★せっしょん031 まだ歩けない乳飲み子を抱えて戦車に乗る女

がーるずほりでぃ♡みりゅうす☆せっしょん

あたしが見届けた時空連続体のさざなみ


★せっしょん031 まだ歩けない乳飲み子を抱えて戦車に乗る女


『ヱキ・羅(ら)_スィントゥ・ラドイアンディ 791 故韻文(こいんもん)』_過去院探査始祖記録量子原本による再構成



Girls Holiday ♡ Mie-Lyus ☆ session

The ripples of the space-time continuum that I saw


☆session031 A woman riding a tank with a suckling baby who can't walk yet


“Ö-que-ja-SVent-to- Ladoiandti791 meter Ancient document”

Reconstruction by quantum original record of the founder of The TEMPLE of PAST exploration





✔ 丘陵地帯




 現在、高度 13000


 「開放カウント_侃(かん:3)架屡(かる:2)稀威(きー:1)!」


 瞬間的にコクピット前方の強攻突入体耐熱外被装甲が吹っ飛び、シートの中に眩しい陽光が叩きつけた。

 外気は、真っ青な青空。

 高度7800。


 軌道降下戦術支援制御体“菲簀列蘇(ふぇいすれす=音写)”は、四本の走行脚を伸ばして自由落下に入った。

 古い戦術装備カテゴリーでは有肢戦闘機動体(俗称、戦車)。


 雲が流れる。

 私は、スクリーンの中で下から上へ流れる高度表示ラインに目をこらした。

 操縦把の手応えを確認する。

 一度、二度…

 操縦把の質感を確かめるように握り返してみた。


 前席が私に言い切った。

 「茗(めい)、奇襲ポイントは、ヱキーラ_舜殷盗(しゅんいんとう)・禮鼎闇鼎(れいていあんてい)連邦大学法院、手筈どおり、我らが汎恒星間共和連合体清音評議会の名において、大連邦に粛清を!」

 後席の私が返す。

 「斬禍主操(ざんかしゅそう)、生存闘争勝利!」

 


 斬禍徹明(Zhǎn huò chèmíng)前席主操縦士


 菲簀列蘇:武装(過積載)

 _主砲✕2(亜光速弾射出機)

  高速縮退フィールド弾✕1特殊弾(通常4)

  過重慣性操縦弾✕10(通常4)

  多重浸徹針状徹甲弾✕60(通常40)

  オプションポッド✕4(声明ペナント弾、近接有機体麻痺弾他)



 「逆噴射、続いて声明ペナント刻印貫通弾体射出準備!」

 私は“菲簀列蘇”の腹にくくりつけられた応急 2 段重ね減速モジュールに点火するタイミングをとった。

 そして『声明ペナント』


 私たちには、もはや政治的に救援を求める道も、

 いかなる民族的避難を模索する術も、

 種同一性維持のための展望を画策する見通しも、

 すべて奪われていた。

 そこにあるのは、生存を単純に否定する真っ黒な絶望だけ。


 愚か者の観念主義者達。この銀河では、彼らが、何万光年にも渡ってそのブザマな生き様を晒している。


 『声明ペナント』は決して消されぬ証拠を残すための私たちの意思だ。


 それは、残数も限られた自律微械形成組織体の生成プラント。

 それが実行する命令は、私たちのメッセージを、着弾地等の岩盤に、放射性同位元素のマーカーで焼き込むことだ。



 声明ペナント原文


アイガス・プロトアクランギサーウ汎恒星間共和連合体_皮爾法里奧傳送美利亞(ピルファリオ-スフェルメリア)清音評議会の名において


大連邦セイジ・クルイ主義信望者達が宣揚し実行する有機体特定種族惑星殲滅政策の、

暴虐と非道、無知、非礼、不条理、傲岸、

そして普遍なる知的有機体の尊厳を、

偽善と無知により犯し続ける有史文明以来最悪の愚挙を、

永遠なる銀河の創造神に誓って糾(ただ)すものである。



 破壊されたわが居住恒星系


《新奧薩里亞(ナビオサリア)》絶対銀経 2365844.239842 絶対銀緯 572365844.239843

_被害者 9984564500名


《馬西利亞梅爾·莫蘭(マシリア-メルモラン)》絶対銀経 2365844.239850 絶対銀緯572365844.239849

_虐殺被害者 10236789001名


《邁耶錫安(メイエシオン)》絶対銀経 2365844.239840 絶対銀緯 572365844.239844

_虐殺被害者 10045890320名


《小馬假塞克利亞(コルト-ケセケリア)》絶対銀経 2365844.239839 絶対銀緯572365844.239841

_虐殺被害者 8975437600名


《內西奧莫李孫(ネスイオモ-イサン)》絶対銀経 2365844.239839 絶対銀緯572365844.239840

_虐殺被害者 11878234691名


《阿爾瑪標誌(アルマ-サイン)》絶対銀経 2365844.239838 絶対銀緯 572365844.239839

_虐殺被害者 10656007800名


  刻印者 華裳蘭 茗菲(かもら めいふぇい)』




✔ ここで生きる




 頑丈にパッドで保護し、柔らかい桃色のおくるみにつつまれて、私の左胸に眠る嶺牟倫逢(れむりあ)。

 “だいじょうぶ、だいじょうぶだよ、”

 愛し子は目がさめた。

 「ん、まぁ、」

 “こんなこと、きっと今日が最後だからね…”

 「だ、ぶぅ…」

 私は、諭し聞かせるようにして、口をよせ、耳をよせた。 

 今朝、愛し子の額に描きいれた健康祈願の願い文字を優しく撫でた。


 静かに暮らしたいねぇ…


 着地予定地点にねらいをつける。

 閃きにまかせて減速モジュール点火ボタンを叩く。


 kachi…


 大推力の対消滅ロケットの火花が機体の真下に開いた。

 見えない手に押し戻されるように、降下速度が落ちる。

 武骨な昆虫のような重合金属塊のまわりをなめあげていく空気が、熱く淀んだ。

 成功のようだ。

 あと数秒燃焼を継続。


 私の航法表示には、着地予測地点の舗道に、買い物に出かける子供連れの主婦や老人達の姿が目立つ。


 何と呼ぶ?

