★せっしょん041 いったい…どうして?…

がーるずほりでぃ♡みりゅうす☆せっしょん

あたしが見届けた時空連続体のさざなみ



★せっしょん041 いったい…どうして?…



Girls Holiday ♡ Mie-Lyus ☆ session

The ripples of the space-time continuum that I saw


☆session 041 What the hell ... why? ...




✔ そんな事いいのよ、済んだ事なんだし…




 彼女は壁に張られたポスターをぼんやりと眺めていた。


●『工学部生協部員募集』、仕分け軽作業、配送宅配業務有り、サービスドロイド管制制御資格一級保有者優遇。ミリギューム人、プロトアクラ人、古ノ人(いにしえのびと)優遇…


 壁、史学部の 008 情報出力棟の南側通路の一角。

 他にもいろいろなポスターがある。

 紙のポスターやら動画表示素子組織体のものやら様々だ。


●『工学部教授会次期セミナー』…

●『史学部共済費値上げ反対!』

●『医学部カイラツス・サヅアイト教授の参考書データ管理キー入荷』…


 彼女は所在なげにそれらに視線を流してから、グランドの方を向いた。


 名前は、みりゅうす・えれくとら・シー。

 史学部で恒星間文明史学科3節季生の女の子。


 水卜(みうら)ちゃんとか、剛力ア◎メとか、AKB48 のあっちゃんとか、マクロ○F のシェ○ル様に似てるとかいう噂もよく聞くが、そのような名前の女子学生がこの大学にいるかどうかはよくわからない。

 彼女は、つぶらな瞳にふさふさのしっぽ、それも3本もある!

 一応『巨乳』の称号は頂戴している。

 それなのに、今日の彼女の瞳は力が無かった。

 いつもは元気なしっぽが3本とも垂れ下がったままだ。

 アクセントを効かせたダークブラウンの前髪。

 大きな耳を飾るサイドヘア。

 大きな猫耳の中を保護するわた毛から変化した髪の毛への流れが続く。

 指向性(?)アンテナカール(超巨大あほ毛)を一本突き出した個性的な髪型に似合わず控えめな言動で、運動神経ゼロの運動音痴が何故か持ち前の愛嬌で目立ってしまう。

 学園祭の時に決まって学部のクイーンに押される。

 今年で3回めの実績がそれを物語っていた。

 しかし、フェンスに寄りかかって独りでたたずんでいる後ろ姿は、木枯らしに吹き飛ばされそうに頼りなげだった。

 3年連続クイーンになった明るく華やかな面影はどこにも無い。

 いったいどうした?

 肩に羽織ったノースリーブのダウンジャケットは、以外と薄地で、はたから観ると寒そうだったが、彼女は気にならなかった。

 肩に羽織っているマフラーも薄手のニットで、防寒というよりはおしゃれのワンポイントだ。

 彼女は北方系のミリギューム人なので、肩まわりの飾り毛が濃い。

 肘まで覆うちょっと長めの手の甲にワンポイントの入ったフィンガーレスグラブと肩の間は、白からライトブラウンへグラデーションで染め上げた長い飾り毛が生えているので、お肌がむき出しでも全く寒くない。

 愛用のバッグは、フェンスのもとに置かれていた。

 バンドでくくった思考支援パッドや本が無造作に突っ込んであり、何かその他のものも顔を見せている。

 白い肌を寒気にさらしている首まわり。 

 吐く息が白くなるほどの外気。

 風が強いので白い息はとどまらない。

 彼女のすぐ右脇に控えている随伴機が、力なく口を開く。


 「ボクはなさけない…」幾分憔悴した感じの声。


 それに口は無い。

 それの頭に相当する女性の握りこぶしほどの有機質な発光面に、特有なサインが浮かび上がり、音声コミュにケーターできわめてなめらかな『発声』をする。

 彼女は、それの頭を、ため息をつきながら優しく撫でている。

 それ_ “学生に無料で貸与されるサービスドロイド” は、有機知性体尊厳基準律に準拠する人工実存を装備しているから、貸与された学生にとっては、友人に等しい存在ともいえる。

 その彼が調子が悪いと嘆いているのだ。

 愛称は小姓(こしょう)


