vs ミカエルⅡ

 五人での共闘。そんな大人数では初めてだ。何よりそれぞれ別々の学園出身、連携の練習なんてしてないし、できるかどうかもわからない。そこは、それぞれの最強たる所以ゆえんに賭けるしかないだろう。

 だが一人、連携などまったく考えない人がいる。それが第一の問題だ。その人の協力を得られるかどうかが、この戦局を大きく変えるだろう。

「“比翼龍ワイバーン”!!!」

 対空迎撃用の一閃が、ミカエルを襲う。だがミカエルは翼から槍を射出し、それを撃ち落とした。

「最強先輩!」

「邪魔をするなよ、ミーリ・ウートガルド! こいつは私が倒す!」

 ダメだ、もう話を聞いてくれる雰囲気じゃない。おそらく戦いの場でなければ、話を聞いてくれるのだろうが、スイッチが入ってしまっては仕方ない。

「ヘラクレス先輩、あいつ地面に叩き落せますか」

「……できる」

「ヨーちゃん、イア先輩。俺と一緒に斬り込んでくれますか。胸の中心狙って、なんとか斬り込みを入れたいんで」

「了解」

「わかりましたわ!」

「よし……じゃあ、ゴー!」

 一斉に飛び出し、駆け抜ける。建物の屋上から屋上に飛び移ったヘラクレスは、ディアナの攻撃を相殺するミカエルの背後を取り、炎の翼を掻い潜って背中を掴むと、体を振り回して地面に叩き落した。

 地面に腹部を打ち付けて、ミカエルは一瞬、ほんの一瞬動きが止まる。その隙にミーリとイア、陽日ようひの三人は武器を構え、頭上を取った。

「“槍持つ者の投擲ロンギヌス・ランスフォーレン”!!!」

巨人殺しの小人剣エッケザックス!!!」

「“化血陣かけつじん”」

 三人の斬撃がミカエルに叩きつけられる。その刃はミカエルを貫けなかったが、炎の翼が消えてミカエルは唸った。ダメージがいっている。だがすぐさま反撃する様子を見せ、ミカエルは三人を退けさせた。

 だがそこに、上空からディアナが降ってくる。ミカエルの頭を鷲掴むと、龍殺しの剣を胸元に突き立てた。

「“巨龍魔ファフニール”!!!」

 剣閃がゼロ距離で決まる。その光がミカエルを包み込んで炸裂すると、その場一帯の瓦礫や小石が吹き飛んで平らになる。そんな威力の攻撃を受けたミカエルだったが、数秒後、なんともない様子で飛び上がった。

 正直今ので決まったと思ったミーリは、マンガやアニメの王道通りになってしまったとフラグを立ててしまったことを責める。だが怖いのは、隣から注がれている視線の方だった。

 ガッシリと、頭を鷲掴まれる。

「なんのつもりだ、ミーリ・ウートガルド……私の獲物だと忠告したはずだ」

「いやぁ、最強先輩。そうしたいのは山々なんですけど、時間もないんで……」

「時間がない? どういうことだ、簡潔に説明してみろ。納得がいかなかったら、まずおまえから倒す」

「いや、最強先輩俺に負けたじゃないですか――いってててて! わかりました! 話します! 話しますから! この手やめてくださいってばぁ!」

 ヘラクレス達に戦闘を任せ、ミーリはロンゴミアントの助力も得て説明する。

 アンデルスの対神兵器の開発。世界滅亡の霊術。最高位天使と七大天使。そして今上空に浮かんでいる七つのラッパ。わかっていることに憶測も混ぜて、簡潔に話した。

 話を聞き終えて、ディアナは再度ラッパとミカエルを見並べる。そして大きく剣を振りかぶると、調度目の前に飛んできたミカエルの背を斬りつけた。

 斬れはしないが、攻撃を受けてミカエルがのけ反る。そこに跳んできたヘラクレスが地面に叩きつけ、イアと陽日で再び全体重をかけて刃を突き立てた。

 だがまた刃を弾き、ミカエルは飛び上がる。ディアナは光をまとう刃を向け、そして放った。連続の剣閃がミカエルにぶつかり、火花と衝撃と爆煙を巻き上げる。

「状況はわかった。世界に滅亡されては、戦いを楽しむどころではないか……仕方ない、協力してやるが、ただし。私の邪魔をしたら天使は後回しだ」

「怖……あぁいや、了解しました」

「今なんて言った」

「了解しました。それだけですよ、ホント」

 少々歯切れが悪いようだが、ディアナは霊力で空中に足場を作って跳んでいく。そして上空から降り注がれる炎の弾と弾の間を駆け抜けて、そして連続で斬りつけた。

 金属音と火花を立てて、剣が折れてしまうのではないかという勢いで斬り続ける。切り傷の一つも付かないが、それでも押していた。ミカエルは文字通り手も足も出ない。

 そしてまた回避不能のゼロ距離で、鋭く輝く剣閃を叩き込んだ。二転三転しながら吹き飛ばされ、ビルの壁に大の字で減り込む。

「さすが最強先輩」

『負けてられないわね、ミーリ』

「べつに張り合うつもりはないけどね」

 嘘言いなさい、負けず嫌いの癖に。

 ミーリは跳躍し、ミカエルの元に一直線に突っ込む。大きく振りかぶって槍を突き立て、斬り払う。壁を転げて地面へと叩きつけられたミカエルへと降下し、頭を鷲掴んで地面に埋めた。

 そこに陽日が駆けてくる。頭を抜いて立ち上がったミカエルの胸に化血神刀かけつしんとうを突き立て、猛毒を流し込もうとする。だが鋼の肉体には効果がなく、即座に後退した。