 つまらぬ打算。

 つまらぬ見栄。


 他人の死ぬ程の我慢の継続。

 その上に、自分のめでたさしか見えない愚かさを撒き散らしたまま、理性と良識を求めるのは、銀河にあまねく生きる知的有機体のもっとも程度の低い処世術だ。

 それらがどれだけ精神の幸福と繁栄に奉仕するか。

 食うに困らず考えもなしに、おめでたい愚痴を垂れ流して周りに振り回されているうちは、生きる事の苦労など微塵もありはしない。

 隠されたままの1000の苦しみ、10000の苦しみが、あなたのささやかな1つの苦しみに及ばない、と言い募るのが、言葉を手繰る知的有機体の愚かさの本質だ。覚えておくといい。

 貴方は納得のいくまで、その下らない茶番の行方を計ることが出来る。 

 それは必要なことだ。

 その事が少しでも叶えられる事を祈る。

 あなたの大切な人の苦しみを少しでも拾う事が出来るように。


 そうしてみればいい。

 我々が生きてゆくために、何が必要で何が不必要なことであるか。


 私の姿?

 あたかも天使を抱いた悪魔?

 私は、まだ歩けない乳飲み子を抱えて戦車に乗る女だ。

 それがいかに気狂いじみているか?


 私は、虐殺で首をもがれて血を流して死んでいる我が子を抱き抱えて心が壊れた同朋を何人見たか知れない。

 首の無くなった我が子を抱いて泣き崩れる親と、まだ生きている愛し子と一緒に戦いに赴く親と、果たしてどちらが気が狂っているか、そんなくだらない詮索に時間を費やしてお茶を飲むのも一興だろう。

 私は、あなたが言い訳しか用意出来ないことも知っている。

 せいぜい足掻けばいい…


 この愛し子のために心めぐらす余裕は、もう今の私にはない…

 疲れた体を休める場所?

 もはやここしか無いのだ、誰が何と言おうと…







✔ 笑える…




 一段目を切り離す。

 燃え尽きた一目がどこへ落ちたかって?

 そんなことは関係ない。

 残り帰還用二段目は機体の腹に抱えたまま作戦に以降する。

 回収機との会合確率は徐々に絶望的水準へ移行しつつあった。

 ペイロードを越える弾薬の過荷重のため、高度1000で減速傘開。

 私の機体は、舗道に面した広葉樹の林の中へ、木々をへし折りながら着地した。

 機体損傷無し。

 機体前方、射角方向地殻情報走査表示、

 「いけます、斬禍主操」

 「よし」

 広葉樹林帯丘陵地帯、表出火成岩露頭へ照準。

 「ペナント刻印貫通弾体射出!」



 どぅぅん……………………………………………………



 1発、機体後部のランチャーから放物線を描いた。

 あと、数万年か先。

 あるいは数十万年か先。

 誰かが、きっと我らの言葉を読み取ってくれるだろう。


 舗道を歩いていた歩行者達が、いきなり天から降ってきた奇妙な機械に群がりはじめた。

 大連邦核星系人、我々のように耳は長くない。

 斬禍主操が、すぐさまヘッドギアの自動翻訳セットを入れた。

 コクピット前席脇のスピーカーが歩行者の方へ向く。


 「ストニライダ ジャン、タイ!(危険だから早く非難してください!)」


 一行に去る気配は無い。

 斬禍主操が、キャノピーを押し上げて、身を乗り出してどなった。


 翻訳はかけていない。「どけよっ、てめーらっ」 


 私は、操縦把を前に打ち込んで、4本の走行脚の運動能力を最高出力にまで活性化させた。

 機体の前部が、歩行者をそれ、身を乗り出すようにして動き始めた。

 視界の端によぎる男の顔が笑っていた。


 私達が話すプロトアクランギサーウ・スヘェルメリア語は、彼らから見れば、奇異な発音だ。


 笑える_それだけのことだった____


 「茗(めい)、敷地内の見取り図」

 「了!」

 表示面に、私たちの“菲簀列蘇”の位置シュミレーション表示を加えた見取り図を出す。画面がわずかにちらついた。

 操縦把を打ち込んで、機体を半ホバリング状態のまま早駆けさせる。


 斬禍主操の歳?

 彼は私たちギサーウ人の男性の中では耳が長い方だった。

 ヘッドギアの間から見える刈り上げた髪が好ましかった。

 少し白髪が混じってる。

 静かに暮らせる星。

 そんなところはあるのだろうか。

 もしあれば、どこへいってもいいと思った。

 その時に、いっしょに暮らすことが、もしできたら…


 彼みたいな男だったら…

 きっといいこともあるだろう…



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