★せっしょん043 時の連環
がーるずほりでぃ♡みりゅうす☆せっしょん
あたしが見届けた時空連続体のさざなみ
★せっしょん043 時の連環
Girls Holiday ♡ Mie-Lyus ☆ session
The ripples of the space-time continuum that I saw
☆session 011 Link of time
✔ 丘陵地帯、冬
低く垂れ込める暗灰色の雲。
白いものが、今にも落ちてきそうだ。
雪雲の一部分が暗い橙色に丸く滲み、かろうじてその居場所が知れる弱々しい冬の太陽。
西の空に大きく傾いている。
誰もが首をちぢこめ、背中を丸める。
それは、何千年何万年もこの星で続いてきた知的有機体の生き様。
絶えた人の気配、素手を空気に晒すだけで痛い。
みりゅうすが立っている。
丘陵の裾野が見渡せるキャンパスの南端。
彼女がよりかかっているフェンスのすぐ前。
急勾配の土手がはじまり、その土手は眼下に見える小じんまりと整備されたグランドで終わる。
冬枯れの木立に囲まれた白亜の建築物の並び。
みりゅうすらがよく利用する史学部の 008 情報出力棟。
情報出力棟は、史学部の管轄にある 001 から 097 までが、八から十棟くらいの数で一まとまりになって丘陵地帯の各所に散在していた。
史学部のクイーンは、仲間達とよく利用する情報出力棟を、ぼんやりと眺めていた。
学生が利用するスクーターやバイク、タイヤのあるものホバータイプのもの、や自転車が数台、彼女の脇を通り過ぎていく。
学内徐行を心がけて安全運転をするもの。
はじめからそんなつもりは無いもの、様々だ。
彼女はたびたびここへ来るようになっていた。
いつの頃か…
ここの眺めは好きだった。
それでも、わざわざ立ち寄ることは稀…
ましてや、永い間立ち止まって物想いに耽ることなど…
ここから出力棟を見る度に、頭の奥にあるしこりが疼く。
それは、不快な記憶に繋がっているような気がしている…
それは何?
この偏頭痛が何に起因するものなのか。
彼女には見当がつかなかった。
気がつくと、いつも、この場所にぼんやりとたたずむ自分を見いだすハメになる。
そして、虚ろな目で出力棟を眺める…
思考支援パッドの“ その ”画面に見入り、重苦しい表情でページをめくる…
【『ヱキ・羅(ら)_スィントゥ・ラドイアンディ 791 故韻文(こいんもん)』における古代文明紛争様態の時系列視点における有機体発展的可能性についての考察】
提出者氏名:みりゅうす・えれくとら・シー
性 別:女性
学部学科 :史学部 恒星間解析文明史学科3節季生
学籍管理コード:ナルフェイタル-4155-ムーオン-β アイ//H034454//GFH-
53//:+
提 出 日:1 月 22 日
担当教員 :イオ・タリムイッ 2154・マイリムインツァイ教授
✔ 清掃班の初老の女性
史学部の研究棟や、関連施設。
それらは、このひときわ小高い丘の上にある。
どんよりとした灰色の雲の下に連なる丘陵地帯の鈍い稜線。
そもそも、彼女の通う大学の史学部総面積自体が、この大陸にそった列島の一番大きな平野全域を占める。
ここは、彼女が彼女自身の物語を紡ぐための場所。
そして、魂の中心軸だ。
丘の南側には丘陵の裾野が広がり、起伏の緩やかなうねりに沿って学生街のアパートが視界が効く限り続く。
最近完成して整備されたアパートの棟は、以前のものと比べて少し形が違っていた。
広大な大学の構内のほとんどは、無機汎用業務作業体の清掃班が定期的に巡回して清掃を行う。
しかし、複雑な構造意匠型の構造物の清掃には、有機体スタッフの清掃班も存在する。
大学本来の敷地規模からして、双方合わせても 10 数万チームの清掃班がある。
また清掃作業そのものも、ここは銀河に名だたる大学なので、一つのトレーニング、アート、あるいは倫理実践課題として見る視点もある。
学生による肉体労働ボランティア清掃班も多い。
実質的に自動化されている部分は、思ったより少ないと言える。
しゅぅぅぅぅぅん…がこん、がこんっ…
ゴミ回収コンテナをいくつも載せた大形清掃カートが動いている。
有人。10個、片側5個のコンテナを装置できる。
右側に3個、左側に1個コンテナ未装着だった。
コンテナは生ゴミや埃で汚れ、煤けた青い色をしている。
運転台に座るのは清掃班の初老の女性だった。
この古の星の出身のようである。
でっぷりと太った身体。
清掃班のうす桃色のジャケットで包み、頭には、防寒用に私物らしいスカーフを巻いている。
どんよりと曇った空を吹き抜けていく風は、スカーフの端を物憂気になびかせる。
埃っぽくうす汚れた清掃カートは、構内を歩く二足歩行型の有機体の歩行速度よりも僅かに速く動いていた。
彼女は、カートの操縦巴を右手で軽く握り、ぼろぼろのシートに座って進行方向を制御していた。
彼女の手には、薄汚れた軍手がはめられている。
その手。
それは、夏も冬も変わらず地味な仕事を黙々とこなす手だった。
それは、今から5年先、10年先、あるいはもっと先に、ふと手を見つめて今を思い出す物語の始めだ。
それは、この初老の女性の所有するかけがえのない時の連環だ
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