★せっしょん032 果たして、これからは、どこで休めばよいのだろうか…

がーるずほりでぃ♡みりゅうす☆せっしょん

あたしが見届けた時空連続体のさざなみ



★せっしょん032 果たして、これからは、どこで休めばよいのだろうか…


『ヱキ・羅(ら)_スィントゥ・ラドイアンディ 791 故韻文(こいんもん)』_過去院探査始祖記録量子原本による再構成



Girls Holiday ♡ Mie-Lyus ☆ session

The ripples of the space-time continuum that I saw


☆session032 Where should I rest from now on ...


“Ö-que-ja-SVent-to- Ladoiandti791 meter Ancient document”

Reconstruction by quantum original record of the founder of The TEMPLE of PAST exploration





✔ この一発は特別製だ





 私は“菲簀列蘇”の前脚を後退させて機首を目指す方向に向ける。

 それは、目と鼻の先の積層型ドーム。

 大学法院の教授会館と、中枢演算記憶巣。

 腐臭を放つ知性を、支配のためのシステムと化した権力機構の中へ送り続けた保身の具現者。


 斬禍主操は主砲の発射幹を起こして両手で握り締めた。

 射程は、徒歩で一分以内でいける目の前だ。

 電脳系の射撃算定データは、照準表示の中に、完璧すぎる程の射撃命中 精度を保証していた。

 “菲簀列蘇”の4本の走行脚が、かすかに“踏ん張り”を調整するたびに、照準表示の中の距離数値が、小数点以下の単位でかすかに増減した。

 私の“菲簀列蘇(フェイスレス=音写)”は、高価な縮退フィールド弾頭つき徹甲操縦弾を搭載していた。

 惑星の重力圏内で、縮退フィールド弾頭の使用は、機動兵器や有機体歩兵の戦力指向性を阻害するためにある。

 私は、射撃管制系をすべて手動に切り替えた。

 主砲薬室の波動係数を最小に落とす。

 自動補正システムもすべて解除した。


 めったに使用しない手動用の装弾スイッチを引き、一発だけ装弾する。

 この一発は特別製だ。


 縮退フィールドの開放座標が惑星重力場に沿って限定的に開くように設定してあり、破壊効果は標的指定円周座標圏内に限定される。

 破壊衝撃波の全ての余剰波は大気圏外へ向けて垂直に噴き上がる。

 これは、私達の魂の根源が許し難いと認識したものへの理性だ。

 照準はあまりにも簡単だった。

 私は、前席に声をかけた。

 「斬禍主操?」

 「ん、」

 意味の無いただの確認事項だった。

 私は、“菲簀列蘇”の4本の走行脚を曲げた。

 走行脚の関節に装着した力場伝導装甲盾をかかげる。

 装甲盾の反射回路が起動して、防禦体制が完了した。





✔ この道を通らなければ、私達に生きることは許されない





 600 億もの同胞の虐殺_その事実を社会的正義として宣揚してきた連中…

 彼らが目の前にいる_分かりやすいではないか。


 この道を通らなければ…

 ここを抜けなければ私達に生きることは許されない。

 この厳粛な真実を理解できないおびただしい数の無能が存在する。

 それらが銀河の至る所に,混乱と破壊をまき散らし続けている。

 銀河の神々は、寛容と調和を願う心の遥か向こうに存在している。

 おびただしい数の無能は、この確固たる道程を厭うのだ。

 この心の有り様を厭い、そして神々のフリをして神々に対して永久に叛き続ける。


 私は、機体を衝撃に備えさせた。

 引き金を引く。



 「大連邦の汚辱…………………………………………………………消えろ!」



 瞬きをする瞬間。

 弾頭は、目の前の建造物に向かって吸い込まれていった。


 衝撃波___________


 虐殺を指示してきた汚辱は量子の海に還元された。

 破壊余剰波は全て天空へ逃したが、盾に受ける衝撃波だけで“菲簀列蘇”が沈み込むほどだ。


 外視鏡の可視光学系が回復した。 

 “菲簀列蘇”は,大きなクレーターの縁にへばりついて

いるのがわかった。

 頭を振る。

 ギンギンとひどい耳鳴りがした。

 私たちの長い耳の奥に、何か石でも詰め込まれたような頭痛がする。

 意識が体に重なっていないような気がする。



 どぅああああん NNNNNNNNNNNNNN…激震?????…



 狭いコクピットの中が、空気ごと押し潰されそうだった。


 警戒表示が真っ赤。大型の戦闘モジュールの接近を告げていた。

 私の機体の目の前に、爆発するようにして現れるそれ。

 時空座標転位でもやってのけたのか…

 それは、理解不能な前衛芸術家のデッサンのような形をしていた。

 赤い波打つストライプの入った醜悪なデザイン…

 厨子のような本体の頂部に、醜悪な顔のようなものがあり、同軸で巨大な角とも根ともつかない張り出した部分と、天秤のようなものが相互にゆっくりと逆回転している。