 「はぁ…姐(あね)さんのお手伝いさせて頂いた恒星間文明史基礎自立演習レポートの作業ログ、すべて抜け落ちてるなんて、」

 「はぁ…、あたしもわかんない…」

 「はぁ…」

 少女とつきあいの長い随伴機は、そろってため息をついた。

 「定期メンテで、あんたの記憶素子いじらせてないもんねぇ…」

 「なんとお詫びしたらよいやら…」

 「何いってるのよ、そんな事いいのよ、済んだ事なんだし…でもねぇ…」





✔ 予約は、明日でもかまわないんだ…





 10分ほど前。

 みりゅうすはつき合いの長い学友から、いきなり声をかけられた。

 「お、みりゅちゃん、」

 「あら、なのくちゃん、」

 「最近はダイエットメニュー、どうなん?」

 学友は背が高い。

 「う、うん…」

 みりゅうすの頭が、学友の胸くらい。

 ロジャオ・エンドラ人の若い女性らしく、大きな尻尾を左足にからめて、背の低いみりゅうすにあわせて少し腰をかがめた。

 彼女は、なのく・しむくれりあ・れんだーさいあん。


 教育学部初等教職課程在籍。

 志望は小学校の先生。

 教育学部のミス・ロジャオ・エンドラ人コンテストで毎回優勝をさらっている美人先生の卵でもある。

 で、彼女の専攻は小学校の先生なので、いつも子供たちといっしょ。

 今日は 3人いる。

 「ねぇ、なのくせんせ~」

 「あらあらちょっと待って…」

 足下に人懐っこくまとわりつく、ロジャオ・エンドラ人の子供二人、男の子と女の子。

 彼女は、牙の並んだ口を優しく開いて頼む。

 彼女の声は、のほほんな感じのかなり低めのアルトである。

 「『春の新入生歓迎合コン』予約頼むね~~~」


 「うん、わかった。」 


 「せんせ~ったらさぁ」

 教育学部のロジャオ・エンドラ人はミリギューム人の子供を抱っこひもで抱いている。

 「あー、はいはい…、この子ねぇ、特殊な自閉症なんだけど、今日はすごく調子がいいのよね。」

 ドラゴンみたいな美人先生のしっぽが揺れている。

 「あら、こんにちは、」

 みりゅうすは、声をかけながら、優しく抱かれた子供のやせ細った頬にさわった。

 「あ、ああ、こ、こんにちわ」

 その子は笑顔で応える。

 少しどもっていたが嬉しそうな声だ。

 「あら、自然な反応…反響言語じゃないわねぇ、どうしたのかしら。」

 「ふ~ん、元気そうじゃない、じゃね…」


 『反響言語』自閉症の認知障害の一つである。


 みりゅうすは、来月にいくつかの他のサークル、クラブと合同でやる新入生歓迎会の企画幹事をまかされている。

 彼女は、大きなしっぽのロジャオ・エンドラ人の女友達に明るく返事はした。

 返事はしたが、そのまま何もしないで、ここまで歩いてきてしまった。

 どのみち、店へ連絡をいれるのは明日でもかまわない。

 毎年やってる店に連絡を入れればいいだけの話だ。

 今回のイベントの仕様書も作ってあるから転送するだけだし。

 予約は、明日でもかまわないんだ…


 今、自分が最高に気分が塞いでいる事は、彼女には話さなかった。


 話せる時に話せばいいや、という楽天主義。

 それが彼女を学祭クイーンにさせていたわけでもある訳だが…


 いつの頃からか、彼女は、たびたびここへ来るようになっていた。


 そう…本人もなんとなくわかっている。

 それは、専攻で履修しているレポートを出した頃…

 自分の思考支援パッドをタップして、起動サインを入力した。



 ◯ ◯ ◯ ◯ 『みりゅうす』《ミリギューミアトレミア清典礼文字、署名する時の書体》


 Welcome to Faculty of Interstellar Civilization に相当する文字表示

      《 I.O.A.E.C.E 》


 レポート表題表示



【『ヱキ・羅(ら)_スィントゥ・ラドイアンディ 791 故韻文(こいんもん)』における古代文明紛争様態の時系列視点における有機体発展的可能性についての考察】


 提出者氏名:みりゅうす・えれくとら・シー

 性   別:女性

 学部学科 :史学部 恒星間解析文明史学科3節季生

 学籍管理コード:ナルフェイタル-4155-ムーオン-β アイ//H034454//GFH-53//:+

 提 出 日:1 月 22 日

 担当教員 :イオ・タリムイッ 2154・マイリムインツァイ教授



 しかし、彼女は、このレポートを書き上げた記憶がまるで無いのだ。


 『表題』も、

 自分の名前も、

 担当教授の名前も間違ってはいない。

 自分が、これに関わった、という実感がまるで無い。


 いったい…どうして?…




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