召喚された世界

「召喚に応じてくれたこと、誠に感謝するぞ、勇者方。私はここ、【人間国・グローシア】の王、メイルスツ=ワルツだ」


 姫に案内された【王の間】の玉座に座っていた少年が入ってきた私達に対して玉座から降りもせずに偉そうに話しかけてくる。

 少年も姫さんと同じ金髪碧眼でヨーロッパ系だ。見たところは20代前半くらいに見え、王というよりは王子と言った方がしっくり来る。


「好きで応じた訳じゃないわよ!ここはどこで、あんたは何なの!?」


 王の言葉に感情のままに怒りをぶつけたのは一緒に召喚された女子生徒だった。確か、名前は............宇佐美鈴だったかしら?長く、綺麗な黒髪をポニーテールにしている。かなり勝ち気な性格で、気に入らない教師を全員辞めさせたこともあるとか。裏では非公式のファンクラブもあるらしい。


「貴様......っ!王に対し、何という口のきき用だ!」


 王の側に控えていた、鎧の男(恐らく騎士さん)が鈴の言葉に激昂する。剣の柄に手をかけている所からかなりの怒りを感じる。


「待て、そう激昂するな。この世界に来たばかりで混乱しておるのだから仕方あるまいて」


 片手を挙げ、騎士を制する。一々上から目線なのに怒りを覚えるが、今は耐えるしかないか......。そんな事を思っていたら、こちらへ顔を向けてきた。


「済まぬな。突然の事ゆえに混乱しておるじゃろう。まず、この世界についてから説明いたそう」


 この世界の名前は【クレアソン】。やはり、私達の住んでいた地球ではないらしい。

 クレアソンには人間族、獣人族、魔人族の三種族が住んでいたという。この三種族は太古には大陸の境界線を元にそれぞれ国を造り、治めていたという。


「だが、この頃、魔人族が急に勢力を伸ばしてきてな......」


 魔人族は『魔人』あるいは『悪魔』と総称される種族の事だ。彼ら魔人族が治めてる国、【魔国・フォール】は大陸の遥か北に位置していて他種族とは全く関わりが無かったという。

 しかし、数年前に急に勢力を拡大し、グローシア、そして獣人族(狼人間などの獣の特性をもつ種族)の治める【獣国・アスラス】へ侵攻し始めたという。

 そして、数ヵ月前に遂に【獣国・アスラス】が陥落。獣人は滅ぼされたという。


「『魔人族』は高い身体能力に加え、強大な魔力を有しており、優れた力を持つ自分達こそがこの世界を統べるに相応しいと考えているらしい」


 獣人族が滅ぼされた今、次は人間族だ。このままでは人間族も滅ぼされる事になるのを懸念した国王は、何とかして魔神族を倒せないかと考えた結果、ある魔法を使用することを考えた。


 それが召喚魔法である。この魔法を行うには何十人もの魔力を必要とし、失敗すればその全員に何らかの代償がある。


二度試みて失敗し、失敗の代償として関わった全員が命を落とした。

そして、三度目にしてようやく成功し、今に至るという訳だ。


「なるほどね......要するにその敵である『魔人族』を倒してくれってこと?」

「うむ。勝手な願いであることは重々承知しておるのだが、どうしてもこの方法以外に手がないのだ......力を貸してくれないか?」


 うわー............よくあるテンプレ来たーーー!となると、一応確認しておくべきか。まさかとは思うが最悪の疑念を聞いてみる。


「私達が住んでいた元の世界へ戻る方法はあるの?」

「すまんが、ない。我等が知っているのは『召喚する』方法だけなのだ」


 やっぱりかぁぁぁぁぁぁ!絶望にうちひしがれていると背後から声が上がった。


「分かりました。俺はやります!!」


 何をほざいてやがるかこの男子生徒は!そう思ったところで思い出す。この男子生徒、山口翔は顔はイケメンなのだが、自信過剰で「自分が正義だ!」みたいな事を平気で言い、学校では残念なイケメンと称されてる奴だったのだ。


 ああ、神様。何でこんなのと異世界に召喚したの......?私は何か恨まれるような事しましたっけ......?

 頭を抱えた私を余所に、話は進んでいく。


「おお!やってくれるか!」

「はい!例え帰れなくても、困ってる人は捨て置けません!他の三人はどうする?」

「......やるしかなさそうね」


 鈴はかなり嫌そうな表情を浮かべつつも、仕方なく「やる」という答えを出した。

 もう一人の男子生徒はというと............寝てた。この男子確か睡野とかいったっけ?学校で起きてる姿を滅多に見ない男子だ。


 うつらうつらと船を漕いでおり、頷いているように見えたのだろう。既に「やる」側に数えられているようだ。


 元の世界には戻れないのなら、答えはほぼ決まったようなもの。しかし、可能性がない訳ではなさそうだ。戻るためには『この世界』の知識は必須だろう。

 私も迷った末、答えを出す。


「分かりました。私もやります」

(ただし、一般的な知識とある程度の戦闘が出来るようになるまでは......ね)


 そんな思いを胸に抱いて。

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