 みりゅうすは、その軍装の女性に気づいていた。

 いや《“見えた”という事実を隠蔽する事は出来なくなっていた》と言うべきか。認識は情報処理の結果にすぎないからだ。


 彼女は、あの雪の日に見かけた不思議な幻影に間違いなかったはずだ。

 この星の標準時で二ヶ月も前の話。

 今のみりゅうすには、はっきりと見えている。

 あの、女性の陸戦兵器の操縦員は、あの雪の日と同じ格好…

 今度は間違いなく実体?


 何故?

 何なの?

 いったい!__


 ノンアルコールビールをごきゅごきゅやっていたかと思うと、いつのまにかアルコール入りをハシゴしてるたつき。

 「ごめん、」

 「え?」

 「きみを抱きたい」

 酔った勢い?

 「ちょ、ちょっと待って」

 たつきの手。

 右手があたしの肩へ。

 左手は、うまくあたしの右手と重なり合う…


 ・・・・ん…」


 「あ!…」  

 あそこに!

 「…」

 「ん、どうしたの…」

 「いや、なんでもない、かな、あの時の…」

 「あの時の?」

 「ほら、テーブルみないとだめだよ。」

 「おう、そうだった。」


 史学部の姫は、巧妙にはぐらかしたが、素直な彼氏の本音が聞けて嬉しかった。




✔ 下衆野郎の攻撃




 盗撮小僧の指が動く!

 シャッター連写モードが、原始的な火器の連写音のように鳴った。

 彼らは、この瞬間に生きているのだ。

 炸薬で射出する太古の砲弾を彷彿とさせる音がいい。

 それが彼らのイマジネーションをブーストする。

 「やった、キスシーンばっちり!」

 「いいよ、男なんて…」

 「だめだなぁ、お前は浅いよ、男はな、奇麗な花を引き立てる添え物としてだな。」

 「ふ~ん、そうなのか。」


 下衆野郎どもめ。


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