★せっしょん044 雪施見の虫
がーるずほりでぃ♡みりゅうす☆せっしょん
あたしが見届けた時空連続体のさざなみ
★せっしょん044 雪施見の虫
Girls Holiday ♡ Mie-Lyus ☆ session
The ripples of the space-time continuum that I saw
☆session 044 Snow healing insects
✔ 繰り返し…
みりゅうすは、思考支援パッドをもう一度眺めた。
ファイルそのままで消去不可のロックをかける。
眼をつぶる。
反芻すべき、重苦しい時間…
出力棟は何度も繰り返す悪夢にも現れている…
夢の中。
彼女は出力棟の中へ入ってゆく。
見慣れた『整理整頓』と『飲食禁止』の張り紙。
出力ステージ。
セキュリティを自分の学籍コードを入力して解除。
電子認証表示_
『データベース検索スクリプト指揮権を解放します、お名前をどうぞ』
「はい、『 みりゅうす・えれくとら・シー、女性 』と。」
史学部専用の入力マトリクスが発光して浮き上がる。
夢の中で、このプロセスは忠実に再現されていた。
彼女は、何処の文明の何の時代の何が起ったかについて描かれた資料を、慣れた手付きで引き出そうとマトリクスの上で手を舞わせた。
それは、どうした事のない作業のはずだった。
しかしいくらやっても、軽やかな入力音をいくらくり返しても求める項目が現れない。
リストから必要な資料の検索コードを入力し、命令キーを押す。
何度もくり返す。
ところがディスプレイには、
「該当する資料はありません。コードを確認してください」
と出る。
何度繰り返しても同じ。
しかし、どの検索コードを入力しても、いくら命令キーを押しても、表示に浮き出る文字は同じでだった。
作業はいつ終わるともなく続く。
そして挙げ句の果てに、ムカつきを誘発するような脂汗にまみれて最後にこう叫ぶ。
「リストに載っているのに、どうしてデータが無いの!」
端末出力表示。
「本端末はただ今より閉鎖します。ご利用ありがとうございました」
無慈悲なメッセージ…
夢から醒める…
「…」
彼女は、右手でゆっくりと顔を拭ってみた。
ひどい寝汗だ。
美少女は、冷たい水から上がったばかりの様に喘ぐ。
少女は、悪夢の汗で濡れた寝具を取り換えるために、のろのろと起き出す。
茫然とした想い。
史学部クイーン?
溌剌としてた自分はどこ?
こんなあたし、彼氏には見せたくない…
『彼氏って誰♡』
という問いに、天然ぼけをかます余裕は、まだありそうだ。
彼女は、眼鏡をかけて、部屋の暖房をつける。
裸で毛布にくるまったまま…
ぼや〜、と窓の外を眺め続けていた。
今朝もそうしていた…
✔ みりゅちゃん、元気?
「はふ、美味し」
眼鏡の美少女は、ショルダーバッグに無造作に突っ込んだ紙袋から何かの串焼きを出して頬張る。
食べる事はエネルギーを得る事だ。
眼下に広がるキャンパスの冷たい遠景に、串焼きの甘辛いソースの味わい。
彼女は左手に串焼き、携帯を右手にもち、親指でタッピングしながら日記をつける。
『SUBJECT:日記 ~日 曇り、かなり寒い日
ゆらゆらふわふわ 書くことがない。
やることをやってしまっても何故か部屋にいると気分が塞ぐ。
でも、何にもなくても大学の中を歩いているのは楽しい。
夕方、誰かさそってお茶飲みにいこうかしら 』
そして受信フォルダをスナップ。
さっき着信したばかりのメールを眺めた。
表情が、ぱっと明るくなる。
from : たつき to : みりゅちゃん
SUBJECT 名称未設定
みりゅちゃん、元気?
彼女は、憂鬱な時は食べて気持ちを明るく切り替える。
彼女の信念だった。
(だから太るのだが)
でも、今見たメールの効能は串焼きの100倍くらいはあった。
うなだれていた彼女の愛らしい3本のしっぽが元気よく立ち上がっていた。
“灯明が輝いている…どこかの広大で壮麗な寺院”
_彼女の無意識のうちにあるイメージ?