「毒が届かない……あの中に染み込ませられればいいのだけど……」

「そのためにも、まず傷を作らないといけませんわね。そこから霊力を流し込めれば……」

 それは全員が思っている。

 だが、相手は炎の灼熱でも溶けることのない鋼の体。神に対する武器とはいえ、神霊武装ティア・フォリマですらなかなか傷がつかない。

 傷さえ与えられれば、そこを広げて致命傷を与えることができる。そう、誰しもが思うところだった。

 だがその傷がつけられない。ここまで猛攻をかけているが、どの霊力も届かなかった。灼熱と霊力による防壁に、どうしても攻撃力を削がれる。

「どうしよっかな……」

『ぁぁ……あれ、まだ終わってなかったの?』

 ミーリの肩で声がする。それはずっとかけていたオーロラのケイプで、ヘレンだった。あまりにも重さがないので、すっかり忘れていた。というか今まで黙っていると思ったら、寝ていたようだが。

『……あのお人形さん、固そう』

「だから苦戦しててさ。あいつに傷付けたいんだよね」

『……じゃあ、私を使ったら?』

 解決策が導き出される。

 先輩達に視線を送り、視線だけでコンタクトを取った。簡単なアイコンタクトなら、全学園共通のはずだ。憶えていてよかった。

 そうして取ったアイコンタクトで合図をかける。ヘラクレスが先行し、イア、陽日の順に駆ける。ディアナは剣を構え、いつでも剣閃を繰り出せる態勢。そしてミーリもまた、槍とケイプとを構えていた。

 翼から降らされる無数の灼熱の雨。その間を、イアと陽日は縫うように駆け抜けていく。体の大きいヘラクレスはただ直進するだけで何発と喰らっていたが、元々高い体温を持つ体には多少の炎などダメージにもならなかった。

 そんなヘラクレスが霊力で脚力を強化し、跳ぶ。最初の一蹴りでミカエルの目の前まで跳んだヘラクレスはミカエルの細い体を掴み取り、また地面に叩きつけようと投げ飛ばした。

 だがミカエルは翼を広げ、途中で停止する。だがそこにイアと陽日が跳び、刃を構えた。大きく斬り払う構えだ。

 それを見たミカエルは迎撃の体勢を取る。二人をその目でロックオンすると翼を変形させ、灼熱の大砲に変えた。そしてその砲身をさらに熱くし、霊力を溜める。充填から発射まで、五秒とない。

 そして発射――となる直前、ロックオンした二人の前に影が出る。それは上着の上から肩掛けをしたなんとも不思議な槍使いだった。足場にしていた屋上が砕けるほどの跳躍で、跳んできたのである。

 だが砲撃はもう止まらない。二つの砲口から灼熱の煌弾を轟かせて放つ。それをミーリはケイプで受け止めた。包み込み、数メートルの距離を押されながらなんとか止める。

「“黄昏る獅子の金盾ベルセルク・プロテクト”!!!」

 金色に色を変えた獅子の盾が、煌弾を倍にして跳ね返す。それをまともにくらったミカエルの装甲はわずかだががれ、鋼の装甲にヒビを入れた。

「チャンス!」

 ミーリの合図を受けて、三人が突っ込む。イアが渾身の一撃で斬り込み、装甲を欠けさせる。そのわずかな隙間に刃を突き立て、陽日は毒を流し込んだ。

 流し込まれた麻痺毒に、ミカエルは動きを鈍らせる。そこに跳んできたヘラクレスは傷口に指を入れ、無理矢理押し広げた。痛みがあるのか、ミカエルは必死にもがく。そしてまた翼を砲身に変え、放とうとした。

 だがそのまえに、ヘラクレスが空中に放り投げる。バランスを崩しながらもなんとか放った砲撃は、またミーリのケイプに跳ね返された。灼熱の煌弾が弾け、ミカエルの装甲をまた砕く。

 そこに迫る。十時の剣閃。厖大ぼうだいかつ強大な霊力の一撃が、ディアナの持つ剣から放たれようとしていた。

「“龍殺聖人伝説レゲノダ・アウレア”!!!」

 十時の一撃がミカエルを包み込む。轟音がその場に鳴り響き、突風を吹かせて周囲の建物を粉砕、吹き飛ばした。

 光の中で、ミカエルの装甲が砕けていく。ヒビ割れた部分から亀裂が生じ、粉々になっていく。全身を斬り刻まれ、ショートする。炎の翼は消え失せて、ミカエルは木っ端微塵に消え去った。

 ミカエルの消失を目で確認し、全員臨戦態勢を解除する。だがディアナは一人ラッパを見上げ、そして剣を構えた。

 それが正しかった。何せまだ、ミカエルは死んでいなかった。散っていた炎の粒が一か所に集結する。それはやがて全身炎の騎士となり、炎の剣と盾を持ち、翼を広げて滑空した。

「炎の熾天使とはよく言ったものですわね。もう炎そのものではありませんか」

「あれ、攻撃効くの……?」

 陽日の心配は的中する。

 突っ込んできたミカエルをヘラクレスが殴打したが、揺らめく炎の塊を殴ることができず、炎の脚撃に蹴り飛ばされた。

 打撃が効かないともなれば、斬撃も効かない。となれば、この場で繰り出せる攻撃は一つしかなかった。

「“龍殺聖人伝説”!!!」

 十時の剣閃が再びミカエルを襲う。炎の塊は散り、跡形もなく消え去った。

「やりましたの?」

 だがイアの期待は、すぐさま裏切られる。霧散した炎は再び収束し、騎士の形に戻って剣を振り上げた。灼熱の剣閃が、全員を襲う。

「こいつ……不死身の能力を……!」

 その場で飛び上がり、ミカエルは剣を掲げる。そして炎渦巻く刀身を振り下ろし、地上のその場一帯を焼き尽くした。

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