夜汽車の旅
神様討伐依頼を完了し、帰ってきたミーリ達一行。
着くとまず校門前にいたのは、
「あぁ、ミーリ。討伐依頼は無事終えたのか?」
「うん、やっと
「無論、もう終えたさ」
二人の言う罰。それは二か月前に修学旅行先で起こった事件を、当時現場にいた七騎五人が勝手に行動したことである。結果、解決はしたのだが、指示も命令もなく勝手に行動したことが問題視され、神様を二か月以内に五体以上討伐することを命令されたのだった。
二か月経った今、ようやく全員がノルマを達成したようだ。
「どっかお出かけ?」
空虚の側にある荷物を見て言う。彼女の隣には大きなキャリーバッグが立っており、背にはリュックサックを背負っていた。その姿はちょっと可愛らしい。
「今日から、家に帰省するんだ。これから夜汽車に乗って、三日の長旅だ」
空虚の家は武術の家である。東の和国ではかなり有名な流派らしく、さまざまな武芸に通じているらしい。
とりわけそこの一人娘である空虚は弓術が得意で、弓矢の
そういえば近々家に帰って、久しぶりに武術の稽古をするんだと言っていたのを思い出した。
そして同時、明日から学園が夏休み休校だということも思い出した。神様討伐で終業式も欠席である。
「ミーリも、今日から遠出するのだろう? たしか、師匠のところに行くのだったな」
「まぁね。こっちも五日間汽車の旅だよ。ところで二人は?」
「先生に今回討伐した神に関しての調査報告書を渡しに行ってもらっていてな。ここで集合して、直行するんだ」
「そっか。俺もこれからメンバーで集まって直行」
「そうか。ミーリの師匠がどんなお方なのか、正直気になるが、まぁ仕方ない。お互い、もっと強くなれるよう頑張ろうな」
「うん、そだね」
ちなみに彼女はミーリの師匠があのスカーレット・アッシュベルだということを知らない。元々ミーリが師匠のことを軽く話さないようにしているのだが、彼女には話す機会もなかったのだ。
きっと聞いたら驚くのだろうが、そこはまだ教えないまま、空虚とは別れた。
空虚と別れて学園の食堂へ。そこが今回の待ち合わせ場所。するとそこにいたのは、待ち合わせしている二人ではなく、リエンとエリアのクーヴォ姉妹だった。
「ミーリ・ウートガルド。今帰ったのか?」
「まぁね。これからすぐ師匠のところ行くんだけど」
「そうか、そうだったな」
リエンはミーリの師匠のことを知っている。リエンが師事する人も三柱の一人で、そこの情報で知ったらしい。
「私もこれから家に帰るんだ」
「あれ、帰らないって言ってなかったっけ?」
「あなたのせいですよ、ウートガルド先輩」
リエンの妹で一年生のエリアが言う。
彼女とは島から帰った後でかなり打ち解けたのだが、それでもまだ姉を
「姉様が先輩に恋をしていると聞いて、両親が姉様にお見合い話を持って来たんです。一般の人とは結婚させられないって。先輩が結婚宣言して両親を黙らせてくだされば、帰らなくて済んだのに」
「ははは……」
一般人、ではないけどね……。
それはごく一部の人を除いては、秘密である。
「気にしないでくれ、ミーリ・ウートガルド。今回私が帰るのは、それだけじゃないんだ」
そう言って見せてくれたのは、クーヴォ姉妹の故郷である国で開かれる武闘大会の参加申込書。小さな字で書かれた説明の部分は読まなかったが、優勝賞品の太字を読んで驚いた。
聖剣の神霊武装が、贈呈されるらしい。
「王族の召喚士が召喚したのだが、使い手が死んでしまったらしい。それで使い手を新たに決めたいんだそうだ。私はこれに参加して、もう一本聖剣を取ってくる」
「そっか。頑張ってね」
「あぁ、ケイオスまでに強くなってくる。おまえも修行を怠るなよ、ミーリ」
「そうですよ、先輩。姉様は必ず強くなります。女の子と遊んでばかりいたら、追い抜いてしまいますからね」
二人共、俺遊びに行くんじゃないんだから……一応。
そんな調子のまま、二人は食堂を後にしていった。ミーリはリエンが座っていた席に座り、他のみんなもそれぞれ座る。今回の討伐依頼の報酬でお茶をしていると、待ち合わせしていた二人――二組がやってきた。
「遅れてすまない、ミーリ殿」
ミーリ殿とは呼んでいるが、一つ下の後輩である。背も蒼燕の方が高いため、同級生に見られるが。