 それの下部からは液体が激しく流れ出して、水蒸気をまといながら進んで来る。


 “菲簀列蘇”の戦闘を思考する戦術管制中心核は、


《《自治評議会捕察官》接近_彼らのゲモリルオバ広域支援殲滅機に、我々の勝ち目は無い_》


 と、私たちに後退を進言していた。

 出来る限りの誠意を持って。

 「…」

 「斬禍主操!」

 私は、機体をハンターとの衝突コースに正対させた。

 疑いのかけらもはさまず、私達の歩みに奉仕してきてくれた機体のすべてのシステムに私は感謝した。

 火器管制系のスイッチ群をすべて指を走らせて切り、手動管制に切り替えた。すべてのランチャーを展開し主砲の発射をオートにする。

 勘が武器だった。

 主砲残弾4発。

 全戦闘力指数37パーセント。


 私は、大連邦の役人に広場で殺された甥のことを思い出していた。

 理由は?…

 そんなことはもう忘れた…

 きっと気に入らないから、とでもいうのだろう。

 甥は4台の兵員輸送車に両手両足を引き裂かれて八つ裂きにされた。

 バラバラになった甥の身体を集める事は出来なかった。

 私が、嶺牟倫逢を連れて脱出に成功したのはその 10 日後だった。

 ただ、愛し子のために祈った。






✔ …






 私は、冷凍庫の中に体を横たえているような気がしていた。

 私は、しばらく体を動かせないでいた。

キャノピーが半開きになっていた。

 機体の出力はほとんど零に落ちていた。

 外から流れてくる空気は、意外とさわやかだった。

 「はぅ…」

 斬禍主操のいるはずの前席は、内照が消えて真っ暗だった。

 私は目だけを動かしてのろのろと確認していった。

ふと?

 いきなり体中の血液がいっぺんに氷水にでもなったようなイメージが沸き上がった。 


 私の嶺牟倫逢を殺し、見下ろす男。


 “い、嫌っ!いゃぁっ!レムちゃん!…う…」

 叫んだ。

 どこまでが自分の声だかわからなかった。

 おぞましかった…

 もし目の前にそいつがいるのだったら、

 たとえその男が人格者で社会に名の通った有機体であっても、私は私の人生の全生涯をかけて呪ってやる。





✔ わずかばかりの愉しみを…





 私は穴があいたキャノピーを押しあげて外へ出た。

 両腕の感覚が麻痺していた。

 血で髪が固まっていた。

 私は、ヘッドギアをむしり取るようにして捨てた。

 何も感じない左腕で、おくるみの嶺牟倫逢をさわってみた。

 「…許してね、うるさくしちゃって…」

 「んむぅ、だぁ、」

 ごめんね、替えのおむつがもう無いの…

 私の機体は、左舷の走行脚と兵装ステーション、それに私の些細な生活用品全てを入れたコンテナがすべてむしり取られていた。


 機体の周囲に、隙間なく学生達がつめていた。

 私は記録デバイスに指を走らせた。

 音声入力




 ゲモリルオバ広域支援殲滅機は目の間に浮かんでいた。




 『_戦史記録  華裳蘭 茗菲(かもら めいふぇい) 記 第6892日目_


 わが菲簀列蘇275号機は、戦闘能力をほぼ失ったようだ。

 私は生存を期すための行動をとらねばならない。

 立ちはだかるのは絶望のみだった。


 しかし、生者が死者を羨むこの知的有機体虐殺浄化戦略において、今この時に、生あることをまずは感謝しよう。

 我が社会の平安と繁栄を祈った主祭殿寺院の例大祭祈願が昨日の事のように思える。 … 』


 私達親子は、晒しものだった。

 私は機体から降りた。

 おそらく、この機体は、二度と動くことはないのだ。

 機体は、かすかに煙をあげていた。

 これは別れだった…

 帰還しなくては…

 住む家を失い、雨露をしのげる場所を失ってから、この子にとって暖かい場所があれば、それはどこでもよかった。


 私は、この機体を屋根がわりにしてきたのだ。

 テントと寝袋を広げて生きてきたのだ。

 雨風がしのげて、なんとか凍えない程度の暮らしさえできれば…実際はそれすらままならなかったが…

 愛し子の存在は、常に私に強さを与えてくれていた。

 それはまぎれもなく確かなことだった。


 私達親子のくつろぎ。

 私のためのささやかな食事。

 嶺牟倫逢の粥を作る簡単な炊事具。

 それらは、収納した機体のトランクごと吹っ飛んでしまっていた…

 一息ついて記録を続けた。




 『 “ 私たちは、銀河の在りてあるものを、とこしえに語り伝える心の真言となるのです ”


 大祭導師の言葉に涙した想い。

 それはやがては量子の残響としてあまねく臨む時空へ伝わるだろう。 

 太古の昔より語り伝えられる次元多様体への干渉を可能とする祈願文へ参座した瞬間(とき)。

 それを私は忘れる事はない。

 嶺牟倫逢が、いつか文字を読めるようになること。

 そして、私の思いを語り伝えてくれる事を希望することが…私の至上の喜びだ… 』







 …果たして、これからは、どこで休めばよいのだろうか…

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