勇者の集まり 王の企み
あれから、数時間後。外は既に暗い闇に包まれている。私達、勇者(笑)集団にはそれぞれ一室ずつ王宮の部屋が割り振られ今はその部屋にいる。
王宮の部屋だけあって、内装はとても豪華だ。天葢付きのベッドやシャンデリアなんて初めて見たぞ、私は......。掃除も丁寧にされており埃などは全く見受けられない。因みに備え付けでお風呂(シャワーと湯槽の両方)と一応トイレもあった。
「............何か落ち着かないわね」
元の世界では、質素な一人暮らしをしていたせいか、場違い感が凄い......。何となく落ち着かなくて、そわそわする。そんな事を思っていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。
「桐生さん......ちょっといいかい?」
声の主は勇者(笑)集団の一人、山口
翔に連れられて向かった先は客間だった。勇者(笑)集団の他の二人は既に来ていた様だ。ただ、若干一名は舟を漕いでいるが......。
「えーと...集まってくれてありがとう。呼び集めた理由っていうのは分かってるとは思うけど、これからの事を考えるためだ」
たどたどしく、口を開いたのは翔だ。
まぁ、こんな状況だし、この馬鹿が仕切るのは当然といえば当然か。リーダーシップ持ってる人がいたら楽だな。
「これからの事なんて言われても帰る方法が無いのなら何もできないじゃない」
翔の言葉に返したのは、宇佐美鈴こと、鈴だ。不機嫌そうにツインテールに纏めた髪を弄っている。目元が少しだけ、赤くなっているように見えるが、泣いていたのだろうか?
鈴の言うことは尤もではあるのだが、少し視点が違う。恐らく、翔が言っているこれからの事というのは『勇者として戦う』か『戦わずにただいる』かのどちらを選択するか、という事だろう。
「ああ。今の俺達には何も出来ない。だから、選ぶんだ。戦うか戦わないかを」
「ま、そうなるわね。............私は戦うわ。今ここでうだうだしてた所で何が変わるわけでもない。元の世界に帰るためにも今、この世界で生き延びる事が先決だと思う」
ハッキリと言いたいことを言うと、鈴は唇を噛みしめ、下を向いた。
「俺もそう思し、戦う。とはいってもそれぞれの意思は尊重すべきだとも思うから一応聞いておきたいんだ」
「ん............俺も......やる。無理かもだけど」
おぉう!?寝ていた筈の睡野が突然、肯定の意を示した。突如、喋り出すのは心臓に悪いからやめて欲しい......。
これで、後は鈴だけだ。まだ決心はついていないのだろう。その視線は下を向いたままだ。そのままで、数分が過ぎた。意を決したように顔を上げた。
「私は......正直な所、戦いなんて分からないしやりたくない。だけどこの状況じゃ、戦わないなんて言えないわね」
命がかかってくるから不安なのだろう。それでも戦わなければならないのが分かっているためか、鈴は苦い表情をしている。
全員が『戦う』という結論を出した所で転移初日は終わった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
勇者達が話している同刻。【王の間】にて
「......どうじゃ?アルグよ。奴らは使えそうか?」
暗い部屋に響く冷たい声。声の主は国王__メイルスツ=ワルツだ。玉座に腰掛け、目の前にたっている男に声をかけた。
男__アルグが口を開く。
「今は話にならないな。弱過ぎる。戦場にだしたところで5秒もったら良いところだろう。......だが、潜在能力は高そうだ」
影の言葉に満足したようにメイルスツは怪しげな笑みをこぼした。
「それは上々。情報操作をし、嘘をついた甲斐があったというものじゃな」
「そうだな。明日からも抜かるなよ?」
「分かっておる。主の働きにも期待しておるぞ?ギルドマスター殿?」
アルグはその言葉には答えず、ただ笑みを浮かべただけだった。
夜は段々と更けていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます