戦士の墓
一人につき
だが基本は一人につき一つの武器が好ましい。その方が極められるし、半端にならない。現に人類最強の三大勢力たる一角を担う人物はあらゆる武器での戦術に長けているが、最終的には一つの武器に治まったという。
「その人を師匠に持つおまえが、まさか他の武器を手にするとはな。ミーリ・ウートガルド」
「あれ、俺の師匠の話したっけ」
いつ以来か、食堂でまたミーリとリエンが同席している。この緊急事態かつレアな現象に、周囲はまた注目し食べる手が止まっていた。何を話しているのか気になって、聞き耳を立てるので精一杯である。
「私の師匠も三大勢力の一人と数えられる人だ。おまえの話はその人から聞いた」
「なんだ。あまり名前出さないでくれっていうから出してないのに、そっちで話してるんじゃん……師匠め」
「安心しろ、名前は出さん。お互い名前を出すと、一月はまともな生活ができなくなる」
「だね。師匠が偉大すぎるってのも困りものだ」
「そうだな」
お互い箸を進める。ロンゴミアントとレーギャルンはミーリの両端でストローをくわえ、青髪の聖女はリエンの隣でただずっとミーリのことを見つめていた。ミーリはまったく気にならないようだが、ロンゴミアントが警戒する。
「ミーリ・ウートガルド」
「何?」
「ギッシュ・スルトは学園を去ったそうだ」
「ふぅん……」
それは一応知っていた。ギッシュ・スルトはミーリに敗れて数日後に、学園を自ら去っていった。無論これで
「気にするな、おまえのせいじゃない。あいつは敗北したという事実に怯え、逃げた弱虫だった。それだけのことだ」
「まぁそうなんだけどさ。できれば友達になりたかったよ、スルッチとも」
「……そうか」
食器を片付け、食堂をあとにする――と思ったが、リエンはわざわざ戻ってきて、再び席に戻ってきた。その行動に、周囲はまた驚愕する。
「ミーリ・ウートガルド」
「何?」
「一つ忠告だ。ウィンフィル・ウィンには気を付けろ。おまえを敵視している」
「あぁ……そう、ボーイッシュがねぇ……ふぅん」
デザートのプリンを口の中に直接容器から落としたミーリは、丸呑みにして落ち着いた。行儀が悪いと、隣からロンゴミアントに肘で突かれる。
「まぁ、いつものことだよ。なんか俺のこと嫌いみたいだし」
「……まもなく七騎集会があるだろう。そのときは気をつけろ、ミーリ・ウートガルド」
それだけを言い残して、二人の聖女は行ってしまった。二人が見えなくなったのを見計らって、緊張して固くなっていたレーギャルンの背中を軽く叩く。
「さて、じゃあ行こっか。午後から授業ないし」
「えぇ」
「はい、マスター」
彼は言った、独りにしないと。
彼は言った、俺が守ると。
彼は言った、俺はおまえの味方だと。
彼は言った、俺はおまえが大好きだと。
その言葉を、最期まで言い続けた。
そんな彼のことが大好きで、ずっと彼と一緒にいられればどれだけ幸せだろうと思っていた。ずっと一緒にいたい。ずっと、彼の側にいたい。
だがその願いは叶わなかった。
彼は病に侵された。病の神との戦いでうつされた菌によって。それはもう、不治の病。医者にはもう余命を申告され、安楽死さえ薦められたこともあった。
だが彼は最期まで生きようとした。少女との約束を果たすため、少女の願いを叶えるため、彼は生きることを諦めなかった。結局それは無理だったけれど、彼は死の間際、生と死の境界で、薄れゆく意識の中で言った。
――愛してる
その言葉を残して、彼は死んだ。少女は泣き崩れ、彼に返すことができなかった。自分の言葉を。彼にずっと言いたかった、たった一言を。
「……私もです、マスター」
少女は言った。
彼の墓の前で、冥福を祈りながら今。
今はない家からずっと遠くの丘の上に、ポツンと立っている小さなお墓。家の屋根だった木材の一部を削って作った十字に、花の輪を作ってかけてみる。
花より団子なミーリと違って、彼は花が好きだった。きっと喜んでくれるだろう。そしてきっと、許してくれるだろう。
今またべつのマスターといることを。そして今、そのマスターのことを――
「終わりました」
「言い残したことない?」
「はいっ!」
「にしても、いいところね」
エディオンからずっと北の、小高い丘の上。周囲には街もなければ村もない、ましてや人もいない。のどかで静かでゆったりとした、空気の綺麗な場所だった。
「昔は病の神がここを占領していて、汚かったんです。でもマスターと私で退治して、ここまで綺麗にすることができたんです」
「……じゃあ感謝だね。マスターとレーちゃんに」
おもむろに膝をつき、ミーリも祈る。胸の内でこの場所への感謝と、そして約束をした。
「さて、じゃあ行こっか」
「何て言ってきたの?」
「秘密ぅ」
「教えてください、マスター」
「教えませんっ!」
唐突にダッシュしていくミーリを、二人で追いかける。丘を駆ける静かな春風が、墓にかかる花の輪を揺らしていた。
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