★せっしょん048 見知らぬ美少女

がーるずほりでぃ♡みりゅうす☆せっしょん

あたしが見届けた時空連続体のさざなみ


★せっしょん048 見知らぬ美少女


Girls Holiday ♡ Mie-Lyus ☆ session

The ripples of the space-time continuum that I saw


☆session 048 Strange beautiful girl




✔ 彼女は雪が大好きだった




 「…」

 「おい…だいじょうぶかよ。」

 彼氏は、土木重機のような腕を不器用に彼女に差し出しす。

 「マジで顔色悪いぜ。」

 急に覚つかなげな表情になった少女を気遣う。

 と、そのとき…

 「あ…」

 たつきの大きな鼻の頭に、白いフワフワしたものが舞い降りた。

 彼氏の両目が寄る。

 彼女は、微笑んで、彼氏の変顔を見つめた。

 それはみるみる融けて小さな水滴に。

 「う、冷て、」

 彼氏の顔は、彼女の視線を引き付ける。

 それは、軽やかな喜びの混ざった表情だった。

 自分よりも顔一つ分背の高いナイコンアロカ人の彼氏の表情は、ミリギューム人の彼女に、まんざらでもないものを呼び起こした。

 彼氏の表情が、天然美少女の再起動に貢献した事は確かなようだ。

 「雪だぜ、これ。」

 二人は同時に空を振り仰いだ。

 「やっぱり降ってきた。」

 「天気予報で降るって言ってたっけ?」

 「ううん、雪施見の虫が舞っていたのよ。だから…」

 「あ?ユキセミノムシ…なんだそれぁ?」

 たつきの実家の星は、年間を通して平均気温が高い。

 雪すら降らないから、雪に関する語彙が無いのも自然だ。

 最初の雪が、たつきの頭に落ちたのを合図に、雪はあとからあとから舞い降りてきた。

 ミリギューム人の少女は、雪が降る音をなんとなく聞いたような気がしていた。


 彼女は雪が大好きだった。


 雪の結晶を両手で受け止めてはニコニコしている。   

 金色のナチュラルメッシュが入ったプラチナブロンドの彼女の髪は、舞落ちる雪の結晶にやんわりととけ込んで優しいカーブを描いていた。

 「何それ?」

 寒がり重装備の彼氏は、眼鏡の美少女のバッグに入った何かの食べ物らしい紙袋に眼がいった。

 「庄屋様のランチセットのおかずの焼き鳥セット」

 「たつきくんも食べる?」

 「うん、一本くれ。」

 「はい…」

 彼女は、じっと、串の先を見つめた。

 「また、ふとっちゃうかな…」

 「ダイエットつきあってやるよ。」 

 「うん!」

 彼女は、あやふやな記憶の過去へつながった部分を、確かめるようにつぶやいた。

 彼氏の暖かい台詞。

 教室棟の南側の力場窓が思い出したように開いてゆく。

 窓の機能を為しているシャッター力場は、あるものは全開、あるものは半開きで、中から学生達の顔がのぞいている。

 一番近い所で、学生達の声が聞こえる教室は、工学部の一般教養課程だった。

 「わぁ、雪、雪よぉ」

 という女子学生のいかにも嬉しそうな明るい声に、

 「バカ~、寒いじゃないかぁ、閉めろよ死んじゃうぅぅ…」

 という男子(?)学生の声が重なる。


 耳をすます。


 それは植物系知的有機体のヘメルセシア人の翻訳機を通した怒鳴り声だ。

 我々が認識出来る翻訳機の言葉のすぐ裏側で、


 〈:;;;`_=;~*^^$#'=::;`_;|?###@__:;`_?~2`_==6_"_?~980```3〉


 のような低周波音(彼らの地声)が響いている。


 水棲文明圏知性体のスインナグビー人のキャラキャラとした声が背後に混ざる。


 代謝に光合成が不可欠なヘメルセシア人には、雪が降って喜ばれるのはたまったものではない。

 温帯や寒帯の海の中を知的文明の基盤としてきたスインナグビー人の青年たちには、好奇心を満たす絶好のシーンだ。

 彼らは、広大な銀河の時空を、ここで共有しあっている。

 冬木立に囲まれた出力棟の並びや環境制御棟のモジュール曝露部も、その白い輪郭がぼやけ始めている。

 ゼミ開始を告げるメロディが流れる教室。

 担当教授のため息をピリオドとして、いっきにざわつく教室。

 二人にとっても身近なその音は、二人のあいだに降りしきる雪で、いつもより心なしかくぐもって聞こえていた。




✔ どなた?




 「きゃ~、止めて止めて止めて→→→どしゃっ、ん…」


 な、何?

 いったい!


 雪はブーツが少し埋まるくらいまで積もりはじめてる。

 雪の中に転がっているのは?

 真っ赤な自転車と見知らぬ美少女だった。

 彼女のしっぽが憮然とした表情でふるふる震えている…

 幸い、誰にもぶつからず、雪に滑ってひっくり返っただけらしい。

 自転車少女は、むっくり起き上がった。


 「あの、みりゅうすさん、みりゅうすさんじゃありません?」


 「どなた?」

 「あたし、らいほりおん・しゃかすたす・ミーと申します。すいません、いきなりバランスくずしちゃって、」

 彼女は頼みもしないのに、転倒までの経緯を詳しく語りはじめた。

 基本、おしゃべりのようではある。

 なんでも学部棟のすぐ近くにアパートを借りたのはいいが、寝坊して授業に遅刻しそうなので、ちょうど借りてあったレンタルサイクルを暴走させてかっとんできた、らしい。

 間に合ったわけだ…

 真っ白いロングヘアを、なんともいえない多角形状のおだんごにまとめたミリギューム人女性。

 まる顔で子供のように大きな緑色の瞳。

 三角形の大きな耳。

 真っ黒いボディスーツ。

 ブラウンとダークネイビーブルー、そしてブラック系配色のゴシック系の派手なフリルのついたロングスカート。この雪の中で古典的迫力に溢れたゴージャスなスカートだ。

 スカートのベルトの上からツンとすましたしっぽ。

 細身でしなやかそうな身体の線は、史学部の話題のクイーンより一回り背が低い。

 「私、今度、恒星間文明史学部に転学しました。」

 運動神経0の史学部の姫は、純度 100%の疑問を自転車少女にぶつけた。

 「あなた、雪の中、この急坂を自転車で登ってきたの?」

 「そうです!」

 「きゃはははは…うそぉっ」

 「マジか!?あの急な上り坂を自転車で!?」

 「はい!」

 らいほりおん女史はぶすっとした表情で、わずかに笑みをたたえて応えた。ツンデレか?

 何にせよ、史学部の学部棟前の坂はめちゃくちゃすごいのだ。

 二本足で歩く知的有機体にとっては、等しく鍛練の場である、という伝統がある。

 「すっげぇじゃん」 


 「あなた“ みりゅうすさんに抜いてもらったたつきクン ”じゃありませんか?」


 ぶっ!…史学部のクイーンとその彼氏は絶句しそうに吹き出した。ゴスロリスカートの猫耳女子大生は小首を傾げたまま質問した。

 「何を抜いてもらったんですか?」仏頂面の彼女の質問は素直で真面目だった。


 「きゃはははははは!」


 “みりゅちゃんが大笑いしてる”…大丈夫なのかな…大丈夫なんだろーな…不安げな彼氏の確認。


 「何がおかしいんですか?」

 この情報の出所は瞬時に理解した。

 そして、もしかしたら本当に『何』を抜いたのか、この情報を、この子にリークした本人は、ワザとバラしてないかもしれないと思った。

 何せ、この情報ソース当人は、他人の想像力をかき立てるパフォーマンスを極めるのが信条らしいから。

 「ねぇ、ライホリオンさんにも焼き鳥あげる。」

 「どうも…ぱくっ…“あ!おいし”