「待たせちゃったみたいだね、ミーリくん。レオくん」
オルア・ファブニル。空虚、リエン、蒼燕と同じく、学園最強の
その正体が三〇〇年ほどまえの戦争で勇姿を記した聖女、ジャンヌ・ダルクであることは、ミーリしか知らない秘密である。
それぞれ荷物を持っている三人が来ると、ミーリは少し首を傾げた。だが首を傾げるのは、三人もそうである。何せこれから行くというのに、ミーリは何も持っていなかった。
「ミーリくん、これから荷物取りに行くの?」
「うん? いや、俺は何も持ってく必要がないからさ」
「でも服とか……日用品とか」
「服は向こうにあるし、必要なものは全部そろってるよ。まぁ、自分のがいいんだったら、持っていった方がいいけど」
「そうなんだ……」
師匠が用意してくれてるのかな。
ちなみに三人はミーリの師匠が誰かを知らない。まぁ蒼燕と巌流の二人は驚くだろうが、神様として転生して数年のオルアは、スカーレット・アッシュベルの名前を聞いても、誰? となるだろう。
故にミーリ以外、それぞれの師匠像を作りながら汽車に乗った。時間はすでに日も沈むころで、発射して次の駅に着く頃には、空は真っ暗になっていた。
一日に二回も汽車に乗せられて、狭いところが嫌いなウィンは少々不機嫌。
それと代わってレーギャルンと巌流はとある事情から仲が良く、そこに玲音も混ぜてベッドに双六を広げて遊んでいた。
蒼燕は一人、車両の一つにあるバーで飲んでいた。国では一八からお酒が飲めるので問題はないが、そうしているとますますミーリやオルアより年上のようである。
オルアはというと、汽車の座席に座りながら、目の前に座っているミーリとロンゴミアントのイチャイチャ具合を見せつけられていた。
見せつけられていると言っても、お菓子を食べながら外を見ているミーリの肩に、ロンゴミアントが頭を乗せて腕を絡ませているだけなのだが。
「どしたの、オルさん」
「べつに? ただちょっとズルいなぁって思ってね……僕は修学旅行でも、デートできなかったのに」
「あぁ……ごめん。オルさん、他の女子と楽しそうだったから、いいかなぁって」
「そこは、強引に誘ってくれると、僕は嬉しかったな……」
珍しく、ちょっと
そうしている原因がミーリに対する好意であることを、ミーリ本人は気付いていた。彼女の気持ちはかつて、本人から聞いている。
だから実際は最終日にデートに誘おうかなと思っていたのだが、今言った理由と行先での事件とが重なって、誘えなかったのだった。
だからというわけではないし、特別というわけでもないのだが、今回の行き先ではオルアに一つ、ちょっとしたサプライズを用意している次第だ。もっともそれで驚いてくれるかどうかは、彼女自身の問題だが。
まぁそのサプライズが成功するかどうかは今後次第として、今は少し物思いにふけたい。考えるのはやはり、自分の彼女――ユキナ・イス・リースフィルトのことだ。
スサノオ、ナルラートホテプと、仲間を集めているユキナ。おそらくこれからも仲間を集め、ミーリと戦うために何かするつもりだろう。最悪、全面戦争なんてこともあるかもしれない。
そうなったとき、果たして自分が用意できる戦力はどれだけか。学園の生徒達を巻き込むわけにはいかないし、巻き込みたくはない。だがそうしたとき、自分の用意できる戦力はどれだけか。
今のところ、それは自分自身のみ。もしかしたら姉弟子と妹弟子の二人に話せば戦ってくれるかもしれないし、師匠も修行をつけてくれるだろう。
だがそれでも三人。こちらも集めるしかないのか、共に戦ってくれる仲間達を。
「大丈夫よ、ミーリ……」
前のオルアにも聞こえないヒソヒソ声で、ロンゴミアントが呟く。目も閉じ、口も少ししか動かさないので、寝言かと思った。
「私はあなたの槍……必ずあなたを勝たせてみせるわ」
「ありがと、ロン」
ロンゴミアントの頭を、髪の毛に指を通すようにして撫でる。そうするとロンゴミアントは嬉しいようで、ちょっとだけ口角を持ち上げた。
だがその行為もまた、オルアの機嫌を逆撫でる。
「どしたの」
「なんでもないよぉ、だ」
果たしてサプライズは成功するのだろうか。なんだかそっちまで心配になってきた、ミーリであった。
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