…それは、前よりその大きさを拡大していた。
距離が縮まったのか。
サイズが大きくなったのか。
伺い知ることも出来ない内的宇宙な姿…
✔ 雪施見の虫
強い風が、枯れ葉を巻き上げながら彼女の背を叩く。
羽織った薄手のマフラーが、ふわりと足元に舞い落ちた。
史学部の憂鬱なクイーンは、はっと我に返る。
足元のマフラーを拾い上げようと腰を屈めた時。
彼女は、自分の目の前を小さな羽根をもった白い綿毛のようなものが、木枯らしに翻弄されながら、全く重さを持たぬかのように舞っているのに気づいた。
よく観る_
あちらこちらに同じようなものが無数に舞い飛んでいる。
「雪施見の虫(ユキセミノムシ)!?…」
雪とともに雪施見の虫が舞う。
彼女が、幼い頃聞いた優しい言い伝え。
_心が疲れた人の処に、
_雪施見の虫は集まる、
_雪施見の虫が集まった人に降る雪は冷たくなくて、
_疲れた心を癒してくれる…”
歩いてすぐ50メートルほどの向こう側が駐機場で、学生が使うコミューターが一台止まった。
ライトグレーの見覚えのある機種だ。
見かけは以外とゴツい。
“ ハマー-X11 ”_小型の地表陸戦兵器から、外装火器だけを取り除いた装甲殻のような形。
“この間トラックにぶつけられた傷”は、絆創膏のような応急修理をしたままで、結構みっともない。
側面のハッチが開いて見知った顔の男がおりてきた。
薄着のみりゅうすとは対照的な冬向け重装備である。
それが、彼の体躯を大きく見せていた。
無精髭に角刈り。
今日はひときわ鬚が濃かった。
基本、いい男のはずだったが、学生の常というやつで、あまり身なりはかまわない。
果たして、寝ないで工学素材をいじくり回してたか、レポートの締切に終われてたか、はたまた友人と飲み歩いていたか。
彼は古ノ人(いにしえのびと)系移民を祖にもつナイコンアロカ人。
男性、23 才、身長は 180 cm。
「お、元気してる?」
「たつきくん。」
「メール返事見れてよかった…何やってるの?」
「うん…」
みりゅうすの彼氏、という事でいいらしい。
名前は、たつき・ザイトファングス・ザジ。
所属学部は、工学部 応用空間材質工学科 。
独り暮らしの男の学生の部屋?
男子大学生の部屋なんか、どこでも臭くてちらかっているのが相場と決まっている。
時々は、彼女がかいがいしく掃除をしにいってあげている…という話(これは事実)が尾ひれが好き勝手について飛び回っている。
お互いが、憎からず思ってはいる。
お互いに天然系で相思相愛のらぶらぶカップル?
かと思うとそうではない(ように見える)あたりが、二人揃って学友たちにいいようにおもちゃにされている所以だ。
筆記用具や思考支援パネル(携帯電脳)、それに、これはたつき自慢の重合素材ブレードの自作折りたたみナイフ、万能ツールキット等を放り込んだ袋を無造作に小脇に抱えている。
「冬色のキャンパスにたたずむ美少女なんだな、これが。」
「げっ、び、美少女!?」
彼氏は彼女の“浮いた台詞”にびっくりした。
「ね?」
みりゅうすは努めて明るく応えた。
だめだ…「ね?」がどうしても痛い…
自分の事を『みりゅちゃん』と呼ばせている唯一の男友達のセンサーに黄色信号が灯る。
肌の白い美少女は、髪を両手でかきあげて、いたずらっぽくウインク。
眼鏡を鼻の頭に乗っけてやるのが、マイブームらしい。
無理してるのは見え見えだ。
彼氏のぶっきらぼうな言い方のすぐ裏側には、彼女に対する気づかいがあった。
ここ二三日、彼女がすごく体調不良なのは、彼にとってはいてもたってもいられないくらい不安な事である。
この間、いきなりプライベートな電話がかかってきて、彼氏の秘めやかな楽しみの途中に、彼女と女傑が参加してしまった“できれば誰にも話したくない興奮度マックスなイベント”の事を、もしかしたら目の前の彼女は覚えていないんじゃないか、という、胃がキリキリ痛むような心配があった。
でも、つんけんしてしまうんだな、これが。
「だーれが、よく言うよ。」
「…」
彼女は少しうつむく。
しっぽもうなだれる。
「新入生歓迎合コンって、場所どこでやる事になったの?」
「天山北路囲炉裏端(てんしゃんほくろいろりばた)ガーデンプール。」
「ああ、あそこか。」
「ちょっとした出し物もあるの。」
「へぇ。」
「あそこ、ドームガーデンでしょぉ、だから水着パーティにしちゃおうかと思ってるのよ。」
「わお!」
「こんにちは。たつきさん。」
「おう、小姓、調子はどうだい?」
「それがねぇ、」
自称でも第三者保証済みの美少女は、言いかけて少し淀んだ。
「寒っ、早く室内(なか)に入ろ、あ、それとも授業フケて、オレのハマーでどっか行こうか?」
「やだ、たつきくん、あなたも自分の機体、女の子に自慢しちゃうくち?」
まんまるな美少女の瞳!
「はは…」
「あれ、あの人…」
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