 「さ、行きましょ。」

 「お、おぅ」

 史学部のクイーンは、眼鏡を右手で、ちゃっ、と直すと小首をかしげて、軽やかに叫んだ。

 たつき、らいほりおん、小姓の3人に何かを演じるように、

 「さてと、授業開始だよ!」

 みりゅうすは、両手を広げて大袈裟に芝居がかって言うと、足元のバッグを拾い上げ、踊るような足どりで教室棟へ向かって駆け出した。

 彼女は史学が好きなのだ。

 彼女のしっぽも元気に揺れている。

 彼氏は、普通にそんなネコミミ彼女の横顔笑顔が愛おしかった。

 次の授業は、目の前 12 棟の2階、21-04 教室。

 開始前に、早く ID カード通さなくちゃ、と彼女は思っていたのか。

 たつきは、みりゅうすの後ろ姿を眺めていたが、


 “?…さっきまで青い顔をして落ち込んでたのに…”


 まんざらでもないくせに、いつも肝心なところでお預け喰らってる、ガタイのいい彼氏は呆れた。

 少しぽっちゃりした体型のミリギューム人の彼女の後ろ姿を見つめなおして、思い付いたこと一つ、少し大きな声で、

 「新入生歓迎合同コン、オレも顔だしていいだろ?」

 「ひゃはははは、いいわよ~、って言うか、たつきくんも運営スタッフ手伝ってよ。」

 「お、おう!」

 彼女の足どりは軽やかだ。

 “雪を見た途端、元気になって、はしゃいだりして”

 何にしても、元気なさそうにしてた彼女が、気を取り直すのは、嬉しいものだ。

 その理由が何なのかは、後々聞けばいい。

 彼氏は、焼き鳥の最後をすべて頬張って幅広い肩をひょいとすくめた。

 そして、大股に歩き始めた。


 丘陵地帯、雪…







 おしまい and おまけ







 みりゅうすに張り付いていた無人(ステルス)小型探査機。

 それの位置は標的から5mほどの空中。

 それの全長は 4mm くらい。

 マイクロチップ製の電磁場推進モーターで自在に飛び回る。

 4mmの微小機体に仕組まれたマイクロビデオカメラが回っていた。

 雪の結晶と見分けがつかないそれが、音なんか出す訳がない。

 この雪がうまくその存在を隠してくれている。


 感あり…彼女らの内輪な決定事項が筒抜けになってゆく!


 それを仕込んだヤツ。

 自他ともに認める学園のクイーン_みりゅうすの追っかけ:医学部のゲックラス・ギャントムアックス。

 はっきりいって“首謀者”と呼ぶに相応しいネクラ巨漢デブである。

 彼は、本音は純情で純真なのだが、行動は煩わしくしつこい。

 先日、ダイエットジョギング中のみりゅうすにちょっかいを出そうとして、りゃすみん講師に締められたばかりだが、そんな事はもう関係ない。


 闇ストーカーサイトの掲示板 今日のみりゅうす

 メンバーの携帯にみりゅうすの動向を伝える最新メールが自動配信。



 SUBJECT:『《 今日のみりゅうす 》最新情報』


 本文:新着情報:姫(みりゅうす)ご一向、近々天山北路囲炉裏端ガーデンプールにて新入生歓迎合同コン開催、女子は水着着用、男子はどうでもいい、見逃すな!



 「抜いてもらった!…抜いてもらっただと…姫があの男の…」


 デブは“あの男”のアカウントのアクセス記録を確認してみた。

 あの日(トラック事故、ちゃっかりマークしていた)以来、“あの男”は《今日のみりゅうす》への一切のアクセス記録が無い。


 「こいつが姫に抜いてもらった…」


 (何をぬいてもらったか説明しなくていいのか?)


 ゴゴゴゴゴゴゴ_


 ネクラ巨漢デブは、モニターに映っている見逃せない情報に、自らの真っ黒なオーラをたぎらせていた。


 _ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


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